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令和に生き残った銭湯に行ったら、昭和も平成も逆戻りした

去年の年末のことだ。
突然、お湯が出なくなった。

何言ってるんだコイツ。なんてお思いでしょう?
私も何が起こってるか分からず、夫に至ってはその事態にガチギレ。

色々検証した結果、我が家の給湯器は天に召されたことが判明した。

繰り返すが、年末のことだ。
どこも事業所やってない。

幸いにも実家に帰る2日前だったので、予定を大幅に伸ばしての滞在を申請し、急場を凌ぐ事にしたのだが、問題はその2日間だ。

とにかく湯船に入れない、というだけで年末の冬の寒さが身に染みる。
体を洗う、だけじゃめちゃくちゃ寒い。


とりあえず、水のいらないシャンプーを使ってみるが、どうもさっぱりしない。
しかもアルコールがキツくて中途半端に洗浄力も強いから3歳児には使えない。

湯船。湯船に入りたい。

しかし、思いつく風呂に入れる場所は、3歳の子供を連れて行くにはハードルが高かった。

●フィットネスジム→成人以外利用不可
●スーパー銭湯→家から遠い。電車とバスの乗り継ぎで片道1時間以上かかる

たかが、湯舟に入りたいだけなのに。


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もっと近場で、気楽に湯船に入りたい


(銭湯ないかな)

生まれ故郷が田舎の温泉地ということもあり、私にとって銭湯は身近な存在だった。
家に風呂場があっても銭湯通いする子供がクラスの大半で、自宅風呂派だった我が家も何度か近所の銭湯に行ったものだ。

しかし、ここは都内(唐突な個人情報の暴露)
銭湯なんて、あるのだろうか?

疑問に思いながらもネットを検索すると、意外にも家から30分ほどのところに…あった!!
しかも、入浴料が500円以下の格安っぷり。

(令和の時代にまで、生き残ってくれてありがとう…)

私は、絶滅したと思われていた生物に遭遇した奇跡を噛みしめ、目頭を押さえた(嘘である)

しかし、何時に行こうか。
湯冷を考えると、夕飯後に行った方がいいだろうか。

否。すぐに行きたい。

夕飯の準備など放り出し、子どもと自分、二人分の荷物をトートバッグに詰めて颯爽と電動自転車にまたがる。

この時、私はまだ知らなかったのだ。
自分が訪れようとしている銭湯に、時空の歪みが生じていることに。




タイムスリップ


(ここは……)
ゴクリと、私は思わず唾を飲み込む。

令和の時代まで生き残ってくれていた銭湯。
風呂に入れない私たちにとって、救世主のような銭湯。

だが……


久々に見たよ。キミ

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(お釜型ドライヤー。もはやドリフ)


そしてキミ

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(THE SENTOU)


どうやら、ここは昭和のまま時間が止まっていたようだ。

私、令和に帰れるのかしら。
なんて慄きながらも、湯舟の魅力には勝てない。

2人分の衣類をロッカーにぎゅうぎゅうに詰め込み、扉を開けると、
蒸気が顔を撫でた。

(これこれ!これよー!!)

それは、心を掠めた不安を吹き飛ばすには十分だった。

一気に心浮き立ち、釣られて走り出そうとする息子の手をつかみ、ケロヨンの洗い桶と椅子を確保し、猛烈な勢いで体を洗う。

多分、それは私史上一番早かった。
子連れで体を洗う選手権があれば上位に食い込むぐらい。
それほど私は、湯船という存在に飢えていたのだ。


手早く泡を流して、雄大な富士山を背景にした、念願の湯船。
深さが分からないという言い訳で息子を差し置き先に入る。


芯からほぐれて行く、というのはこのことを言うのだろうか。
風呂って、こんなに偉大だっただろうか。

人類の英知。最大の発明。

温度が痺れにも似た感覚で足先から脳天にあっという間に伝わってくる。


そう。痺れ。

(…………熱い)


ほっとしたのも束の間。
熱い。熱いよこの風呂。
近くにあった温度計を見ると、44℃。

熱湯だ。

「えーっと……」

まだ湯船に入ってない息子。
入れる以外の選択肢は無いのだが……


「と、とりあえず、入ってみよっか?」

両手を伸ばして、恐る恐る、息子を湯船の中に引き入れると、息子は両眼をかっ開き、口をすぼめる。どういう感情だ。

しかし、どこか既視感を覚えるこの表情。
そうだ。沐浴指導の人形だ。
銭湯効果で平成生まれの息子まで新生児に逆戻りするとは。




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「ごごご、ごめん!!熱かったね!!」

慌てて引き上げるが、新生児のままだ。







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「お水ちょっと入れよか?ぬるーくなるよ」

慌てて近くにあった蛇口を捻ると、とんでもない勢いで水が吹き出してくる。

そこに息子を漬ける





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「まだ熱かったかー!!!」







そして、平成生まれの息子は語る

こうして、初めての銭湯は慌ただしく幕を下ろした。
ちなみに小正月が過ぎても給湯器は直らず、片手では足りないくらいの回数をその銭湯に通った。

給湯器が直る直前、息子は言った。

「まま。銭湯、もう行きたくない


熱いから」







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