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ある美女の憂うつ

私の名前はみさき。今年で30歳になる。

自分で言うのもなんですが私は容姿端麗。自分本意ではなく、周囲からもよくそう言われるので客観的に見てもどうやら間違いではなさそうだ。

同性の友人や仕事先の同僚からは「みさきさんは綺麗で羨ましいです」とよく言われたりもするのだが、当事者から見れば顔が良いからといって得をするとか幸せを感じるかと問われても別にそんな事はない。むしろその理由から不快な思いをしたり、憂うつを感じる出来事が起きる事だって少なくない。

私は美人じゃなくても良い。あの人と毎日を平穏に過ごせたらそれでいいのになと思う今日この頃。

[美女の憂うつ その1]

私が容姿が整っているが故の困り事ってわかるかな?

それは私に言い寄って来る男が少なからず居るのだが、どんな男かっていうと、自分に自信があるって雰囲気をあからさまに醸し出している男が多い。だがそのようなタイプの人はちょっと苦手。

苦手な理由を教えましょうか。

そういう男は大概は美人な彼女を連れて歩いている俺という自己満足に酔っているだけなの。そうね、女性であればブランド物のバックやらアクセサリーを持ち歩いている感覚に似ていると思う。

そんな男たちは純粋に私の事が好きだと言い寄ってくれている感じがなく、自分本意である事が透けて見えるから好きになれない。

そんな事があるから私は人並み程度の容姿でいいと思っている。それで心から私の事を好きと言ってくれる人がたったひとりいればそれでいい。

[美女の憂うつ その2]

私の容姿が整っているが故の憂うつがもうひとつある。

言い寄ってくる男たちとは対極のポジションに居る言い寄ってくれない男たちの存在の事。

女性は男の人が思うほど外見を気にしているわけではない。まあ清潔感など最低限の条件はあるけど、容姿の良し悪しはそれほど重要視していない人が多いと思う。

ところが男の習性なのか人間そのものの習性なのかはよく分からないけど、近寄って来ない人達はどうも己とのバランスを考えて、あのキレイな人と自分では釣り合わないと勝手な壁を作ってしまう節がある。別に美女は必ず美男子を求めてるなんて限らないのになんだかなあと思ってしまう。

それとね、容姿が良い女性には必ず彼氏がいるだろうと思われがちなんだけど、これも思い込みなんだよね。

確認もせずに諦めてしまうなんてひどくもったいない話だなと思う。

そして最近気になっているあの人もその様な事を考えているみたいでちょっともどかしい気分なのだ。

同じ会社に平野さんというひとつ年上の男性がいる。

彼とは入社して1年位は同じ部署に所属していて、よくお話しをする間柄だったけど、彼の所属部署が変更となり、今は時々すれ違う程度である。

彼は顔を合わせる度に挨拶と数分程度の他愛もない話題を話してくれる。そんな平野さんは決して目立つタイプではなく、口数も多くない。でも私とはお話ししたいと思っている様子で、勇気を出して私に話し掛けて来ているという雰囲気は伝わってくる。でもあまり深い話には立ち入らないですぐにじゅあまたと去って行ってしまうのだが、その健気さがかわいいなって思う。反面、好意を持ってくれているならもう少し積極的に来てほしいなという物足りなさも感じちゃう。

私は見かけと違うと言われるかもしれないが、あまり喋る人じゃなくても、誠実なひとが好き。

仕事ができなくても不器用でも一生懸命なひとが好き。

お酒や煙草やギャンブルも程々の真面目なひとが好き。

見た目の華やかさや派手さのイメージとその人の志向が同じとは限らないという事をどうか分かってほしい。

今日も平野さんとすれ違った。お互い仕事中だったのでその場は挨拶しただけだった。でも挨拶のあと、互いに振り返った目と目が合いましたよね。私も平野さんを意識している。ねえ、平野さんも何か感じてるはずでしょう?

じれったいから私からハニートラップを仕掛けようかな?でもそれも考えものなの。美人に言い寄られるとなぜか男は警戒しちゃうの。こんな美人が自分に来るなんてなにか裏があるに違いないとか。

確かにね、デート商法みたいな美貌を武器にして男を騙すような人が世の中にはたくさん居るので分からなくはないんだけど。善良な美人にとっては甚だ迷惑な話だ。でも男の人も男の人だよ。そうかといって容姿が良くないひとだったら信用できるなんて根拠はどこにもないのに。

それじゃあいっそのことあなたの夢の中で会いましょうか?お互いに念ずればお互いに夢の中で出会えるなんてお話しをどこかで聞いた事があるの。夢の中だったら仕事にも他の誰にも邪魔されることがないもの、あなたも私の事を考えているのが手に取るようにわかるもの。

どう?ロマンチックな話でいいでしょう?

数日後、夢の中で本当に平野さんに会えた。2人で青空の下、公園のベンチでゆっくりお話しした夢だった。リアルな夢でしばらく頭から離れなかった。

その日の夕方、緊張した面持ちの平野さんに声をかけられたのです。

「みさきさん、今度ご飯でもいっしょにどうかな?」

-終わり-

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