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小説:54歳マイクエで奇跡をみた【3】自己啓発セミナーのワークなのにモンスター出現!!戦う??

第1話はこちらから

54歳マイクエで奇跡をみた【登場人物】

シュン 主人公  54歳独身 サラリーマン
クトー 旅の仲間 小中学生のラグビーコーチ
アンリ 旅の仲間 心理カウンセラー
ホリアーティ 旅の仲間 占い師
ナスちゃん 旅の仲間 看護士
ニバミン 旅の仲間 ダイエット指導者
神林(株)ゴールデン•スパイラル 開発担当
千川部長 シュンの出向先の元上司
籠井先生 シュンの小学校の恩師(担任)
平山先生 シュンの中学校の恩師(陸上部顧問)
魂の指南役 正体不明
片次 シュンの描く漫画の主人公
もやい様 片次の旅仲間

【敵】

いよいよ今日から旅が始まる。CDG(クリエイティング ドリーム グラス)を装着した。といっても、周囲から見れば研究者がかけるような大きなメガネをにしか見えないだろう。「おっと」レンズにメッセージが表示された。レンズに映るというより、見えている風景の中に現れたという表現が適切かもしれない。PCやスマホを起動した際に出てくるロゴをようなものだ。このメッセージは自分で好きなものに変更もできるが、僕は初期設定のまま【限界を突破する冒険の旅へ】にしている。レンズの向こうには、まだ家のリビングがそのまま見えている。テーブルから少し周囲を見渡してみた。一昨日取り込んだままの洗濯物が床に散乱している。慌てて窓の外に目をやる。僕はアパートの二階に住んでいるが、市の中心部から少し離れているので、見通しがよい。南側の窓からは下にある10台程度の車がおける駐車場が縦に伸びている。左側と駐車場の奥には農家をされているご近所さんの畑で、今だと葉物野菜や季節の花が咲いている。そんな牧歌的と言わないまでものどかな風景がCDGを通して、変化が起き始めた。駐車場は中世ヨーロッパ風の石畳の広場と代わり、奥は広大なぶどう畑に変貌している。周囲を見渡すと、僕の住むアパートと同じ規格の賃貸アパートがあるべきところには石づくりの塀や塔が存在している。甲冑鎧で武装した兵士たちがいても全く違和感のない景色だ。そして、景色のずっと奥の隣県との県境になる穏やかに連なる山は、尖った巨大な岩山へと変貌し、その岩山の先端は分厚い雲に覆われ、雷鳴が轟いている。冒険するならこんな雰囲気だろうと夢見る世界がそこにあった。
『すごい!ここまで現実とリンクし、再現するのか。』
大きな独り言を言わずにいられない。冒険が僕を待っているのだ。本来ならリビングでは食器たちが僕の活躍を待っているのだが。ここから興奮が加速する。変わったのは、景色だけではない。手元のマグカップを手にとった。真っ白で飽きのこないデザインなのだが、今や銅でできたような作りで、何やら凝った模様の装飾が施されている。中身はミルク入りコーヒーのはずだが、ワインにしか見えない。飲むときはくれぐれもCDGをはずすように気をつけよう。説明によると、旅が進めば同じリビングから見える景色も変化するという。また、実際は座っていても、歩くイメージをすれば、その風景を進むこともできるというのだ。ほかの人はどんな景色を見ているのだろう。
セットアップが終了したようだ。【限界を突破する冒険の旅へ】のメッセージが景色の中に静かに溶けていく。すると、夢をかなえるためのワーク(課題)が自動表示される。他にもグランドメッセージ(グループチャットのようなもの)が表示されている。もうすでに「ワークに取り組んだ」とか、コメントがでている。作家志望のまりちゃんは海外にある巨大図書館のような書斎の投影に成功したと興奮気味にコメントしている。絵文字の数でその度合いが伝わってくる。すでにJ・K・ローリングのような作家になった気分を味わっているのだろう。聞いただけでこちらもワクワクする。
僕は何から始めるか。とにかく僕には夢いや、自分に自信がない。できることといえば、せいぜい誰かの応援かな~と思いながら、ワークを取り組むことにした。

