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第138回 マイトナーの煩悶

フリッシュは渡米前にストックホルムにいる叔母、リーゼ・マイトナーに電話をしました。
「叔母さんもアメリカに来て原爆開発を一緒にやらない?」
マイトナーは驚いて答えました。
「私はそんな殺人兵器を造る気はないわ」
「どうして?ナチスが先に造ったらユダヤ人が全員殺されてしまうんだよ。それに僕たちが発見した核分裂が基礎になっているという話だし・・・」
「ロベルト。残念だけど私は原爆ができない事を祈るわ」
「・・そうかい。叔母さん、それじゃ元気で」
そう言ってフリッシュは短い電話を切りました。自分は同朋ユダヤ人のためにやらねばならないという固い決意がありました。
電話の後でマイトナーはベッドに倒れ込みました。あの時、自分たちは真理を求めてウランの実験をした。核分裂するというのが驚きであり、発見だと思っていましたが、世界はその巨大な爆発力に注目し、とても恐ろしい爆弾を造ろうとしている。
「私が求めた事は間違いだったの?あの時、ハーンを誘ってウランの実験をしようと言わなければ良かったの?」
マイトナーはずっと自問自答していました。(続く)

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