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クラスターの景色

一年前メモしていたものを発見したので記録。

memo:場面だけを切り取る

〇メモの端っこの「陽性」

日直に一緒に入る日は珍しかった。
外は晴れていた。
同僚が笑っていたので、私たちはなにか面白い話でもしてたところで。
電話が入る。
同僚のメモの端っこに「陽性」とボールペンの黒い文字が見える。

『ペスト』で鼠の死骸が見つかったみたいな、、、感じだ。

「この人が?(陽性)これって?」とお客さんの対応をしていた男の上司が同僚に言った。

〇白い車洗車

大教室で大勢の職員が保健所の人たちに筒を渡される。
外は晴れていて、私は、マスクの片方のゴムを外し、窓の外を見て、唾を吐く。
駐車場の端っこで、天井がまあるいかわいい白い車を男性職員がホースで洗っていた。
大教室で、みんなが筒に唾を吐いている。
白い車を洗っている男性職員と若い女の子が二人が晴れた空の下にいる。
みんなが唾を吐いているのを見たくなくて、窓の外を見た。
私は白い車を囲んでいる、遠くから見ると楽し気な男女を見ながら
筒に唾を一生懸命吐いた。

〇続く日常

日常を失った場で、日常の電話が入る。
クラスターなど、、、、何も知るわけがない彼女は、私に試験合格の連絡をくれる。
「お世話になったから~。ありがとう」と喜んでいる卒業生の彼女は60代の美容師さん。
「Hさん、こんないいニュースをありがとうございます!!みんなにも伝えますね」と言う。
泣きそうだった。
こんな日常が続くことが幸せだった。

〇謝罪会見

大教室。
生徒に何と説明するのか聞いておきたくて、勝手に教室に入ったのだが、
「職員が多すぎる!」と、一緒に入った他の職員たちは教室から出されてしまう。
教室の一番後ろにいる私は、校長の謝罪と一緒に頭を下げる。
開け放された窓から流れ込む車の音とマイクの調子なのか、校長の声も生徒の声も聞き取れない。
後で、一緒に立ち会った上司たちに聞いたが、聞こえなかったと・・・。
ただ、ここから、生徒たちに情報がいき、動きが選択できるようになって、事務処理が大変になる。
この夜、濃厚接触者のリストがきて、対象になった副校長はじめ、管理職がほぼ出勤停止になる。
日も変わろうとする深夜、みんなで学校を出る。
真っ暗で顔も見えない、濃厚接触者になった課長たちに、しばしお別れですねの挨拶をする。

〇アンチ息子たち

私はまず、娘より息子に言う。会社のこと、仕事のこと。
高校生の息子は、お金を稼いだこともないからフラットに話を聞いて、
会社アホやなと言うし「お母さん、すぐに辞め」とか言う。
同僚の小学生の息子さんもアンチ化していると。
うちの息子に関しては、この一週間、弁当も夕食も作れなかったから
ますますアンチ化しているのかも。

〇娘とマスコミ

会社の近所のおばさんから、他でも同じようなことになっているのにどうしてこの学校は
名前や住所をさらされるのかと電話があって、答えられなくて、、、
直接でなくても、どこでどう迷惑かけているのか・・・恐ろしくなる。

マスコミにさらされて、でも私達はそれを目にする時間なんてなくて、テレビでやってましたけど
って言われても、ネットで見たと言われても

報道されたら、、、
子どもたちも何か言われるのではないかと落ち込んだ。

深夜、日が変わる頃家に帰ると、息子は寝ていて、娘は起きていて
報道のことには触れず
自分が書いた作文がコンクールに出るのだと言った。

お母さんがほとんどやっつけで書かした読書感想文の「羅生門」ではなく、彼女が勝手に書いていたネットの誹謗中傷の話らしい。

そして、ねっちのソウルドリンク「牛乳」を買い物にいけなくて切らした私に言ったこと。
「(朝ごはんの水分)お茶でいいよ」

毎日帰りが遅いので話す暇がなくて、車の中で朝話すと、、うちの会社のこと
「ネットニュースで見た」と言う。

〇藤井くん
ごたごたの最中に、二回目のワクチンを打ちにいく。
その日の夕方から発熱し、体が痛くて使い物にならなくなる。
ベッドに横たわって、眠っても、仕事ができない悪夢を夢を見続ける。
藤井風くんがNISSANスタジアムでやっているライブを流す。画面を見れず、目を閉じる。
次の日、復活した私は、ライブを見直す。
ちょっと、朝、涙が出る。

音楽

一か月営業できなかった。
そのことは忘れない。

でも、会社はなにがあってもなくなることはなく、まるで何もなかったかのように
続いている。

当時こんなメモをしていた。

一年後。
あんなに苦しい思いをしたのに、私たちはそれをほとんど忘れいている。

まだまだ感染者が増えている中で
近しい人たちは未だ感染せず、
いつでも感染する状況の中で働いている。

ちょっと
逞しくなっているような気。

アンディー・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んでいるところで
「上」から全然進まない。

上から器具で潰したら水が出たくらいの微生物くらいの存在かもしれないのに
世界には何の役にもたたないのに
単細胞の私らくらいのものに「感動」があったらどうしようといくらでも想像させる。

時々だけど
この世が美しいとか嬉しいとか幸せだとか
世界にも宇宙にも無意味な小さい私たちが感じるこのめちゃめちゃ尊いものは一体何のために?
これは何なんだろう。

この無数のストーリーは何のために?

そして
今日も星は綺麗。

息子は実家の庭を走り回り、灯篭を破壊し怪我をして病院へ。
「すみません」と病院へ迎えに行く。

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