終わらないえんそく〜つれづれメモ9 V系丘にのぼりがち問題〜

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 いにしえのバンギャが90〜00年代のV系を「あの頃はよかったよね」的懐古で振り返る時に、頻出する話題がある。

「V系丘にのぼりがち問題」である。

 V系というものがネタとして扱われるようになってから、しょっちゅう「あの頃のV系は丘に登ってた」という話題がネットに上がるようになり、実際にどのくらい丘に登っているのか統計を取る人まで現れるくらいに、「V系=丘」のイメージが、V系に詳しくないけどかじってる程度の人にはあったようなのである。
 これは断言してしまってもいいのだが、V系四天王が登場してからV系がぶわっとテレビにでた98年〜00年に、メディアで大々的にプロモーションされていたバンドのせいである。具体的に言うとPIERROTとDir en greyとPlastic Treeのせいである。
 よって、彼らの登った「メギドの丘」、「アクロの丘」、「絶望の丘」は「V系三大丘」として、後世にも語り継がれている。

 さて、えんそくである。
「V系三大丘」を超えるインパクトのある丘はその後なかなか出てこず、V系の歴史は長くなったのに三大丘が四大丘になることもなく、時は流れた2015年。
 えんそくは丘に登り、バンギャに新たな丘の可能性を提示した。

 それが「ゴリラの丘」だ。

 ゴリラて。
 なんでよりにもよってゴリラ。

 だがしかし、この「ゴリラの丘」、なかなかの名曲なのである。V系ロックに必要な盛り上がり方がすべて盛り込まれていると言っても過言ではない。まったく、えんそくはこういう楽曲を作るのに長けている。

イントロ
Aメロ
Bメロ
サビ
Cメロ
間奏(ギターソロ)
2A’メロ
2サビ
Dメロ

 ちょっと寝不足で構成を分けたので後半やや自信がないが、とりあえずこれで。

 イントロは力強いドラムから入り、もうしょっぱなからゴリラ感満載である。ここで血が沸かないとバンギャじゃないまである、ゴリッゴリにハードなスタート。ギター・フレーズもノイジーでワクワクを加速させていく。そこにデスボでのシャウトが入り、もう完全にバンドもゴリラだしフロアもゴリラ。暴れ散らかしていく方向性だ。
 Aメロではパワー・コーラスに合わせて拳をあげたくなるし、2ブロック目では頭を振りたくなる。
 Bメロでは閉塞的な場所からの開放感が足され、手扇子ノリのしたくなるサビへのつなぎが最高。
 Cメロでは初心者にはウホウホしか聞き取れないという問題があるのだが、その後の流麗なギター・ソロで「なんか素晴らしい暴れ曲を聴いている」という感覚になるのがすごい。2A’メロで転調をするのも含み、本気で「力こそパワー」で押していく楽曲である。
 特筆すべきはDメロである。唐突にカノンになる。そう、クラシックのあれだ。カノン・ロックがめちゃくちゃ流行ったあれだ。
 ぶうがイイコたちの両手を上げさせ、左右に振らせる。ドラムはマーチ風で、正直めちゃくちゃかっこいいし「名曲!」という感じの楽曲の締めくくりなのだが、歌っている歌詞は「ゴリラの丘で いつか一緒に 手と手を繋いで散歩しようよ ずっと待ってる 花咲く春を」である。ふざけているのか真面目なのか最後までよくわからないという問題作だ。

 いや、この曲実は大真面目な楽曲なのだ。一度聴くとバンギャなら、どこでどう暴れればいいのか瞬時に判断がつく。つまり、V系にはお決まりの暴れ方が散りばめられているということであり、それって初めてライヴに参戦したひとでも絶対に楽しめるってことじゃない? という、「曲構成としての名曲」の側面がある。
 さらに歌詞だが、やたらゴリラとウホウホを連呼しているので面白い内容かと思いきや、よくよく読むと結構いいことを言っている。
 ゴリラとして(生物学的にゴリラとしてかはわからない)産まれた主人公が、触れたら壊してしまいそうな「貴方」に恋をする。

いつか貴方が死んでしまっても
「蘇らせる!」ってくらい求めてる
ボクが強く生まれ変わらしてやる
思い切り「ぎゅ」ってできるように
(「ゴリラの丘」/えんそく)

 ゴリラが故に「貴方」と同じ存在には努力してもなれない。でも、優しくしていたらもしかしたら「貴方」は自分を認めてくれるかもしれない。そして、「貴方」がもし屈強な自分と違って傷つき倒れたとしても、その時は「貴方」を、自分と同じくらい強いものとして「自分が」生まれ変わらせてみせる。そうしたら、きっと「貴方」に触れても壊れてしまうことはないから。
 そういった、悲しいながらも非常にポジティブな歌なのである。

 しかしこの曲は本当に、構成が百点満点すぎて聴くたびに笑ってしまう。そんなにかっこいいことある!?!?!? というレベルでもう、V系ロックとしてはこれ以上がないのではないかという「お決まり」を並べ立て、盛り上がりを何箇所も作り、それを壮大なうねりとして一曲のラストに集約していくという、「どういう風にプリプロしてたらこんなすごい曲が作れるんだ!?!!?」という、またしてもえんそくのプリプロ力の高さを見せつける楽曲なのである。
 なおイイコの中では「泣ける名曲」として君臨しているらしく、おそらく世界中のV系好きを見渡してもゴリラについて歌った曲で泣くのはイイコくらいなものだろう。いや、いい歌詞なんだけど。

 最近丘に登るV系も減っているので、「ゴリラの丘」はそろそろ「V系四大丘」にいれてもいいのではないかと思う。えんそくちゃんPIERROTに影響受けてるしね。

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