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Vol.5 生酛(きもと)造りとは

※かつてNaverまとめに掲載していたのですが、Naverのサービスが終了するということだったので、こちらに移行しました。
日本酒を勉強すると必ず出てくる生酛造りとか山廃仕込みとか難しいワードがたくさん出てきます。その中でもなかなか理解することの難しい生酛作りについて記載していきたいと思います。

1.生酛(きもと)造りって何???

すごーく簡単に言うと「昔ながらの方法で造った日本酒」のことです。

昔は今と違って、お酒造りが科学的に解明されていませんでした。
杜氏さんの経験と勘で自然酵母や乳酸菌の力を引き出し、米と水からあのおいしいお酒を造っていました。その昔ながらの自然の力を引き出しながら造ったお酒が生酛造です。

科学的に均一な酵母や乳酸菌を添加しませんので、通常よりも温度管理や熟成のコントロールが難しく、酒母造りにかかる期間も通常のものが2週間にたいして、生酛(きもと)は1ヶ月かかります。手間も期間もかかる造り方でもあります。

また、自然の発酵過程に任せて作る為、様々な酵母や菌によって醸造されていきます。その事によて味わいが、速醸造りに比べてより複雑・濃厚になります。
管理が難しい面があるのですが、よりそこでしか作れない味わいが醸せるため、最近ではこちらにの生酛造りに原点回帰する酒蔵さんが増えてきています。

また、地元の米、地元の水、地元の酵母といったその地のテロワールを活かしたヨーロッパのワイン造りを意識した昔ながらの日本酒造りも見直されてきています。

参考:Vol.4 日本酒の造り方について

参考:嘉宝蔵での生酛造りの工程
 蔵人が愛情込めて手間暇かけて造っているのがわかります。様々な自然の力(酵母や乳酸菌)を取り込むことによってより複雑な発酵になり、より深みや厚みのある味わいになります。

2.どんな味がするの???

濃厚な旨みと、すっきりとしたキレの両方を持つと言われています。
これは、自然に存在する様々な酵母や菌を取り込みその中での弱肉強食の競争を打ち勝った酒母で仕込むので、通常よりも生命力も強く、複雑みも増し、高いアルコール濃度にすることもできるからです。

最近多い甘い香りのする温室育ちのお嬢様ではなく、頭の切れるガキ大将ってところでしょうか。(笑)

3.飲み方は???

昔に比べて技術があがり、きれいな味わいの生酛(きもと)造りのお酒も増えてきています。これらは、冷でもおいしいですが、やはり昔ながらの造り方ということで個人的には、常温か熱燗で飲むことをお勧めしたいです。

もともと江戸時代には冷蔵庫はありませんでしたら、冷(常温)か熱燗にして飲むしか方法はありませんでした。また、昔は一升瓶での流通をしてしませんでしたから、酒蔵から酒屋までは樽で原酒を運んできました。その運ばれてきた原酒を酒屋がブレンドしたり、割水をして販売をしていました。たぬきの置物が大きい徳利を持っていると思いますが、当時は酒屋の名前の入ったあのような大きさの徳利をもって酒屋で酒を買って持って帰るということをしていました。

時代劇で蕎麦屋でお酒を飲んでいるシーンがありますが、ちょっと割水した原酒を熱燗にして飲んでいたりするんでしょうね。食中で飲むならば、12~13%くらいの方が料理との相性もいいです。

武士の飲んでいた気分を味わいたなら、生酛(きもと)造りの原酒に10%くらいの水を加えて熱燗にしてみるのもいいかもしれません。

複雑なうまみが温めた方が、より活きてきますので、個人的には体温よりもちょっとだけ熱いぬる燗が一押しです。

4.生酛(きもと)造りと山廃の違いは?

日本酒の造り方を大きく二つに分けると天然の乳酸菌を使って仕込む生酛(きもと)と培養した乳酸を添加する速醸造りに分かれます。生酛(きもと)造りは速醸に比べて、自然の酵母や乳酸菌の力を活かして糖化と醗酵を進めていきますので、大変な手間と時間がかかります。

生酛(きもと)造りの工程の中に山おろしという、櫂で米をすりつぶしていく工程があります。一度に大量にできない為、少量ずつで何度も行わなくてならず、大変な重労働です。明治時代にこの工程を簡略化できないか?という事でその作業を廃止して造られたのが山おろし廃止酛(もと)でした。ほぼ生酛と同じような作用が働くのですが、実は仕上がりの味は微妙に違います。

まとめると、生酛(きもと)造りの中の山おろしの工程を廃止して同様の作用が起きるようにして造られたお酒が山廃造りです。

参考:現役の丹波杜氏が解説!「生酛」と「山廃酛」に関する5つの疑問

5.生酛や山廃とも違う『菩提酛』

昔ながらのお酒造りで生酛とはちがう『菩提酛』造りというのがあります。最近この菩提酛のお酒もでまわってきていますので、ちょっと解説したいと思います。
生酛造りは酛を作る段階で空気中の乳酸菌を取り込み一緒に育てていきますが、『菩提酛』は別途「そやし水」といったものを作ります。これは、水につけた生米の中に少量の蒸したお米を笊籬(いかき)に入れて漬け乳酸発酵させます。ここで出来たお水(乳酸発酵水)を仕込み水として使って酛を作っていきます。最初から乳酸の多い状態から仕込めることから夏場の暑い時期でも仕込みができるといった特性があるそうです。

参考:菩提もと - Wikipedia
   菩提酛造りの全盛期であった永享期から嘉吉期(1429年〜1441年)に原本が成立されたとされる「御酒之日記」


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