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【毎日更新12】大切な女性との別れ

別れは突然やって来た。

仕事から帰ると彼女は、人知れず泣いていた。

彼女はいつも活発で、よく楽しそうに踊り出す。
そんな、天真爛漫なやつだった。

正直、そんな彼女を見るのは初めてだった。
ただ、聞いたこともないような悲痛な叫びと共に、ガタガタと辛そうに震えるばかり。

見た事のない、彼女の苦しむ姿。
もしかしたらその段階で、逃れられない「別れ」をもうじき迎えるであろう事を、私は心のどこかで覚悟していたのかもしれない。

専門の医者に来てもらい、身体の具合を診てもらう。
身体の震えは治まったものの、今度はどこを触っても、どれだけ声をかけても、何も反応が無くなってしまった。

医者「まずいですね」

昇咲「そんな。なんとかして下さい。
こいつがいなくなったら、明日から私はどうすればいいんですか。」

医者「もう何年くらいになるんですか?」

昇咲「もう7〜8年になりますよ!」

医者「そろそろ次に行くといくのも、選択肢としてはあると思います」

昇咲「そんな!あなたに僕たちの何が分かるんですか!」


私が覗き込むと、彼女の中から何かが覗いていた。

ゆっくり取り出してみると、それは見覚えのあるハンカチだった。
彼女が初めてうちに来た日に、買ったハンカチ。
2人の思い出のハンカチ。

「今日から2人、別々の道を歩いた方が良いのかな?」
私がそう問いかけながら、そっと顔を触ると、彼女は最後の力を振り絞り、優しい声で「ピー」とつぶやいた。

力の無い電子音が、「今まで、ありがとう」
そう聞こえた気がした。

そして、私は重い腰を上げ、新しい「洗濯機」の買い替えを決意したのである。

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