しばらくすると、
「シュン。 オラだめだ~」
と僕向けにダイレクトメッセージが飛び込んできた。クトーくんだった。彼は40歳前半と言っていたが、愛嬌たっぷり笑顔は、20代後半といっても通用する青年だ。旅が始まる前のグループ分けの際の彼の自己紹介は誰よりも印象的だった。勤めていた会社での失敗談など、YouTubeにアップすれば数字がとれそう内容だ。その笑いで瞬時にみんなの心をつかみ、グループのリーダーと決まった。自分とは正反対の存在、底抜けに明るくて、熱中できる何かを持っている。なんとなく過ごしてしまった僕の学生時代と違い、彼は高校、大学とラグビーで激アツな青春時代を送ったそうだ。ポジションはスクラムハーフ。いわば司令塔のような存在。みんなの心をワシ掴みできるのも納得だ。卒業後は某鉄鋼メーカー就職していたが、親の介護の都合で現在地元にかえり、小中校生のコーチをしているという。安定した収入を失くした代わりに、自分にあったビジネスを始めたいだが、何をすべきか迷い「ドリーム・スクラップ」講座に出会ったという。

さて、弱音の理由だ。少子化で選手集めが目下の悩みらしい。また、みんなを大いに沸かせたが、自分を鼓舞するためだったというのだ。体育会のノリなら得意だが、12人中9人が女性だとやりづらいらしい。セミナー参加者は女性が多い。男性はクトーくんと、僕、そしてもう一人だ。
だから、団員募集のチラシ作りはままならず、グランドメッセージへの書き込みもおぼつかないという。

そこで僕はクトーくんの助けになるならと思い、パーティを盛り上げようとグランドメッセージにいろいろなことを発信した。さらに、チラシ制作は得意中の得意だ。何せ数年ではあるが、デザイン会社にも勤めていたのだ。

「チラシをありがとう。」
とクトーくんは宙で踊っている。さすがオズウェイ。空を飛ぶイメージだって可能なのだ。彼は僕が作った漫画で団員募集を告知するチラシを持っている。僕はひどく疲れを感じていたが、感謝の言葉で報われた。誰かの役に立つことができるようになれば、それは素敵なことじゃない?とグランドメッセージに書き込みでもしようかと思った時だ。

「なーーんちゃって。こんな古くさいタッチの漫画を子供が喜んでみるかっての。バーカ。」

とクトーくんがチラシを引き裂いたのだ。チラシたちは悲鳴にも似たバリバリバリという衝撃音を発しながら、地面に落ちていった。僕は事態がのみこめず、声すら出なかった。先日、打ち合わせした時は、分かりやすいと絶賛してくれた気がしたが、、、頭が真っ白。
「シュン。何の実績もない見ず知らずのおっさんにオラが助けを求めるとか思ってんの?ありえないっしょ。」
全身が震えた。何で?そう口にしようとしたが、凍りついたままだ。次第に目線だけが下がる。一人勘違いして盛り上がってしまったのだ。
そこへ、ふいにアンリさんが現れた。アンリさんも旅の仲間だ。オンラインセミナーに参加して初めて話をした女性だ。「染めなきゃ…」とブツブツ言ってことが印象に残っている。その後数回話す機会に恵まれた、その都度、声をかけてくれてたこともあり、僕の中では頼れる存在だ。問題を抱えて離婚した後、心理カウンセリングの教室を開催するため、奔走していると言っていたが、きっとうってつけだろう。最終のグループ分けでも仲間になり、こうして旅の仲間になれて正直うれしかった。
彼女はカウンセリング用のファイルではなく、大きな鉄の筒を右脇にしっかりと抱えていたが、おもむろにクトーくんにビームようなものを発射した。オレンジ色の光の玉に青い稲妻が周回軌道している。そして、その先で大爆発を起こした。

僕は衝撃のでかさに腰を抜かした。アンリさんを振り返る。繰り返し、攻撃を続けた。攻撃の爆風と爆音に揺れ、戦場と化すオズウェイ。僕は身動きもできず、耳をふさぎ、夢なら覚めてくれと願うばかりだ。やがて静寂がもどり顔をあげた。彼女は僕に驚くべきことを告げてきた。

「シュンさん、奴はエネルギーヴァンパイア。敵よ。」

何を言ってるんだ?敵?何のことだ?アンリさんは透視能力を持っていて、オズウェイにいる仲間の心を読めるというのだ。僕の異変に気がついて、僕のヴィジョンに飛び込んできたという。何がどう異変なんだ?疑問符が増える一方だ。さらに疑問符が増える出来事が続く。土煙のむこうから舌打ちが聞こえてきたからだ。

