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電車で泣いた「極悪女王」Netflixの熱狂

Netflixは、どれほど僕をアツくさせれば気がすむのか。一気見した話題作「極悪女王」で、またしても電車内で涙を流してしまった。

本作では、全国民に嫌われた極悪非道レスラー・ダンプ松本の生きざまを中心に、昭和の女子プロレス界をシリーズ全5話で描く。

主人公こそダンプ松本さんであるが、主役が誰かとは決められないほど、キャラクターの濃い登場人物が数多く登場する。

かつて日本にあった女子プロレス団体・全日本女子プロレス(以下、全女)の経営陣である松永兄弟。

全女の象徴であったタッグチーム・ビューティペアのジャッキー佐藤さんに憧れて団体へ入り、王道のレスラーとしての活躍を夢見ていた、のちのダンプ松本こと松本香さん。

そしてのちに、ダンプ松本が率いた全女のヒールユニット・極悪同盟に対して、正攻法で挑むタッグチーム・クラッシュギャルズの長与千種さんとライオネス飛鳥さんと、挙げればキリがない。

昭和58年生まれではあるものの、僕自身は、ギラギラした時代の昭和プロレスを見た経験はない。それこそ、小学生の頃に見た「ダンプ松本」はテレビリポーターで活躍されていて、ほがらかな笑顔が印象強かった。

しかし、「極悪女王」に釘付けとなってからは、イメージが変わった。

演じたゆりやんレトリィバァさんの鬼気迫る表情もあいまって、一言、シンプルに怖い。リング上で無情にも相手の頭へ一斗缶を振り下ろし、ホンモノの鉄鎖を打ち付け、フォークでブッ刺す姿には震えた。

夜、寝ぼけまなこでトイレに立ち「ダンプ松本がいたとしたら」と想像せざるをえないほど、現役当時、日本中に恐怖を与えていたのもうなずける。

ただ、物語を追っていくと、ダンプ松本さんがヒールに徹していたと気がつく。

極悪同盟としての戦友、ブル中野さんのYouTubeチャンネルでも語っていたが、レスラーとして活躍する「最後のチャンス」として「全部を捨てるしかない」との覚悟をもって、日常でも優しさを見せず、松本香ではなくダンプ松本として生きると決めた当時の思いは、想像すらも追いつかない。

シリーズの3話で、あるできごとによって真に「ダンプ松本」として覚醒して以降の展開は、特に目が離せなくなる。

そして、もう1人の覚醒もシリーズを語るには、避けては通れない。ダンプ松本さんと同期で、かつては合宿所の相部屋で夢を語り合っていた、クラッシュギャルズの長与千種さんだ。

後輩イジメを繰り返す先輩とリングに上がった長与千種さんは、かつて、自分を見限った両親との再会を果たした試合でブチ切れる。

いわゆるガチンコの乱闘となるのだが、以降、一時はいがみ合いながらも、共に誓い合った夢のリングにかけるダンプ松本さんとの友情もあいまって、長与千種さんの生きざまに惚れ込んでしまった。

演じる唐田えりかさんも見事で、ゆりやんレトリィバァさん、ライオネス飛鳥を演じた剛力彩芽さんなど、女子プロレスラー役でホンモノの試合へ臨むため、ハードな体づくりに励んだという裏話にもアツくなる。

そして、加速度マックスで展開するシーズン終盤。今なお語り継がれる、ダンプ松本さんと長与千種さんによる「髪切りデスマッチ」のシーンでは、相手の頭にハサミをブッ刺したりもするが、それが昭和の時代にリアルにテレビ放送されていたのも驚く。

全編を見ると、団体も「いかにクソだったのか」とため息も吐きたくなる。

しかし、混沌としていた昭和は、よくも悪くも何でもアリだったのだろう。あの時代に生きていたらとは思えないが「極悪女王」を見ると、一瞬ならば当時の熱狂を現場で体感したくなる。

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