【ビジネスのための現代哲学】マルクス・ガブリエル(2)
はじめに
今回取り上げるのは、マルクス・ガブリエルの著書”WHY THE WORLD DOES NOT EXIST”の第1章です。
彼の哲学の目標は、「世界をありのままにとらえる」ことで、そのために彼が提唱した世界のとらえ方がnew realismでした。
第1章では、new realismを理解するのに必要なコンセプトを学びます。
Object domainとは?
new realismにとって、中核となる概念が、object domainです。
1特定のものごとを含んでいること
2それらのものごとを結びつけるruleが存在する
ようなものごとの集まりを指します(p23)。
例えば、全ての数字とか、左手と左手の指、リビングルームと机やソファやテレビなどがobject domainとして挙げられます。
もう一つ重要な概念が、universeです。
universeは、object domainのうち、自然科学の法則が支配しているものごとの集まりを指します。
地球、太陽系、銀河、宇宙空間などは、典型的なuniverseです。
しかし、universeに含まれないものもたくさんあります。
例えば、フィクション小説は、自然科学の法則にしたがって、本の成分を物理化学的に分析したとしても、全く意味がありません。
したがって、universe に含まれません。
あらゆる人間にとって意味のある人工的なものは、自然科学的に分析してもナンセンスなものばかりですよね。
それらのものは、universe には含まれないのです。
worldは、全てのdomainのdomainです。
ガブリエルの主張は、このような世界は存在しない、というものです。
Materialismの問題点
さて、materialismとは何でしょうか。
これは、全ての存在するものは物質によって構成されている、という主張です。
一つのルールが世界を全て説明するという考えなので、metaphysicsの一種ですね。
このmaterialismは、universe、つまり、自然科学の法則が支配しているdomainおいては、大変良く当てはまります。
しかし、他のdomainに当てはめようとすると、途端にナンセンスになってしまいます。
例えば、妄想。
妄想は、脳の状態であり、脳の状態は物質だから、妄想も物質により構成されている、ということになります。
では、理論はどうでしょうか?
理論も、同じく、脳の状態である以上、物質により構成されている、ということになります。
materialismで世界をくくってしまうと、妄想と事実を、区別することができなくなります。
あらゆる概念は、脳の状態だ、と言ってしまって終わりです(p31)。
しかし、これは明らかにナンセンスです。
概念の中には、意味のあるもの、論理的なもの、無意味なもの、非論理的なものなど、色々あります。
そして、それらを区別することは極めて重要です。
そういうdomainを認識する際には、materialismは役に立ちません。
materialismは、概念というdomainを説明できるルールではないのです。
したがって、materialismで世界の全ては説明できません。
Constructivismの問題点
次に、constructivismの問題点を見ていきます。
constructivismは、それ自体として存在する客観的なfactは存在せず、全てのfactは私たちが組み上げたものに過ぎない、という考え方です。
この考え方は、物語などの文化作品にはとてもよく当てはまります(p40)。
しかし、universeには当てはまりません。
地球は、明らかに私たちの認識がなくても存在していますし、このnoteを書いている私は、あなたの認識がなくても存在しています。
地球の存在や私の存在は、純然たるfactであり、それ自体として真実です。
constructivismは、自然科学のルールが説明するdomain、つまりuniverseでは通用しないのです。
私たちの認識プロセスのうち、確かに一部分は私たちの脳が勝手に組み上げるものですが、それを根拠に、世界の全ては私たちの脳が勝手に組み上げたものだ、というのはおかしいです。
世界の一部、例えばuniverseは、私たちの脳の構築プロセスから独立して、間違いなく存在しています。
constructivismは、世界のうち、ごく一部のdomainにしか当てはまらないルールであり、それを他のdomainにまで適用すると、途端におかしくなってしまいます。
まとめ
domainという概念の重要性がよく分かりました。
domainとは、ルールで相互に関係付けられるものごとの集まりでした。
自然科学で説明するとうまく行くdomain(太陽系など)もあれば、そうではないdomain(概念、文化)もあります。
リビングというdomainに自然科学のルールを適用して、椅子の重さやソファの原子を観察したりするのは明らかにナンセンスです。
リビングというdomainに含まれる椅子や机やテレビは、生活空間というルールをもとに観察してはじめて、それぞれを意味のあるものとしてリンクさせて理解することができます。
私たちが絶対的なルールだと思っているものは、実は一部のdomainにしか当てはまらないものだったのです。
このように、様々なdomainの存在を認めるのがnew realismです。
それでは、new realismの立場を使って、第2章ではさらに、存在について考察していきます。
お読みいただき、ありがとうございました。
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