「惜しい。もうちょっとだったのに。」
クトーくんだ。いや何か少し違っているように思えた。そんなことはどうだっていいが。あの爆発の中で何もなかったのか?僕の疑問など気にならないのだろう、クトーくんは話し始めた。
「やだね~旅慣れてる奴はこれだから苦手なんだよ。本物のクトーは現実世界のコーチングや親の介護に忙しくて、グランドメッセージには最初しか参加してねぇんだよ。」
現実世界?何の話だか全くついていけなかった。すると、アンリさんが僕に説明してくれた。
「目の前のクトーは偽物。あなたの不安が投影されたヴィジョン。そのヴィジョンにあなたはずーーーっと嘘を見せられていた。理解できる?」
僕の不安が投影?理解できない。どういうことだ?
彼女は続けた。
「エネルギーヴァンパイアはどこにも存在する。夢をみるなんてバカバカしい。お前にできるわけないじゃないか?って誰かに言われたことなかった?それよ。」
言われたことはないが、それは理解できる。
「もちろんシュンさん、あなたの心の中にもいる。実際、あなたは人生の大半、夢を見るなんて、自分には無縁なことだと自分にそう言い聞かせてきた。違う?憧れの道を進むクトーをサポートしてるなんて、かっこいい。でも、自分は他人から期待される人生を送ってきてない。そんな思いが不安や恐れとなり、具現化した。」
クトーが苦虫をかむ。確かに古くさいタッチの漫画だの、自分の漫画を誰かが読んで楽しんでくれるなんて想像したこともない。全ていつも自分が思っていることだ。
「エネルギーヴァンパイアはあなたを夢から遠ざけるのが目的。そしてあなたにエネルギーを無駄なことに使わせる。あなたはどれだけの時間を無駄にさせられたの?」
自分が目の前のモンスターを作りだしたのだという考えを少しだけ理解できるようになってきた。クトーくんは僕の存在など介さずだった。
「で、お節介なアンリさん。どうするの?」
「あなたを倒す!」
とアンリさんがにらみかえし、再びエネルギーをはなった。
爆発がまたも眼前にひろがり、僕は爆風をさけるだけで精一杯だった。息がつまる。しかし、土埃の間からクトーが姿をみせた。無傷だ。信じられない。まるでアニメを見ているようだった。ゲームの世界といってもいい。これが格闘ゲームなら彼のダメージレベルのゲージはほとんど消費されてないことだろう。クトーは敬意を払いながらも、上から目線で言った。
「アンリさん。わかってんだろ?」
不敵な笑みが浮かんでいる。僕はアンリの表情をチラ見した。少し緊張しているように感じる。
「わかってるくせに。。。自分じゃオラを倒せないってこと」
再び、アンリさんに目をやる。一瞬、眉間にしわをよせたのに気づいた。と同時にアンリさんの言葉が腑に落ちてきた。自分と正反対のクトーのような人の手助けができれば、それが自分を高めるものだと、勝手に勘違いしていた。自分の旅なのに、他人に依存しようとしていた。なんてバカなんだ、そうだ、そんなことしてどうなる?そもそも自分はダメなやつ、誰が期待してくれるんだ?等の声が頭の中で鳴り響く。その声がどういうわけだか姿を持ち、物理的に自分を襲ってくる。そんなところだろうか。不安やマイナス思考が自分を支配していることを感じた。
「シュン。おっさんが今さらねぇ、何したって無駄っしょ?自分でもわかってるんでしょ?」
クトーの言うことが図星すぎる。僕は悔しさを隠したいが、すでに手遅れだ。アンリさんは攻撃の手を休めないが、手前で一斉にはねかえされている。クトーが一歩ずつ近づいてくる。
アンリさんが僕にいう。
「戦うの!こいつの言ったとおり。私や仲間の武器や魔法がどんなに強力でも、あなた自身やあなたのエネルギーできたものは破壊できないの。」
ここで僕はようやく独り言から、現実に戻った。しかし口から出てきた言葉は弱弱しいものだった。
「戦う?」
ようやく発した一言だが、続いて愚痴が自分の中から爆発した。
「どうやって戦えと?こんなバトルが起こるなんて想定してないし、む、無理だ!」アンリさんにキレる理由はどこにもないのだが、感情を吐き出すしかなかったのだ。だが、アンリさんはおちついた笑顔を僕に見せた。
「戦う方法なら簡単。あなたの幸せだった時のことや希望を思い描くの。心の中に。」
まただ。終始、彼らの言ってることが理解できない。戦え!というのに、今度は幸せだったことを思い描けという。矛盾しているじゃないか。
「あなたの不安が具現化されているから、それを打ち消すようなイメージを描くの。」
アンリは続ける。
「シュンさん。ここはあなたがイメージした世界オズウェイ。あなたの心を幸せで満たすほど、不安を圧倒する武器がクリエイトされていく。もちろん、私もあなたのイメージの一つ。」

