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愛は伝えたほうがいい

 人間には愛を伝えたほうがいいときがある。
 一つ目は推しに相対するとき、二つ目はどうしても欲しい同人誌があるとき、三つ目はどうしても欲しい同人誌があるときだ。

 十七歳の時、どうしても欲しい本があった。
 どうしても、どうしても、どうしても欲しい本だったのだけれど、その時私は未成年で、その本は成人向けだった。
 私はその当時、その本を出してる作家さんのことが大好きで大好きで、買えるものは全て買い集めていた。どれも、これも、素晴らしかった。全年齢だろうが成人向けだろうが関係なく、その人の書いている本であるというだけで大好きで、面白さは保証されていたのだ。だから当然成人向けの本だって、喉から手が出るほどほしかった。
 でも買えない。買うようなことは出来ない。それは大好きな人に対する不義理であったし、これでも小学生の時からネットとズブズブな生活を送っていたので、年齢を偽ることがどれだけ作家に迷惑をかけるのか分かっていた。インターネットで十八歳以上ですか?にはいを押すのと、実際にリアルイベントで年齢を詐称して本を手に入れるのには天と地の差がある。でも、欲しかった。どうしても。だから、直接作家さんにコンタクトを取った。
 「わたしは今十七歳なのですが、」あなたの書く小説が大好きで今度出される成人向のものも手に入れたいと願っています。次に参加されるイベントの時には十八歳になっておりますので、本当に厚かましいお願いなのですが、もし良ければ取り置いていただくことはできませんか?とそんなようなことを書いたような記憶がある。ギリギリまで迷っていたのでイベント直前のメッセージだったが、大好きな作家さんには快諾していただけた。
 そのメッセージを送った、十七歳の時に参加したイベントでは全年齢の本だけを買わせていただいて、その次のイベントで千円札を握りしめてウキウキでスペースに向かって列に並び、「前回取り置きをお願いしたなれりです」と名乗った。そうしたら、そうしたら!
 なんと、「誕生日プレゼント!」と御本を譲っていただいた。困惑している間に後ろの人の進む列に流されてしまい、コイントレーに置いた千円も握らされ、私は人波に流されながら大声で感謝を叫ぶしか出来なかった。それはもう嬉しくて、嬉しくて、その思い出も含めて、購入した本は今でも宝物だ。
 もうその作家さんはジャンル移動されてしまってどこにいらっしゃるのか分からないが、もし今のジャンルでわたしが成人向を書いて、万が一未成年に取り置きを頼まれたら、成人するのが何年後であろうと取っておこうと思っている。彼女が私にしてくれたことを指針として、嬉しかったから、私も他の人に同じことをするのだ。

 未成年で、成年向けの本が欲しいなと思っている皆さんは、ぜひ一度取り置きをお願いしてみてほしい。もちろんそれは作家さんの善意からの行動だから最初からあてにするのはよくないが、もしかしたら取り置きをしてくれるかもしれないから。
 作者だって人間だ。自分の作品を褒められ、愛を告白されて、どうしても欲しいからとお願いされればものすごくうれしい。あなたが思っているよりも、愛を伝えてくれる人は少ないから。
 年齢を偽った瞬間作者はあなたのことを敵とみなすのだから、どうせだったら、作者に愛を伝える方を選んでほしいなと思う。

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