落語界に就職?

3月といえば、卒業シーズン。
巷では卒業を迎える小学生、中学生、高校生、大学生を見かける季節ですね。それぞれが新たな学び舎に、または職場へと希望を胸に巣立っていきます。そんな若者の姿を見かける事は、なにやら晴れがましく心に中で
「がんばれよ!」と声を掛けてあげたくなるもんですね。

そして落語界にも、夢を叶えるべく大いなる野望を胸に日本中から飛び込んで来る季節でもあるのですね。本来落語家になるのにいつの季節がいいというのは無いんですが、この時期に人が増えるということは、やはり卒業という節目に思い立つという人が増えている証拠なのかもしれません。

私の入門の時期はちょうど昭和が平成になる直前の昭和63年の11月でした。
その頃の入門者の年齢や経歴の割合を見ると、63年当時の落語協会の前座に
限りますが大学卒業からの入門者が7名、高校卒業からの入門者が3名、
中学卒からの入門者が2名 社会人からが1名、計13名全てが10代後半から20代前半の噺家の卵が楽屋で右往左往していました。 

〜未来をあえて切り捨てて入る道〜

これはどういう事かというと、噺家のなるためにその先にあるはずだった
「一般社会人としての生活」を捨てて芸の世界に飛び込む事なんですね。
入門から先は成功するのか、はたまたのたれ死にをするのかも分かりません
し、本人だけでなく家族兄弟にもそれを宣言してなくてはいけない訳なんです。

でもそれだけの覚悟で入る世界、さぞかし辛い日々が待ち受けているのかなと思う方も多いと思いますが、それがその実噺家になってその後辞めてしまう人というのはびっくりするほど少ないんですね励ましあって。それはなにが理由かといえば、きっとこれは前座という修行中の噺家見習い達と一緒に楽屋で過ごしているからなんだと思われます。どんなに辛い修行中でも、同じ立場にいる人間が身近にいる事で、「苦労しているのは自分だけじゃない!」と思う事が出来るのと、高座というストレス解消の場所があるからなんだと思われます。 

〜高座は前座でも主役になれる場所〜

見習い中の前座にも寄席で働いていると定期的に出演の機会が与えられます。もちろん出番は寄席の開演直後、まだお客様もまばらばな時間帯ですが、ここにいる間は誰にはばかる事もなく自分が主役になれちゃうんですね。その高座のほとんどは、客席からの反応などは無いのが当たり前ですが、ごく稀に笑ってもらえたり、自分の工夫が上手くいっていつもより話し終えた時の拍手が多かったりする、そんな些細な事が励みになるんです!

ですので、もし皆さんが寄席などにいった時に若い子が高座で頑張っているのを見かけた時は、たとえ面白くなくても、たとえ上手じゃなくても大きな拍手をしてあげてください!その拍手がのちの名人が誕生するキッカケになるかもしれませんよ! 

〜前座時代の仲間は一生の仲間〜

男女の親密度が増すと言われている「吊り橋効果」、
前座の噺家たちにも同じ様な関係性が有るのかと思われます。
吊り橋効果とは「出来事〜解釈〜感情」という人間の心の動きを
感情を先に入れ込む事で「出来事〜感情〜解釈」という勘違いを
作り出すという事。
つまり「魅力的な異性に出会う→これは恋?→ドキドキする」
とドキドキという感情が生まれるのを、異性に会った後に
ドキドキという感情を挟み込むともしかしたらこの人が好き?
「魅力的な異性に出会う→ドキドキする→これは恋?」に
入れ替えちゃうという事なんですね。

修行中の前座たちにも、
「芸の道に夢見る仲間と出会う→日々の修行生活→固い絆」
という流れで固い絆が生まれてきたのかも知れません(笑)

まだ私達には年齢的に経験がありませんが、私達の先輩たちが
同じ時期に修行をした噺家の訃報にふれた場面を何度も見て
きましたが、その悲しみ様というものは他では見たことにない
ほどの悲哀に包まれていたものでした。

定年というものが無い芸人の世界、仕事の依頼さえあれば
最後の最後の瞬間まで仕事が出来る世界。
しかしそれを維持するには、たえず自信を高める事を忘れないで
切磋琢磨する事なんですね。
私も先人に負けないように精進し続けたいです。

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