喜怒哀楽はハッキリしてても驚かない

そもそも「驚く」ことって、「怒る」ことと同じくらいの体力が要らないか?


例えば、職場のコーヒーメーカーでコーヒーを飲もうとしたとき。
いつもどおり紙コップをセットしてボタンを押せば、「ゴオオオ」という地を這うような音とともに、黒い液体が注がれる……
はずだったのだが、その日だけは違った。

ボタンを押す。ゴオオオと鳴る。お湯が注がれる。
いつの間にか白湯ができあがっていた。

私はコーヒーメーカーを持っていないので仕組みをよく知らないのだが、そのとき、透明なお湯を覗いてみて「あ~コーヒーの粉かなんかが切れてるんだな」ということだけは分かった。
私はそれを誰に伝えることもなく、お湯の入った紙コップを持って席に戻った。


ーーということを姉に話すと、「なんでその場で会社の人に言わないの!?」と驚かれた。

「えっ、だってシュウはコーヒーが飲みたかったんだよね?」
「まあ、そうだね。そのつもりでコーヒーメーカーまで行ったんだし」
「『コーヒーを飲むこと』が目的だったんじゃないの?」
「う~ん……べつに目的ってほどではないんだよなぁ。だって面倒じゃん、コーヒーのためだけに会社の人に言わなきゃいけないの。そこまでして飲みたいわけでもない」

姉からの理解はあまり得られなかった。


私と姉はよくこういう話をする。私たちは正反対の人間で、もっとも身近な他人だからだ。
意見が合うことは滅多になく、物事に対する着眼点ーー例えば、とあるアニメのとあるキャラクターの声優の演技などーーは同じでも、その感想が「好き」「好きじゃない」とまっぷたつに分かれる。
しかし、それが原因で喧嘩になることは、もうこの歳になるとほとんどなくなる。
それぞれの価値観を、「あなたはあなた、私は私。おしまい」で済ませられるようになるまでの道は、人によってはものすごく長く険しいものだと思う。

そんな正反対の私たちの意見が珍しく一致した話があった。


小学校の教室。ついさっき、3時間目の『せいかつ』の授業が始まったところだ。
今日は欠席なしで、クラスメイトたちは全員出席。先生が黒板になにかを書いているのを、児童たちはじっと見ている。
そんなとき、「ガラガラッ」と音を立てて後ろのほうのドアが開いた。


みんなこういう時どうしてた?
私は絶対そっちのほうを見ないようにしてた。
なんでかはよくわからない。「見たらバチが当たる」なんて教えられていたわけでもないし、もし見たところで、悪いことなんか絶対起きやしないんだけど、それでもその、ドアを開けた人のほうを絶対見ないようにしてた。

考えられる理由はいくつかあるけど、そのどれにも共通するものは一つで、「見る必要がないから」だったと思う。

「ガラガラッ」と後ろのドアが開く音がした=誰かが入ってきた。
小学生の私の頭に必要な情報は、それだけで十分だったのだ。「誰が?」なんて気にしても仕方がなかった。
だから、とても不思議だった。「なんでみんなそっちのほうを振り向くんだろう?それも一斉に。」


逆に、私が『振り向かれる側』だったこともある。
ケガをして保健室に行っていたかなんだかで、授業開始の時間よりも遅れて教室に入ったとき。
「ガラガラッ」とドアを開けると、教室中にあるほぼすべての目が「ギョロッ」とこちらを向く。
まるでプログラムでもされているような、一糸乱れぬ眼球の動きにこっちが「ギョッ」とする。
そしてそういうとき、決まって私は「ああ、もし私がもう一人この教室にいたら、私だけは私のほうを一瞥もせず、絵でも描いてるのに!」と思う。


「一人だけみんなと違うアタシ!!フフ……」という話をしたいのではなく(まあ当時、この気持ちが少しもなかったとは言いきれないのだが)、
突然開いた後ろのドアのほうを振り向いたクラスメイトたちは、もしかしたら、みんな不安だったのかもしれない。
小学校という場は一応、自分の身を自分で守ることが困難な年齢の子供たちの《安全》を守るところなので、
そんな場所で「突然、何者かが入ってきた!」という状況は、彼ら自身の《安全》を損なう可能性がある。
だから「音のしたほうを振り向く」という反応は、きっと彼らにとってはごく自然なものなのかも。と、いうことにこの歳になってようやく気がついた。

じゃあ、私はなぜ"そう"ならないのか?というと、
「自身の《安全》が損なわれる」という感覚に、果てしなく鈍いからだと思う。


私は高校3年生の夏に、自動車に撥ねられたことがある。
運が良かったのか体が丈夫だったのか、またはその両方か、けが自体は大したものじゃなかった。全身打撲、むち打ち、右手剥離骨折、かかと縫合、脚部全体の擦り傷&痣……など、自動車事故にしては軽傷の部類に入ると思う。
当時、私を撥ねてしまった運転手の方、道を歩いていた中年の女性たち、現場付近の家の方々などが「大丈夫!?」と集まってきたのだが、
とうの私は「あぁ~、朝からお騒がせしてすみません!ちょっとスマホがそっちに飛んでっちゃったので、取ってもらってもいいですか?」とへらへらしていた。
そのときも驚くどころか、(ヤバ~マジで撥ねられちゃったよ笑)ぐらいに思っていて、というかそれよりも受験生だったので、スマホを開いて時間を見た瞬間に「ヤバい!!もうこんな時間じゃん学校行かなきゃ!!」と叫び、「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」と中年の女性にたしなめられてしまう始末だった。(そもそも身体を強く打っていたため、両脚がすごい痺れてて立てなかったのだが、それにすら気づけなかったという……)

こういう危機感も緊張感もない人間のことを多分「バカ」って言うんだろうな~。


なんか自分の経験をつらつら書いてたら満足しちゃったんでここで終わります。
まあ、(ほぼ)初めてのnoteにしちゃ上出来なんじゃない?
最初はだれでもこんなもんよね~。あんまり高いハードルを自分に課してもアレだし。
なんか書いただけでもえらい。

てことで終わります。これからも気が向いたらなんか書く。

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