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【良い宗教と悪い宗教】マルクス・ガブリエル(5)

今回のテーマは、宗教です。

WHY THE WORLD DOES NOT EXIST”の第5章を読んでいきます。

現代においても、イスラム原理主義をはじめ、様々な宗教が世界情勢に大きな影響を及ぼしています。

今回考えるのは、

良い宗教とは?

悪い宗教とは?

です。

new realismの観点に立つと、今までは見えてこなかった差が、クリアになってます。

変な宗教に悩んでいる人は必見です!

宗教

まず、宗教とは何でしょうか?

宗教には、2種類あります(p154)。

1つ目は、すべてを貫いていて、すべてを支配していて、すべてを秩序立てている原理をイメージ化する、というものです。

これには、世界はすべて自然法則で説明できる、とする極端な科学万能主義的世界観も、当てはまります。

2つ目は、無限なものに対する私たちの感性を表現する、というものです。

new realismにしたがえば、1つ目の宗教は悪い宗教、2つ目の宗教は良い宗教ということになります。

1つ目の宗教は、万能の原理が存在することを前提し、それをイメージ化するもので、metaphysicsの一種です。

しかし、new realismによれば、すべてを包摂するような原理は存在しません。

物理的な自然界であるuniverseや、人間の精神活動における意味の世界を、すべて統一的に説明するような原理は存在しません。

それこそが、この本のタイトル”Why the world does not exist”であり、すでに証明してきました。

したがって、存在しないものをイメージ化して信仰するというのはナンセンスです。

また、信仰の観念を、物理的な世界に適用することは、自然科学にも抵触するので、それもナンセンスです。

だから、悪い宗教です。

2つ目の宗教は、私たちの感性、つまり意味の領域を取り出して、人知の及ばないものを想定し、それに対する我々の感性を表現しよう、という宗教です。

これは、意味の領域というdomain of objectという範囲内での問題なので、new realismからして、建設的な試みです。

良い宗教について、もう少し見ていきましょう。

良い宗教

例えばキリスト教は、神を想定します。

すべてを包摂するような原理を想定しているので、これは悪い宗教でしょうか?

一見そう見えますが、もう少し考えてみる必要があります。

聖書は、偶像崇拝を禁じています(p162−163)。

キリスト教において、神は、深遠な意味を持っており、私たちの見方を超越しており、とらえきれないものだから、モノに表現することは誤りだからです。

世界をつらぬく神は、人間が捉えられるようなものではない、ということです。

そうすると、これは、「すべてを包摂するような原理は存在しない」というnew realismの見方を別の言い方で表現したにすぎません。

したがって、キリスト教は、統一的な原理として神の存在を認めたというよりは、そのような神は人間の認識を超越するものである、ということを受け入れて、そのような無限なるものに対する私たちの感性を表現したものである、ということができます。

そうすると、このような形をとった場合、キリスト教は、良い宗教だということになります。

一方、偶像崇拝を行い、人が作った像について、「万能のパワーを持っている」、などと言って、像に触れたら幸福になる、病気が治る、砂が不老不死の薬に変わる、などと言う宗教は、悪い宗教です。

なぜなら、意味の領域、人間の意識に寄りかかって成立しているdomain of objectと、自然科学が支配する領域、人間の意識とは独立して存在しているdomain of objectとを混同しているナンセンスなモノだからです。

さて、人生の意味の追求という観点から見ると、悪い宗教と良い宗教は、どのような回答を与えるでしょうか(p181)。

悪い宗教は、世界の原理はコレだよ、だから、コレを信仰すれば、人生は万事オッケーだよ、と答えます。

例えば、世界は仏様の意思で動いているので、このお寺に毎日通って、拝み続ければ、仏様が救ってくださるよ、という感じです。

理論上も実際上も存在しない、世界の根本原理というものが、寺という具体的な場所に存在していることを前提しているので、ナンセンスです。

端的に言うと、寺で祈れば世界を動かせる、というめちゃくちゃ傲慢な考え方です。人間には、世界を貫く仏様を理解できて、その意思を動かせる、と言うのですから。

一方、良い宗教は、世界の原理は人知が及ばないよ、だから、自分の小さな世界に囚われずに、最大限に視野を広げて、人生の意味を捉えていこうね、と答えます。

例えば、人間には、神を理解したり思い通りにすることはできないよ、だから、聖書を読んで、人知を超えた視点について学んで、あなたの人生を広い視野から捉えてみたら?、という感じです。

世界の根本原理が存在しない、ということを、神は人知を超えている、という形で説明し、人間が作ったちっぽけな世界観を否定し、広い文脈から人生の意味を捉え直すことをサポートするモノなので、有益です。

まとめ

以上、良い宗教と悪い宗教についてみてきました。

new realismの「世界は存在しない」という原則に反する宗教は、どこか傲慢で、支配的で、カルトっぽいです。

new realismの観点に従えば、変な宗教から身を守りつつ、人生の意味を大きな視野から見つめ直させてくれる良い宗教との出会いを期待しやすくなるかもしれません。

お読みいただきありがとうございました。


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