小松原織香著『当事者は嘘をつく』を読んで

 個人的には自分の感覚にしっくりきましたが、読む人によって意見が様々に分かれる内容だと思います。そして、テーマがテーマだけに、読むことに体力がいる本だと思います。実際に私自身も何か自分自身の体験を掻き立てられてしまう箇所もあって体力を消耗するような感覚がありました。それだけ、筆者の巡った足取りが、体験的に描かれていることだと思います。きっと、この感じ方自体も意見が分かれるはずです。

 回復というのは、社会的な正しさから与えられるものではないように思います。とはいえ、理不尽な暴力に対して、様々なアイデンティティを経ながら、自身の傷にふれていく足取りは個人的でありながら、社会的な足取りにもなると思われます。私自身は、その足取りは身体につけられてしまった(他者から暴力的につけらた様々な色)を脱色していくようなところがあるのではと考えています。そして、その脱色の仕方は千差万別で、その人の存在にふれるような根源的で、側からみれば矛盾を含んだものにみえるかもしれません。だから、こそこの本はタイトルも含めて、何か言いたくなってしまうところがあるような気がします。 

 回復は、ある種の表現だと思います。回復しないことも含めて、その人の表現は思い描いた動きと実際に表される動きは矛盾して分かれていき、何かこれが回復だと言い切れるものではないはずです。そして、その時々に必要な表現としての型となるアイデンティティは変わっていてもよいはずです。それが、たとえ側からみれば嘘であってとしても…

 このような本を書いてくれて、私は著者に「ありがとう」と思いました。

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