「ひとり空間の都市論」の要約

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都市・建築の研究に取り組んできた筆者が、海外から帰国した際に、日本の都市における一人で利用できる飲食店や娯楽施設などの多さ。モバイル・メディアの普及に伴う、都市を一人で過ごす人の増加。東日本大震災以降「コミュニティ」「地方」について関心が集まる中で、「ひとり」「都市」について考え直したいと思ったところから、都市における「ひとり」の生態を論じている。

筆者は①単位の「一人」②孤独・独身の「独り」③状態の「ひとり」と三つに分類し、「ひとり空間」を一定の時間、ひとり状態が確保された空間のことをいう。つまり一人暮らしのように部屋に一人でいる状態だけが「ひとり」なのではなく、牛丼店で牛丼を食べる人、電車でスマホを触っている人など大人数が同じ空間にいたとしても、繋がりやコミュニケーションがなく匿名性がある状態を「ひとり」といい、その空間を「ひとり空間」と定義している。

人同士のつながりのない個人に合わせて都市は作られており、本書では「住まい」「飲食店・宿泊施設」「モバイル・メディア」を取り上げ、個人と都市がどのように繋がっているかが論じられている。

筆者は「ひとりの住まい」を考える上で、鴨長明の方丈庵を引き合いに出し、①モビリティ②多機能性③外部接続という三つの要素が大事だとしている。都市生活は住まいの中だけで完結させるのではなく飲食店や宿泊施設などと接続することで成立する。

日本の都市にはなぜ多様な「ひとり空間」が存在するのか。それは日本社会が集団・組織の「ウチ」での一体感や帰属意識が強い分、そこから外れた「ソト」の人とコミュニケーションをとることに苦手意識がある。それゆえ、独りで生活している人が多い都市であればあるほど「ひとり空間」としての飲食店や宿泊・娯楽施設が多いことと無関係でないとしている。

都市には多様な仕切りがある。それはカプセルホテルという目に見える仕切りもあれば、スマホのように小さい画面の中にある空間にアクセスできる目に見えない仕切りもある。多層な仕切りを使い分けることで「ひとり空間」を演出することができる。

最後に、これからの「ひとり空間」はAirbnbのように「個室でありながら、開かれている」というような「ウチ」と「ソト」という二者択一では語れない形に変容していき、他者との距離感をどうとるかが常に問題となりうるとしている。



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