⑤治療的介入過程について

はじめに
 システムズアプローチの治療的介入過程では、これまでの面接過程で形成された治療システムのコンテクスト(状況・場面設定・関係性・背景・文脈など)がどのようなものかで、介入方法が変わってくると考えます。そこで重要となるのが、介入の下地作り過程であり、文脈構成(吉川,2012)という考え方になります。
 また、吉川(2012)は、“文脈構成という基本的技法の獲得ともに、治療における介入過程
をできるだけ下地過程でのみ留め、クライエントらの求めている目標の変化に柔軟に対応できるようにすることが、より有効な治療的働きかけを促進するための一つの指標になると考えらえる。”と述べています。
 こうしたことから、これまでの面接過程で来談者や家族と、どのような話題をやりとりして、どのような文脈構成をしてきたかによって、選択できる治療的な介入(治療的働きかけ)の選択が制限されると考えられます(図を参照)。

(図は筆者作成)
※図中の「文脈形成」は、正しくは「文脈構成」になります。


ニーズ
 治療的介入過程について述べる前に、面接を進展する上で重要なニーズについて触れておきます。ニーズは言語だけだけでなく、非言語のやりとりからも示されます。また、来談経緯や言表されるメタファーなどからも推測できるものです。来談者と家族が訴えるニーズが現段階では難しい時に、来談者と家族がそれぞれ持っている期待や意図(枠組みともいえる)についてやりとりし、そのニーズを実現可能なものへと拡大したり収縮したりすることができます。この時に、来談者と家族の生活の中の具体的な状態象(問題がない状態ではなく、何かが達成あるいは充足された時の来談者や家族の状態としての解決後のイメージ)としてニーズを把握していく必要があります。
 たとえば、不登校の相談で両親が子どもの状態を心配している時に、学校へ行かせることから、ストレスなく自宅で過ごし、子どもに笑顔が戻るようになることへとニーズを拡大することができると考えられます。反対に、学校でストレスなく安心して過ごせることから、本人が学校にストレスなく行けるように子どもが望んでいた部活動にまずは参加することへニーズを縮小することができると考えられます。
 このように実現可能な状態象としてのニーズが達成あるいは充足されるコンテクストを形成できるようなやりとりをしていくことが、問題を再構成することにつながります。
 中野(2017)は、“「来談者のニーズ」「家族や関係者のニーズ」「セラピストが所属する組織やそのスタッフからのニーズ」「セラピストのニーズ」”とニーズを4つに分けて考えることを提唱しています。こうした視点は仮説の設定(アセスメント)をする際に特に役に立ちます。とくに治療システムを検討する際には、「セラピストが所属する組織やそのスタッフからのニーズ」「セラピストのニーズ」について仮説を設定(アセスメント)することが重要になります。
 また、ニーズはその人が本来持っている願いや大切にしてきたものともいえます。時には、来談者と家族とのやりとりの中で、願いやその人が大切にしていることを掘り起こしていくとも必要です。その時に、健康な人や若年年層との面接では未来や希望を志向するニーズとなりやすいですが、絶望的な状況にある人(あるいは逆境的な環境にいた人など)や老化や病気などによって未来に希望が持てない人には、まずは安全安心の確保し、苦痛を緩和を志向するようなニーズになることは配慮したいです(もちろん健康であっても絶望的な状況いある人もいます)。
 絶望によって未来や希望を持てない人に対して、セラピストのニーズを押しつけるのではなく、安全安心を確保した上で、その人が体験している絶望を理解すること(システムズアプローチの文脈でいうならば、セラピストが枠組みをしっかり合わすことになります)や、その人が大切にしていること自体もニーズに対する関わり方のひとつだといえます。
 面接の目的は、ひとまずどこへどうやって向かっていくのかという指標になります。そして、ゴールは明確に示される場合もあれば、面接の進展とともに明確になっていく場合もあります。来談者や家族と協働(コラボレィティヴ)していくには、セラピストの一方的な目的とゴールにならないように、常に仮説(アセスメント)を共有しながら、ニーズを達成あるいは充足する状態象についてやりとりしていく必要があるといえます。

