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ホントなら夢みたいな話で。

明後日、17日土曜日から益子の陶芸家である鈴木稔さんの個展が
うちのお店で始まる。

- 鈴木稔 陶展

稔さんとの出会いは2010年に遡る。
わたしはまだその頃、WEBの制作会社で働いていて、
自分でお店をやるなんて夢にも思っていなかった。

灯しびとの集いという大阪唯一のクラフトフェア。
その第2回目は台風の影響で初日は中止。
2日目は開催したものの、大雨で地面がぬかるむ中、
びしょびしょに濡れっぱなしで展示された陶器や
ガラスのうつわを多くのお客さんとともに熱心に楽しんだ。

その中で、絶対に見たいと思うブースがあった。
それが稔さんのブースで、このときのわたしは鈴木稔という作家を
まったく知らなかった。
でも、遠くからでも惹かれる特徴的なフォルムと
ユニークさも感じられるモチーフに目が釘付けになった。
傘をさしながら水たまりの上に敷かれたコンテナを
渡り、渡り…やっと稔さんのブースにたどり着く。

稔さん自身、おしゃべりな方じゃない。(たぶん)
わたしもそう。
たいした話はしなかったと思う。
ただただ、作られたうつわを手にとったり、
写真に撮らせていただいたりして、それがうれしかった。
その日はそれで終わり。
お金のなかったわたしはこのとき作品を買うこともできなかった。
でもいつか!という気持ちは強くあった。
インターネットで鈴木稔さんの作品画像を検索し、
気に入ったものを印刷し、手帳に貼ったりしていた。
もうまるでアイドルだ。

2011年3月。東北の地震。
その年の益子陶器市は例年通り5月に開催された。
陶器市の前にナガオカケンメイさんのTwitterに
地震の被害で崩れはてた薪窯の写真が投稿された。
鈴木稔さんの薪窯だった。

稔さんの薪窯がこわれてしまった!
わたしは居ても立ってもいられなくなり、
すぐに夜行バスを予約し、栃木県の益子へと向かった。
このときの気持ちは未だに不思議で、
クラフトフェアで会っただけのわたしが
なぜそこまで必死になって益子まで行ったのか。
なにか手伝いができるとも思っていなかった。
ただただ、稔さんに会いに行きたかった。
自分の思いの大きさに驚いた。
とにかく、益子陶器市の事務局が運営するTwitterに
DMで鈴木稔さんに会いたいという旨の連絡をし、現場を混乱させた。
わたしは事務局に稔さんがいると思いこんでたのだ。
夜行バスの道中、わたしのことを覚えてくれていた稔さんと
なんとか連絡がつき、今回は陶器市に出店はしていなくて、
会場近くのギャラリーで個展をしていることを教えてもらえた。

大阪から約10時間で宇都宮。
そこからさらに1時間、バスに揺られて益子町へ。
教えてもらったギャラリーに稔さんはいた。
陶器市から少し離れた場所にある静かで品のいいギャラリー。
そこにひっきりなしに稔さんに会いに
お客さんが途切れることなくやってくる。
ここでまた初めて知るのだけど、稔さんは「大御所」だったのだ。
かなりのキャリアと実績がある人だったので多くのファンがいた。

わたしは稔さんに会いに来たのであって、他に目当てはない。
なのでずっとギャラリーにいた。
そんなわたしを見かねてか、お客さんが途切れたときに、
話をたくさんしてくれた。
稔さんは地震でかなり落ち込んでいて、呆然として消えそうだった。
今までと違う活動をしていきたいような話をしてくれた。
わたしの方は、そのときの会社づとめについてや、
始めたかった趣佳の相談をした。
落ち込んでいる人になにを相談しているんだなんですけど、
ここで稔さんは大切な言葉をくれた。

「一流の人は一流の人とつきあいたいもの。あなたもやるなら一流を目指してください。」

新しいことを始めるとき、やってみたくてたまらないのに、
できないことを自分に自分でつっこみをいれて茶化して
自虐することでごまかそうとしていた。
そんなわたしにくれた言葉だ。
まだまだぜんぜん遠いけど、少しずつそこへと思っている。

ギャラリーの閉店時間になり、わたしも益子をあとにした。
移動時間往復22時間。滞在時間8時間が初めての益子訪問だった。

その後も展示会に出向き、作品を少しずつ買い求めた。
オリジナリティがあって、使いやすいうつわ。
かっこよさと、どこかユーモラスな感じもして愛着が湧く。

そんな稔さんと作家とお店として付き合えるようになったのは
出会ってから4年後のこと。
益子の作家たちを集めた企画展を開催した。
それから毎年、益子の工房や東京の展示に通い、
稔さんが大阪に来れば食事に誘ってくれるようになった。
ときには窯出しを手伝うというエキサイティングな体験もした。
一線の作家として作り続けていく辛さや葛藤も知った。

そういうことが募って募っての個展。
つくるもののリクエストある?って聞かれたけど
結局決めきれずなにも言えなかった。
店をやっている人間として未熟だと思う。
個人的な思い入れが強すぎるのだけど、やっと開催できることがうれしい。

明日、作品が届く。
お客さんに稔さんの全部をみてほしいと思っている。





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