終わらないえんそく〜つれづれメモ3 夜空に託したメッセージ〜

 えんそくというバンドには、99年代の少年だった頃の気持ちを肯定する、という部分が強い。それは私たちがリアルタイムであの世紀末を過ごしたからなのだが、あれは間違いなく地球の歴史の上での「お祭り」であった、という事実が体験として深く根差しているからだと思う。

 さて、えんそくの楽曲にはそれぞれ、リンクが存在している。
 それは例えば「総統閣下」というキャラクタによって描かれたり、「5次元シティの市長」というキャラクタによって描かれたりする。
 簡単にいうとアルバムごとや世界線ごとのストーリーが存在しており、それらのリンクが各楽曲の歌詞やフレーズによって発見できるようになっている。ここにはぶうの好きなPIERROTが描いた神話の影響が見られるが、PIERROTがメジャー・デビューから3rdアルバムまでの軌跡をフルに使ってひとつのストーリーを築いたのに比べ、アルバム単位や楽曲単位で物語を区切り、それぞれが平行世界であるとしてリンクを見つける楽しみや、追いかけるに当たっての負担を減らしたところにえんそくの賢さがあると思う。

 そのリンクについて今後も何回か書いていくことになるが、まずは大まかに分けられた「物語」から外れている、独立した点同士がつながったリンクについて書いておきたい。なぜかというと筆者が最近このリンクに気づいて大興奮し、しかし誰にも理解してもらえなくて非常に寂しい思いをしたからである。道連れになってくれ。

 私が見つけた、物語に関わりがないリンクとは、「大銀河戦艦ナガト」と「日々、宇宙色」のリンクであった。

「大銀河戦艦ナガト」の物語はこうである。
 ガラミス星人の侵略に遭い、戦うことを決意した地球の民。残された唯一の戦力である「大銀河戦艦ナガト」を使用し、ガラミス星人へ戦いを挑むが、彼らの科学力はすさまじく、ナガトは撃破されてしまう。
 乗組員の「男」は、故郷に恋人を残してきていた。男は死に向かい合うその一瞬で、恋人のことを想う。ボクのことなど忘れて、幸せになってくれ。でも、君がボクを忘れたら、やっぱりボクは泣くのだろう、と。
 そして故郷で待っている「女」は、実は宇宙へ使命を帯びて旅立っていった男のことを待っていられず、とっくに新しい恋に落ち、幸せな家庭を築いていた。でも、旅立っていった男への罪悪感がたまによぎる。だから、夜空に向けてメッセージを送る。

 そのメッセージの中身については描かれていない。「大銀河戦艦ナガト」に関しては「大銀河戦艦ナガト After The End」という物語がその後紡がれており、ガラミス星人の科学力に敗北した地球人が辿った運命と、乗組員だった「男」、残されて別の恋に落ちた「女」の続きの物語が歌われている。
 その内容は割とグロテスクなので(そして続けて聴くことによって効力を発揮するタイプの鬱ソングなので)ここで言及することは避けるが、えんそくというバンドにとって「ナガト」という楽曲は、ただのパロディ曲ではなかったことが伺える。

「日々、宇宙色」についてもさらりと紹介しよう。
 この楽曲はアルバム『新世界』に収録されている曲で、当時一部の界隈で流行っていた「バンドメンバーみんなが順繰りに歌っていく」構成の曲である。1番ではぶうが、同級生もみんな夢をかなえて仕事に邁進しており、誘いを断られてしまったという内容を、2番ではクラオカが学生時代の可愛らしい恋の相手が結婚すると知った時の心境を、3番ではミドが同窓会で飲む酒が美味いのは、みんながちゃんと大人になれたからだと歌う。しんみりしながらも、「大人になるということの苦さ」をきちんと呑み下す楽曲だ。

 ロック・オペラである「大銀河戦艦ナガト」と、日常の生活の等身大の自分を歌った「日々、宇宙色」。共通点があるとはおよそ思えない二曲だが、ここには「メッセージ」という一点でリンクが存在しているのである。

「日々、宇宙色」の2番でクラオカが歌うパート。ここでは「女」から「男」へ送ったメッセージが登場する。

絵文字で「太りました」って笑ってる
「今度、苗字が変わる」ってさ
君ならきっとかわいいママになれるはずさ
繋いだ手はいつの間にか 離れていたよね
(日々、宇宙色/えんそく)

 ああ、そうか。
「女」が「男」に送る「メッセージ」は、これなのか。

 ものすごく腑に落ちた。
 おそらく「ナガト」で「男」へ向けて「女」が送ったメッセージは、これに類似するものであったはずだ。
 そして「女」が望んだリアクションは、この「日々、宇宙色」に見られるものであったはずだ。
 しかし「ナガト」の物語で「男」は落命し、「女」の望むリアクションは返ってくることはなかった。

 だからこそ「大銀河戦艦ナガト After The End」で女は現状に絶望し、空から響いてきた「男」の声に──それが偽りの希望に過ぎないとわかっていても──従うのである。

 このリンクについてはかなり各楽曲の設定が違うことから「強引なこじつけである」と断じることも可能なのだが、一方的に切り捨てることも難しいのではないかと思う。なぜならばえんそくは「日々、宇宙色」が収録された『新世界』を知己のアーティストにリアレンジしてもらった2nd 2ndアルバム『新世界』というものをリリースしており(なおセカンド・セカンドアルバムと読む)、そこでは「日々、宇宙色」のアレンジを犬神サーカス團が担当、この引用した部分で「女」の笑い声を入れるのは犬神凶子だ。そして「大銀河戦艦ナガト After The End」で「女」を演じるのも、犬神凶子なのである。

 はっきりと「この物語の一曲である」とされていない楽曲にも、それぞれのリンクが存在している。
 この発見は考察厨と呼ばれるジャンルのバンギャにとって、朗報ではないだろうか。

その4はこちら


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