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スミレミントグァバの香り

スミレ×ミント×グァバ

 トロピカルフルーツの一種であるグァバの旨味と瑞々しさを、スミレの甘さと柔らかさが上手に引き立て、共存している。ふんわりと香りながらゆったりと揺蕩う煙を目前に、私は私の口腔と鼻腔に残る爽やかさを感じる。これはミントの証拠だ。トロピカルフルーツのフレーバーはともすれば青臭くなりがちなのだが、ミントの作用だろうか、ほんの僅かも感情に障ることなく私は贅沢にも世界の良いところだけを搾取する。
 私の唇からゆっくりと伸びていく薄い煙は、天井に星のように吊り下げられた彩色豊かなトルコ洋燈の筆に描き込まれてまるでカンバスのように見える。点描画家の筆は、ただ透明なだけの水や無機質な建造物をさえ無数の色の組み合わせで描き、視力0.2以下の私の目ではとても気づかないような無限の可能性たちを優しく教えてくれる。煙のカンバスは、しかし儚くほどけて一瞬ののちに消え去ってしまうような幻。夢のような時間。
 今この瞬間だけ、私は身体中が理想に満たされて美しさを感じることができる。このようなものになりたいのだ、と私は思い描いたそれに成り代わったような気持ちになって不満足な自分を充足させられる。今日や今日迄の悔恨、明日の課題も忘れて、この瞬間はいつまでもなんて続きはしないのだということも忘れて、私は私が生きている今この瞬間だけを噛み締める。

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