問題の再構成
 吉川(2001)は、“「問題の再構成」とは、単にユーザーが提示している問題を再定義することを示しているのではない。ユーザーとの面接の初期段階では、ユーザーが問題について考える対処法や、今後の問題に関連したユーザーの立場や日常に関する予測を含むものである。ユーザーの語る問題は、ユーザーにとって結果的に親和性のあるものであり、かつ今後の展開を含むものである以上、そのまま治療者が用いることができと考える。したがって、ユーザーと治療者の間で、問題に関しての相互作用を構成することで、新たな問題を定義しながらも、その後の治療の展開についてもユーザーが予測できる部分を含むものでなければならないのである。いわば問題についての理解を再構成する共に、その再構成した問題に対してどのような対応をすることがユーザーの未来をどのように作り上げる可能性があるのか示すことである。”と述べています(p.249を参照)。加えて、“治療者とユーザーの相互作用の文脈に「具体的な行動レベルの対応とつながりを持たせること」ができれば、実は「解決」についての暗黙の前提が語られることになる。”と述べています。
 こうしたことからニーズを基に、問題を再構成することと、セラピストと来談者や家族との相互作用(治療システム)の文脈で具体的に何をすればいいのかがつながると、解決への前提が共有されていると考えることができます。この時にニーズに加えて、来談者と家族のモチベーションを高めていくことも重要になります。

治療的介入とは
 システムズアプローチにおける治療的介入過程は、これまでに来談者や家族とやりとりしてきた差異や変化の積み重ねを、来談者と家族に変化として実感・確認できるようなやりとりをしていく過程になります。
 吉川(1993)は、“システムズアプローチの介入過程は変化の増幅や定着のためのものであって、決して変化のない状態で戦略的な介入を持ちいるべきでないと考えます。”と述べています。加えて、“患者・家族のそれぞれの価値観や認識などを、治療者が戦略的に根本から逆転してしまうような介入などは、倫理的にも許容されるべきではないと思われます。”と述べています。
 こうしたことからも、セラピストは多様な来談者や家族に応じながら、流動的に仮説を設定し、その仮説を基に柔軟に応答しながら、来談者と家族が本来持っているニーズを達成あるいは充足するゆな変化を導入できるように介入する必要があります(治療的介入というより、来談者や家族の邪魔にならないような、治療システムの文脈を活かしたセラピストからの働きかけといった方がよいのかもしれません)。
 また、面接においてセラピストの介入(頷きなどの非言語の働きかけも含みます)は、セラピストの“支持なのか”、“指示なのか”、“私事なのか”を自覚している必要があります(吉川,1993)。セラピストは自らの意図や振る舞いをメタ・ポジションから観察して、出来る限り“私事”を挟まぬように来談者や家族の反応に応じながら、より能い治療システムを形成していく、その形成された差異や変化の積み重ねが、相手の望む変化として実感・確認できるようおに“支持”的に関わりながら。より能い変化が増幅・定着されるような“指示”をしていくといえます。

