旅立つ君へ
初めてこの曲を聞いたのは、小学校の卒業式だ。
穏やかで優しいこの曲は、私の中で別離と晴れ晴れとした寂しさを象徴する曲になっている。
「しゅんたが倒れた。もう長く無いかもしれない」
母からこのメールが入ったのはつい4日前だ。
私のしゅんたろ、という名前はこの愛犬から取った名前だ。
「しゅんたーろっ」とふざけて呼べば、彼は尻尾を振って身体を擦り付けきた。今でもなお、犬臭さとお日様の匂いが混じり合った香りが鼻孔に蘇る。
大学生から結婚して家を出るまで一緒にいたこの犬は、甘えん坊で、私のことが大好きで、私も彼が大好きだった。
もう15歳になる愛犬は、私が家を出て、そして息子を連れて帰省する度に老け込んだ。
別れの時を予感して昨年の年末に片道3時間かけて会いに行くと、
家を出て久しい兄達も、同じ思いだったのか全員集まり、滞在してる間はみんなで散歩した。
実家は冬になると、昼でも0℃いかないぐらい寒い。
みんなで寒い!寒い!!と騒いでも、どこ吹く風でしゅんたは雪の上を歩き、カチカチに固まった雪の塊を音を立てて食べた。
「こんな寒いのによく食べれるな」
「お腹壊すよ!」
そんな風に口々に愚痴を叩きながら、代わる代わるリードを持って隣に立った。
次帰る時には、こんな風に散歩できないだろう。
そんな思いを胸の内に抱えていたが、誰一人口にせず、終始陽気な散歩だった。
そんな彼は、2日ほど前、永遠の眠りについた。
「最後まで苦しそうだったけど、ようやく楽になれたのよ」
涙で震える母の声が、電話口で彼の旅立ちを伝えた。
ねぇ、しゅんた。
辛く苦しい最期だったと聞くけど、私はこの曲が、君の旅立ちに似合うと思うんだ。
穏やかに、晴れ晴れした寂しさを私たちに残して、空へと昇って行ってほしい。
旅の途中で、好きなだけ道草するといいよ。
道に生えた草を食み、落ちている栗のイガを器用に拾い、雪の積もる道を好きなだけ飛び跳ねて。
アレルギーが酷くて、ほとんど道草できなかったもんね。
君が、もし、旅を終えて、また生まれ変わったら、私達は必ず迎えに行くよ。
みんな、みんな、大好きだったから。
さよならを言うのは簡単だ。
でも、やっぱり泣いてしまう。
君がいないのは、とても悲しい。
とても、とても、寂しい。
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