クトーが大笑いしながら、目の前に立ってごつい両腕で僕の首をつかみ、ぼくをも、も、持ち上げ始めた。
「もう手遅れだ。こいつは自分がひん死だってことをしっかりイメージしてる。幸せ? ギャハハハ。それを見つけに旅に出たんだ。イメージできるわけないだろ。」
クトーはもはや映画やアニメにでてくるような異形なモンスターの姿に変わっていた。僕は必死にクトーの腕をつかんだ。それはクトーから逃れようと足掻いてはいるのではない。しっかりつかまってないと、自分の身体の重さで縊死してしまうからだ。アンリさんは攻撃の手を緩めないが、クトーは微動だにしない。
「お前は他人に必要とされたがっているが、お前を頼る人間などいない。分かってるくせに。ギャハハハ」
反論の余地もない。僕は歯車という部品であって、それ以上の期待などされるはずもない。一人で大丈夫なフリをして生きてきたからだ。

ふいに現実世界が頭をよぎった。

「アンタはすごい。オレが言うんだから間違いない。」

と声が聞こえたからだ。聞き覚えのある芯のある自信に満ちた声だ。苦しさに霞んでいた視界がだんだん鮮明になり景色がハッキリしてくる。

そこは、駅近くの大きな交差点にある年季のいったビルの中の一室だ。15年前、僕はそこへ出向を命じられていた。そして千川部長と出会った。部長の噂は知っていた。厳しい人で嫌う人も多いということ。しかし県内では部長の在籍する店舗は、抜群の成績をあげており、部長の配下の人はみんなエネルギッシュだということ。僕は出向前、広報を担当しており、成績優秀な千川部長にインタビューを申し込んだ。しかし、当たり前のことしかしてないから、取材は時間の無駄と断りの返事だ。恨めしい気持ちだ。出向初日、すでに他の人たちは日常業務に追われていた。僕は具体的に何をするという指示を受けてなかった。また、部長も同じだった。活動内容を理解してるのは課長だったが不在。要するに二人が部屋に残されている状態だ。部長は、挨拶周りをしたいから急いで段取りをしてほしいという。課長は不在。手探り状態ですすめるしかない。前任者はじめ、知りうる人に連絡をとり、段取りをした。その後も僕は部長のいわれるまま手伝った。部長も何もわからないままだが、自分で道を切り開こうとしていた。僕は言われるがまま。
この言われるがままが、部長にはうれしかったらしいのだ。後で聞くことになったのだが、お互いに何をすべきかわからない状態のなか、手探り状態でスタート。自分の指示を曲解せず、手を貸してくれた僕の行動に感動したのだという。それ以降、何かにつけ部長はよく見てくれ、ほめるときは手放しだ。
僕はそれが心地よくもあったが、心底から信じられないことを告白した。すると部長は即答した。
「アンタはすごい。オレが言うんだから間違いない。オレにはアンタが必要。これからも頼むで!」
ためらいのない発言に、この人のために頑張りたい。就職して15 年。旬の時期を逃し切ってはいたが、初めて心に火が点いたことを思い出した。
大変だったこともあるし、部長の逆鱗にチームとして巻き込まれたこともある。2年の出向期間が終わる時は、部長と離れる寂しさを紛らすため、いつも以上に仕事に励んだ。元の職場に戻ったが、、、体調を崩し、職場を去ることになった。転職後のデザイン会社では、自分の得意分野を活かせる仕事もできたり、結果が出せた時もあった。そのたびに後悔の念がよぎる。部長に何ひとつ報告できないことだ。職場にはもちろん、部長にあいさつをしなかったことだ。 病んでしまったとはいえ、逃げるような退職だったからだ。とにかく仕事は違えど、心の中ではずっと部長の存在があった。
「やるんやないで、やりきるんやで!」と部長の口癖を僕はいつも自分に言い聞かせ発奮させてきた。 だから、結果を出せたのは部長のおかげだといってもいい。成功した自分と喜びを共有してほしい思いがあった。
「そうだ!僕はくたばるわけにはいかない。冒険の旅をやりきる。」
心が希望で満たされた瞬間のことだ。地面が光った。光は形をもって足元近くまで伸びてきたが、地面に吸い込まれていった。それから、湧き水のようにしみでてきて、幾何学模様を地面に描いていく。細く描かれた光の線は太くひろがる。次の瞬間!そこから一斉に何万本ともいえるような光の矢が発射されクトーを貫いた。
クトーは叫ぶまもなく消滅していった。僕はドサリと地面に倒れた。
オズウェイは元の穏やかな草原に戻っていた。戦いは一瞬にして終わったのだ。しかし何がおきたのだ?アンリさんも驚いた様子がわずかな視界の隅にみてとれる。
「今のは何? 何かオフィスのような映像を感じたけど、 それが今のと一体・・・」 と、話かけてくれたが、聞きたいのは僕の方だ。だが、もう疑問符が出てこない安堵からか、その場で眠りこけることになった。

《つづく》


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