見出し画像

『環境変化の大きい時代に大切なこと』~飲食店の戦略的中期経営計画の立案~

0.初めに

 ここ数年、飲食店をとりまく環境に様々な変化が起きています。もちろんお客様の生活スタイルや価値観の変化もありました。単純に考えてもこれまで通りの運営スタイルでは時代の変化に合わなくなりつつあります。原価の高騰や収益構造や集客の仕方も変えていかないと存続も厳しくなってきています。こんな中どうしたらいいのか?分からない?となっている飲食店の方は多いかと思います。そんな方々の参考に少しでもなればと思い記事を書きました。

1.環境変化の大きい時代に大切なこと

2020年3月以降のコロナの影響もあり、飲食店を取り巻く環境が急速に変化してきています。例をあげると
 ・テレワークの浸透による昼間人口の変化(オフィス街・繁華街は減少、住宅地は増加) 
 ・大型宴会の需要減少
 ・アルコール需要の低下
 ・SNSの普及
 ・燃料費、円安等の影響による原価高騰
 ・人材採用の難易度アップ(募集の減少、採用費の高騰 etc.)
 ・少子高齢化、単身世帯、夫婦のみ世帯の増加
 ・デリバリ―アプリの浸透
 ・外食以外の競合化(中食市場の拡大)
   etc.
 と非常に多岐にわたって変化が起きています。

①こういった変化の大きな時代に店舗(企業)にとって最も重要なことは何でしょうか?

 一般的に企業はヒト、モノ、カネ、ジョウホウで成り立っていると言われますが、それらの中に最も重要なものはあるのでしょうか?
 ・人材採用・教育 :ヒト
 ・売上・原価(コスト)コントロール :カネ
 ・商品力、店舗(内外装) :モノ
 ・情報、マーケティング、宣伝 :ジョウホウ

素晴らしい人材がいたにも関わらず、なくなってしまった企業はないでしょうか? コロナ前に売上の高かったお店で廃業になったところはないでしょうか? とっても美味しい商品はあったけど、流行らなかったお店はないでしょうか? 最新の情報をもっていただけど、つぶれてしまったお店はないでしょうか?

 恐らく、ヒト、モノ、カネ、ジョウホウはどれも大切なものです。最近の新興企業はたいてい、このどれも持っていることが多いと思います。
しかしながら、そのどれも持っていたにも関わらず、失敗をしている事例は多々あります。
 という事は、どんなに良い人材や商品、情報をもっていて、資金があったとしてもそれだけではダメだという事です。
 逆にその中の何かが欠けていたとしても成功した事例は、よく見かけます。何が違うのでしょうか?

それは、その時に適した『正しい経営戦略』をとることができたか?どうかの差です。

 どんなに資金があって、素晴らしい人材がいたとしても、その時代に適した商品や販売方法を確立することができなければ、売上を継続的に上げることはできません。何かの偶然で大きな売上を上げられたとしても、適切な経営戦略がなければ、その後に継続的に売上を上げることはできないのです。

 環境変化の小さい時には、一度売上を上げる仕組みを確立することができれば、その仕組みで大きな変化が起きるまで売上を獲得することができましたが、環境変化の激しい環境においては、その仕組みがすぐに機能しなくなってしまいます。
 よって、環境変化の激しい時代において最も大切なことは何か?というと
『環境に適応し、適切な経営戦略を立て、すばやく実行すること』なのです。

2.適切な経営戦略を立て、実行するためには

 それでは、『環境に適応し、適切な経営戦略を立て、実行する』ためにはどうしたらいいでしょうか?当然ながら『適切な経営戦略を立てる」ことが必要です。この適切な経営戦略とはどういったものになるのでしょうか?

①適切な経営戦略とは?

 適切な経営戦略とはその時々に応じて変わってきます。また、将来的にも継続して売上を上げていかれるようにしなくてはいけないので、近視眼的な短期的なものであってもダメです。逆に10年先、20年先となってしまうとぼやけてしまい今何をすべきか?といった具体的な行動に落とすのが難しくなります。
 という事で3~5年先を見据えた中期的な経営戦略である必要があります。

②戦略を実行していくためには

 経営戦略を実行に移していくためには、計画にまで落としていく必要があります。すなわち、『戦略的中期経営計画』をつくるという事になります。

『戦略的中期経営計画』をつくると言われたら、もう、それだけでやりたくないと思った人が大半だと思います。書面化して作成するとなるととっても大変だと思いますので、そういった方は、この考え方のフレームを使い、自分の頭の中だけで考えるというだけでもいいので、この後説明する考え方は知っておいて欲しいと思います。こういうのを作るの好きな方は、かっちり書面化してもらえればと思います。