実際の治療的介入
 変化には面接室内で起こる変化と、面接室外で起こる変化があります。また、システム論的な視点に立つと、変化にはレベルがあり、どのようなレベルで起きている変化なのか、そのレベルでの変化がシステム全体にどのように作用していくのかと考えていく必要があります。まずは、面接室内で起こる変化として、治療システムでのやりとりがあげられます。そこでは通常のコミュニケーションとしてのやりとりもあれば、家族造形法やエナクメント(実演化)、アンバランシング(多方面への肩入れ)といった技法と呼ばれるようなやりとりもあります。
 システムズアプローチでは、コミュニケーションを双方的な循環である相互作用として捉えます。これはセラピストの介入に対しても同様です。また、介入の際に選択される技法は治療システムの文脈ありきです。技法を使う時は、どのような文脈で、どのような治療関係で、どのような目的の為に、どういった技法を用いるのか、と考えていく必要があります。
 そして、面接室外で起こる変化では、来談者と家族の生活の中での出来事と行動があげられます。この変化には、必然的な変化と偶発的な変化があります(吉川,1993)。必然的な変化は面接で増幅し、偶発的な変化は面接で文脈づけていく必要があります。こうした変化を導入する介入の方法として「課題」があげられます。
 課題には、変化を導入する課題と、変化を増幅・定着させる課題があります。変化を導入する課題にはミラノ派のポジティブ・コノテーションやプリティング処方(東,2018)があります。ポジティブ・コノテーションは、来談者と家族が問題に対処してきた「家族史」に対して肯定的な説明をすることで逆説的な反応が起こりリフレーミングされる作用を指します。また、プリティング処方は、何かのフリをしてもらうことで行動の連鎖(パターン)に影響を与える作用があります。そして、元々あった相互作用を変えるフリと、今までは無かった行動を新しくするフリという2種類のフリがあります(東,2018)。また、変化を増幅・定着させる課題としては、その変化を解決に向けて文脈づけた上で継続を指示したり、変化に注意を向けるような観察課題を出したりすることがあげられます。
 ただし、こうした技法はどのような文脈で使われるのかということが問われます。つまり、これまでの来談者や家族との相互作用の文脈(これまでやりとりしてきた話題や関係性などの治療システムの特徴)によって選択できる介入技法が制限されると考えられます(はじめにの図を参照)。
 吉川(2012)は、“家族療法のパラダイムは、多くの批判と共に、初期の「治療者が家族を変化させる」という表現から、「家族の変化を増幅する」という表現へ、そして「既存の変化を強化する」という表現へ変化し、現在では「変化の過程を支える」という転換を迎えている。これは,家族療法の認識論の広がりを意味するものであり、その意味でも軽率に介入プロセスにおける介入技法だけを流用することは、むしろ危惧する問題であると考える。その意味では、文脈構成という基本的技法の獲得とともに、治療における介入過程をできるだけ下地過程でのみ留め、クライエントらの求めている目標の変化に柔軟に対応できるようにすることが、より有効な治療的働きかけを促進するためのひとつの指標になると考える。”と述べいます。
 このことを踏まえると、情報収集をして、いきなり介入技法を用いるというような乱暴な関わり方をすることは通常はありえません(しかしながら、セラピストのクライエントの役に立ちたいなどという焦りや不安から、介入することで頭が一杯になってしまい本来のセラピスト意図とは関係なく結果として乱暴な介入になっていることは起こりがちです)。また、家族療法の各学派(アプローチ)によって治療的介入過程で必要となる介入の下地(文脈)の特徴も変わってきます。あくまで治療的介入過程までに文脈構成してきた小さな差異や変化を増幅・定着させるために介入技法があると考え、セラピストは治療的介入過程までのやりとりで、来談者や家族のニーズに基づく変化を支えるように柔軟かつ可変的に対応できるようにすることが重要だといえます。

治療構造をデザインする
 来談者と家族は、それぞれの視点から捉えた問題についての枠組みを持っています。セラピストは、相互作用やパターンに付随する枠組みを理解しながら、これまでのやりとりでの差異や変化の積み重ねに文脈づけることや、ニーズが解決につながることで、問題について定義しなおしたり、新しい枠組みを導入したりすることができます。こうしたことを先述したように問題の再構成と呼びます。たとえば、面接の目的やゴールを共有し治療契約の合意を得ることや、起きた変化を治療的に文脈づけること、心理教育なども問題の再構成として捉えられると考えることができます。
 問題についての理解を再構成すると共に、その再構成した問題に対して、どのような役割や行動をすることが解決へ向かっていくのかという前提を示すことは重要です。治療システムの相互作用の文脈で、今後の方針とそれに対する役割と行動が共有できれば、解決の前提が語られていると考えられます(来談者と家族が意識していないとしても)。
 こうした解決への橋渡し(架橋)をすることが、解決へのモチベーションを高めたり、面接を展開させる原動力になるといえるのです。たとえるなら、道に迷っていた状態から、現在の状況や現在地を把握し、家系図やパターン図、外在化した問題や家族史などの地図を来談者と家族と一緒に眺め、その地図を共有しながら、解決へ向けてどのように進んでいくのかを話し合っていくことになります。その道程の中で、思わぬ例外や能力を発見したり、忘れていた大切なものを発掘したりしながら、来談者と家族自身だけでもその後の旅路が続けられるようにガイドしていくことといえるかもしれません。
 面接において適切な仮説(アセスメント)を経た心理教育が有用なのは、問題に対して、新たな注意の向け方を提示し、その注意を向ける状況に新たなコンテクストを提示して、問題を再構成しているからだと考えることができます。そして、心理療法における治療構造自体の設定と再構成が重要なのも、それ自体が治療的な要素を含んでるからだと考えられます。治療構造(ここでは治療システムと同様な意味として使っています)をデザインすることには、安全性の担保や限界設定、今後の方針、治療目標の合意といったことだけでなく、治療的な側面があると考えられます(心理療法のデザインについては上田勝久著「個人心理療法再考」を参考にしています)。

