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わたしたちはお互いに怪物どうし 『虎よ!、虎よ!』感想

虎よ! 虎よ!ぬばたまの
夜の森に燦爛と燃え
そもいかなる不死の手 はたは眼の
作りしや、汝がゆゆしき均整を

ウィリアム・ブレイク

オールタイムベストによく名が挙がる作品だけど読んだことがなく、ブックオフで100円で手に入れることができたので、この機会に読んでみました。

あらすじ

ジョウントと呼ばれるテレポート能力を人類が手にした未来の世界。乗っていた宇宙船が難破してしまったガリバー・フォイルは宇宙空間を5ヶ月もの間漂流し、助けを待っていた。
長い間救助を待ち続け、ようやく船が通りかかるも、フォイルはなぜか救助されることなく無視され、置き去りにされる。
船には“ヴォーガ”という名称が刻まれていた。

怒りに燃えたフォイルは、船の中にある燃料をかき集め、即席のロケットを点火して脱出を試みる。そして宇宙の辺境の小惑星に住む、野蛮な人種に身柄を拘束され、額に刺青をされてしまう。さらに地球へと逃れたフォイルは正体を隠しながら、自らの復讐を果たすため、ヴォーガを探す……。

感想

本を読むことは、本を読む以上の何物かでなくてはならない。それは、全感覚的な知的体験でなくてはならないのだ。

アルフレッド・ベスター

矢継ぎ早に繰り出されるアイデアの奔流とスピーディーな物語は、マンガの連載を一気読みしているような感覚で、スリリングで面白い。

オチなんかは決めずに書いていたらしく、なんなら全て行き当たりばったりで筆を走らせている感じなのかもしれない。ベスターはそういうタイプの作家らしい。

そもそもアメコミライターの経験もあるらしく、テレビで仕事したり、雑誌のライターをしたり多彩な経験を持つ人物だ。特にコミックからの影響はかなりデカイ。『虎よ! 虎よ!』にあるのも、アメコミ的なノリだと思う。

劇中の“ジョウント”や“加速装置”は後進の作家へ影響を及ぼし、まんま石ノ森章太郎先生の009がそれ、指摘されると仮面ライダーの怒りで顔にあざのような模様が浮かび上がる設定も、この小説から来ているのかもしれません。
石ノ森先生は非常に読書家なので、きっと読んでいるはずですね。

日本だけでなく、欧米のSFへの影響も凄まじく、ニューウェーブの走りとして評価もされているようです。出版当時は、ベスターの前作『破壊された男』ほどの熱狂はなかったらしいのですが、ディレイニーのようなニューウェーブ作家が持ち上げることで、再評価された小説だそうです。

有名なタイポグラフィーは終盤のページでお目見えすることができ、もうすでにネタを知っていたので、「これがあの有名なやつか…」という感慨に浸る感じの読書になりました。

日本語だと、右から左に読むという構造なので動線が合わず、流れるような感じが出ないのが残念かもしれません。

この小説の最も好きなところは、がっつりネタバレになるんですが、フォイルが自分を見捨てた黒幕の正体を知るところです。自分の最も愛した存在が最も憎い相手として現れてくる。フォイルは感情が昂った時、刺青が浮かび上がり恐ろしい形相になるんですが、盲目のオリヴィアならその姿をみられることはない。フォイルがオリヴィアに一目惚れするのは、自分の姿を見られることがないからだ。

オリヴィアの方は生粋のサイコパスというか超メンヘラ女で、障害を持っている自分は劣った存在で、自分を苦しめる社会を破壊してしまおうという理由で、虐殺を行っていました。

お互いに、怪物である自分を認めてくれるのは彼/彼女だけだという思いがあり、なおかつ憎き仇でもあるという悲恋。

フリークス愛みたいなのを感じられて、(映画監督で言えば、デルトロ監督とかティム・バートンみたいな。ジェームズ・ガン監督も好き)
すごく優しい眼差しを持った作品だったのが意外だった。『虎よ!、虎よ!』というタイトルと寺田克也氏のいかつい表紙のせいで、バイオレンスでアナーキーなSFなんだと思っていたから、予想外の感動だった。

「あなたがたはみな奇形なのです。しかしいつでも奇形だったのです。人生は奇形です。だからこそそれが希望であり栄光なのです」


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