3.戦略的中期経営計画の作り方

 まずは大枠の流れを記載しますと
 ①将来の環境予測をする
 ②自店舗の将来のあるべき姿(必要な機能やノウハウも含め)を考える
 ③自店舗の計画を作成する

 になります。具体的な内容を下記に記載していきます。

①将来の環境予測をする

 中期的(3~5年先)な計画の作成ですので、まずは将来の環境の予測が必要となります。具体的には、
 ⅰ)世の中全体での変化
 ⅱ)自業態(店舗)ならではの環境変化
 ⅲ)立地による変化
を考えていきます。例を上げていくと

ⅰ)世の中全体での変化
 ・少子高齢化
 ・雇用や働き方の変化(法連の変化含め)
  テレワークの浸透、週休3日制の導入、最低賃金の変化
 ・価値観の変化
  人生観やお金、キャリアの積み方、カッコ良さやおしゃれさなど何に価値観をおくのか?エネルギー、環境問題のに対する考え方 etc.
 ・認知、情報取得ルートの変化
  これまでのテレビや雑誌といったものから、インターネット、SNS、ショート動画等のデジタルメディアへの移行
 ・テクノロジーの変化
  レストランのロボット化、IT化、デリバリーブラットフォームの浸透etc.

ⅱ)自業態(店舗)ならではの変化
 その業態ならではの、影響度の高い変化も予想していくことが必要です。
 ・競合の変化
  コロナ禍で大手が参入してきて競合の増えた焼肉業態やコンビニや通常の飲食店が参入してきたデリバリー業態など。
 ・原材料価格の変化
  特定素材を多く使う業態は、その価格変化の影響を大きく受けます。この辺りの今後の変化の予測も必要です。
 ・人件費や人材確保のしやすさの変化 
  業態によって、募集の集まりやすさや戦力となってもらうまでにかかる時間も変わってきます。場合によってはロボット化やIT化も早期に検討しなくてはいけないかもしれません。
 
ⅲ)立地による変化
 基本世の中全体の変化とリンクしてきますが、立地によってその影響度の差が出てきますので、それらを加味していきましょう
 ・少子高齢化のスピード
 ・昼間人口の変化
  近隣オフィスや繁華街の店舗の減少や住宅地での増加 etc.
 ・価値観や認知、情報取得ルートの変化のスピード
  デジタルデバイスの浸透スピードや情報伝達のスピードが客層やエリアによって差がある

といった事があげられます。

②自店舗の将来のあるべき姿(必要な機能やノウハウも含め)を考える

 さきほどの環境変化を加味した上で、その時に競合に勝ち、消費者に支持されるお店になっている必要があります。すなわち、その時のお店の状態を目標に設定していくということです。

この目標を設定する際の考え方について記載していきたいと思います。今回は単純な数値だけでの目標でなく、戦略的中期経営計画の目標ですのでいくつかに分解して考えていきたいと思います。大きくは3つ、さらに6つに分解していきます。 まずは全体像です。

ⅰ)戦略目標   a.営業構造の改善目標
         b.商品力強化目標

ⅱ)手段目標   c.人財能力向上
         d.組織構造改善目標
         e.組織風土改善

ⅲ)評価目標   f.財務体質改善目標

今回は、ⅰ)〜ⅲ)の概略と特に重要な戦略目標の内容について深掘りしていきたいと思います。

ⅰ)戦略目標
 自店舗を確実に成長させることのできる最も重要な「営業力」と「商品力」についての具体的な目標です。

ⅱ)手段目標
 戦略目標を達成させていくために必要な組織や人財について、どのように形成し、確保・育成していくのか?についての目標です。
 
ⅲ)評価目標
 策定された計画が十分な価値ある収益を獲得でき、好ましい財務体質を実現できるだけの内容があるか?を評価するための目標です。今回の目標は、将来にわたって店舗(企業)が存続してくためのものなので、単純にここだけの目標が達成されていても意味がなく、きちんと戦略目標や手段目標が達成されていくことが重要です。

さらにⅰ)戦略目標の中のa.営業構造の改善目標とb.商品力強化目標について深掘りしていきます。
 
①営業構造の改善目標
 全ての商売において、どんなに良い商品を作ったとしても売れなくては全く意味がありません。ここでいう営業構造とはより成長性が高く、より安定的で、収益を上げやすい「ビジネスモデル」のことを示しています。すごくシンプルにすると「売れる仕組み」のことで、飲食店においては「集客できる仕組み」になります。