ミルトン・エリクソンの言葉
 治療的な文脈が構成され、来談者や家族と今後の方針を共有できれば、来談者と家族に対して一方的な介入方法を強要するようなセラピストの恣意性・操作性を緩めることができると考えられます。そして、パターンの一部や状況を変更する必要性をニーズと結びつけ、そのために来談者と家族がどのように動けばよいかを共有できれば、来談者と家族自身が、自ら何かしらの行動や役割を始めることが可能になると考えられます。
 この時にセラピストが具体的な介入方法を指示するというより、来談者と家族自身が構成された文脈から実行可能な課題に自ら取り組んでいるという自然な流れになると考えられます。システムズアプローチは、相互作用やパターンとコンテクストの変化を促すようなやりとりを想像していく過程だといえます。換言すると、システムの3つの属性である機能・構造・発達の文脈を活かして相互作用やパターンとコンテクストを創造していく(差異や変化を増幅・定着していく)といえます。
 そこで役に立つのは、ミルトン・エリクソンがザイグに伝えたアドバイスになります。まずはシステム論の認識論のひとつである部分は全体に作用するという考え方に類似した、雪だるま効果、あるいは波及効果(Ripple effect)という考え方になります。これは、どこかを変えれば、その変化は何かしらに作用し、小さな変化がやがて大きな変化になるという考え方です。このことは、エリクソン(2001)が、弟子入りを希望したザイグに宛てた手紙で書かれていたアドバイスです。またエリクソンは手紙の中で、“それから強調しておきたいのは、決まりきった言葉遣いや指示、暗示などは全く重要でないという言うことです。真に重要なのは、変わりたいという動悸と、誰もが自分の持っている真の能力を知らないと言う理解なのです。”と述べています。
 セラピストは、来談者と家族が本来のニーズを達成あるいは充足するための変わりたいという動機から、自分でも知らないような能力を自ら発揮できる(あるいは植物の芽が出る)ような相互作用やパターンとコンテクストを創造できる状況設定をデザインする(あるいは土壌を整える)ことが仕事だといえるかもしれません。また、このことを利用技法(utilization)に結びつけると、来談者や家族が自ら持っている自分でも知らない能力を使えるようになる治療的状況をしつらえる(テイラーメイドではなく、オーダーメイドとして)ことが利用技法(utilization)の本来の使い方かもしれません。こうしたやりとりは、来談者と家族が自ら変化していく能力をエンパワメントすると考えられます。

おわりに
 冗長的になった箇所がいくつかありましたが、以上がシステムズアプローチの治療的介入過程になります(多少話が脱線するところがあり間違いや不備もあるかもしれません)。実際の治療的介入では、具体的な介入をイメージするために家族療法やSFAの文脈でよく使われる技法をあげましたが、システムズアプローチでは技法云々よりも、問題の再構成(介入過程までの文脈構成)が重要になるといえます。

引用文献
ジェフリー・K・ザイグ(2001)ミルトン・エリクソンの心理療法―出会いの三日間,二瓶社.
中野真也・吉川悟(2017)システムズアプローチ入門ー人間関係を扱うアプローチのコミュニケーションの読み解き方,ナカニシ出版.
東豊(2018)漫画でわかる家族療法2ー大人のカウンセリング編,日本評論社.
吉川悟(1993)家族療法ーシステムズアプローチの〈ものの見方〉,ミネルヴァ書房.
吉川悟・村上雅彦(2001)システム論からみた思春期・青年期の困難事例,金剛出版.
吉川悟(2012)システムズアプローチにおける下地作り過程ー介入プロセスにおける文脈構成ー,龍谷大學論集479,pp.34-56.

参考文献
上田勝久(2023)個人心理療法再考,金剛出版.

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