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教団X | 中村文則 | ☆☆☆☆☆

久しぶりの☆5つです。
ストーリーの構成。よくここまで書いたねという羨望。キャラクターの濃さ。の辺りから。まぁ、一番デカいのは読んでて面白いと感じたことですけど。
最初のうちは、セックスの描写がめちゃくちゃリアルで、しかもエロ本っぽい温度感?というか、卑猥さが際立っていて、なんかアレだなぁ、読むの微妙だなぁと思っていたんですけど、読んでいくうちに、そういうことはどうでも良くなっていました。
そういう濡れ場が描かれているのを読むのが好きな人は、これ読みながら勃起とかしちゃうんだろうな。私はそこまでべったりしたのは好きではないので微妙でした。

単なる洗脳の話ではない

このタイトルからしてカルト教団、洗脳、その中で蠢く混沌、みたいなイメージが先行するかと思います。私もそんな先入観を持ってました。
で、読み始めてみると、ある新興宗教団体が対立してるのが分かってくるんすよ。パッと見では北風と太陽みたいな構造をしてて、けどどっちも教祖と呼ばれる人はなんか変な感じがしてて。北風側の方はセックス教団みたいなノリで、性を軸に人を洗脳しているようなやり方をしてて。

で、その辺を読み進めていき、単なる洗脳の話ではないな、と思ったのが、「意識」とか、「原子」とかの部分。これちょっと面白くて、現在の自分を作り上げている構成要素は、3ヶ月も経てば全部入れ替わる、とか、人が死んで焼かれると空気中に自分を作っていた構成要素が飛んでいき、誰かに吸い込まれ、その人の構成要素になることだってありえるんです、みたいな話を教祖様が講話としてテーマにあげているんです。
この話自体はただ単に、この物語を彩る要素の一つです。というのは言い過ぎかなぁ。

けど、これが、私にとってはとても大きかったです。

人が死んじゃってもそれはただの現象で、地球規模で見るとただ一つの小さな出来事で、とか考えると、人が生きるとか、死ぬとか、それを重たく捉えるとか、なんか、違うよなと思いました。この本を読んで、私が持っていた価値観が変わった気がしたのかな。師の説法を聞くのってそういうことなのかなぁ。宗教って。そうだ、宗教ってなんだ。なんだろう。

宗教って

性善説だと、人は生まれてから死ぬまで、善く生きるはずで、自分で死ぬ事とか考えないはずだし、いろいろ辛いことだってそりゃあるけどだいたいにおいて想定の範囲内だし、
と思う一方で、
たまに、それを遮るような、自分の人生ってクソだなって思うような出来事があり、それがものすごい力で自分を歪めた時に、すがるものが無くて、そういう時に、一つの手段としての宗教があるのだと思います。
けど、死にたい死にたいと思いながら生きている人、死にたいくせに自分を殺める事が無い人、できない人はきっと、生にすがりついているわけで、その糧として、宗教が存在するのかなと思いました。

怖い。
死ぬのが怖い。
死のうと思ったのはなぜだろう。
そんな気分には、性善説で考えるのであれば、絶対にならないはずであって、それまで大きくなってしまった負の感情は自分の心と身体を蝕み、手のつけられないものになってしまっている。
これを抑えるための方法がわからない。今まで自分が培ってきた知識やスキルを総動員させても、到底コイツを殺す事ができない。

そんな時に、人は混乱し、なにかに甘えたくなるのかなと思います。

それが、宗教なのかな、と。一つの選択肢として。

洗脳について書きたい

単なる洗脳の話ではないよなと冒頭に書きましたけど、いやいや、洗脳についていろいろ考えさせられました。
セックスを通して自分の性欲を満たす。
教祖様が見てくれた。もしくは、セックスした相手が受け入れてくれたという部分から、自分の承認欲求を満たす。私は生きていてもいいんだ、私はこの世界の中だったら、生き続けてもいいんだ。
と思い描くのってある種自然で、「生きたい」「イきたい」「食べたい」「眠りたい」みたいな、三大欲求プラス生きる事に対する欲求を満たしてくれる場所、人に触れてしまうと、人間って簡単に洗脳されてしまうんだよな。それは時として人を殺める事も洗脳の延長線上にはあって、第二次世界大戦の事が何度か描かれていましたけど、あれも一つの洗脳だろうし、それがあったから日本人は喜んで(お国のために)死んでいったんだと思います。

洗脳って怖いよね。

自分に置き換えてみても、自分が良いと思っている価値観はきっと何かに洗脳されてきて、自分のものとして落ち着いてきたんだろうけど、

そういうのをぜーーーーーーーーーんぶ、いったん手放してみることで、
生身の自分が見えてくるんだろうなぁとぼんやり考えています。

絶対譲れないもの、例えば大好きな家族の健康、笑顔、絆みたいなものがすぐに思い浮かびますけど、もしかしたらそれ以外の価値観は自分にとってはどうでもいいことなのかもしれません。

と、文章で書くとあっけないな。譲れないものとかはまた改めて書こうと思う。

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