「集客できる仕組み」とは、
 ・多くのお客さまに認知していただき
 ・興味を持ってもらい
 ・選んでもらい
 ・来店(予約)してもらう

仕組みのことです。ここをよりよいものに改善していく、目標が必要だという事です。
 
②商品力強化目標
 商品力とは消費者の心を捉え、購入したい(行きたい)と思わせる力であり、強化目標とはより魅力的な商品へと商品を強化する目標の事です。

一般的には

商品力=商品企画力✖︎生産技術力

ですが、飲食店においては商品には、サービスや雰囲気も含まれるため

商品力=(商品・サービス・雰囲気)企画力✖︎店舗での実現力

といった形で表現すること事ができると思います。店舗での実現力を向上させていく要素としてはc.〜e.の人財や組織風土に関連する目標となりますので、ここで重要となるのは、マーケットにあった(商品・サービス・雰囲気)企画力を向上させていくことです。

③自店舗の計画を立てる

一般的にうまく計画が立てられないといった場合に起きている事象は、次のパターンがほとんどです。
 ⅰ)目標が不明確
 ⅱ)ただしい現状を把握していない
 ⅲ)GAPを埋めるための方法がわからない

 
ⅰ)目標が不明確
 計画は何のために立てるかというと、目標を達成させるためのものなのですが、意外とこの目標が鮮明でないといった事があります。当然ながら、ゴールがわからないのに計画を立てることはできません。まずは、先ほどの戦略目標を明確にしていきましょう。

ⅱ)ただしい現状を把握していない
 一番多いのは、このケースです。現状を把握しているようで意外と正しい現状を把握できてないといった事が多いです。飲食店は特に店舗に従業員が立っているのでお客さまのことは全て把握しているといった風に思いがち
ですが、客観的にリピーターは何組きているのか?顧客層はどんな方が多いのか?評価や人気商品は?etc.意外と細かい実態は把握できていないものです。
  
ⅲ)GAPを埋めるための方法がわからない
 ⅰ)ⅱ)が明確になると、そのGAPが明確になります。ここまでくるとそのGAPを埋めるための施策を考える事ができるようになると思います。
ここでGAPが埋められない場合は、恐らく施策を考えるためのインプット(情報)が足りないだけだと思いますので、その場合は、そういった情報を入手できるネットワークを作るということになると思います。

 中期計画の作成になりますので、まずは3年先のあるべき状態から、2年先、1年先と順に落としていくのが良いです。そして、それを月毎に分解して目標設定をしていけば各月での目標も明確になっていくかと思います。
 あと重要なのは、常に環境変化は起きているという事。一度計画を作ったらOKではなく、適時見直しをかけていく事が必要です。

4.まとめ

『環境変化の大きい時代に大切なこと』『環境に適応し、適切な経営戦略を立て、すばやく実行すること』

◎適切な経営戦略とは3~5年先を見据えた中期的な経営戦略

◎戦略的中期経営計画の作り方
 ①将来の環境予測をする 
  
ⅰ)世の中全体での変化
  ⅱ)自業態(店舗)ならではの環境変化
  ⅲ)立地による変化

 ②自店舗の将来のあるべき姿(必要な機能やノウハウも含め)を考える 
  下記のように整理して考える。特にⅰ)の部分が重要 
  
ⅰ)戦略目標   a.営業構造の改善目標
           b.商品力強化目標
  ⅱ)手段目標   c.人財能力向上
           d.組織構造改善目標
           e.組織風土改善
  ⅲ)評価目標   f.財務体質改善目標

  ※営業構造の改善目標とは
   「集客できる仕組み」をよりよいものに改善していくこと

  ※商品力強化目標は
   商品力=(商品・サービス・雰囲気)企画力✖︎店舗での実現力
   主に(商品・サービス・雰囲気)企画力を向上させること

 ③自店舗の計画を作成する
  ・計画が作成できない理由は下記のパターン
   ⅰ)目標が不明確
   ⅱ)ただしい現状を把握していない
     特にここができてないことが多い。

   ⅲ)GAPを埋めるための方法がわからない
  ・まずは3年先のあるべき状態から、2年先、1年先と順に落としていく
  ・一度計画を作ったらOKではなく、適時見直しをかけていく事が必要

これらを考え方のフレームにして、今後の戦略を考えていただければと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?