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くじらのすみか。

秋や冬の"りん"とした空気感が昔から好きだった。
布団に潜り込んで自分の体温でじんわりと温まっていく瞬間や、寒空の下で体を擦りながら白い息を吐いて過ごす時間、ピリっと晴れた朝の時間に厚着をして歩くこと、オリオン座を目に映したままぼんやりと夜の時間に体を預けるような。
そんなものに、もはや愛おしささえ感じていた。
もちろんそれを愛せるのには、たどり着くべき"あたたかい場所"があるからなのだけど。

音楽に、季節や温度なんていうものを感じることがある。
そういう感覚が好きで、季節や温度、湿度、朝か夜か、なんてものを音楽に見出しては、その季節が来るたびに思い出して聴いたりする。

Homecomingsというバンドに出会ったのは今年の春だった。
「PLAY YARD SYMPHONY」という曲が最初の出会いだった。春にピッタリの爽やかなギターポップサウンドが、父のことですっかり沈んでしまっていた気持ちに、寄り添うように響いてくれたのだ。

そこから過去作を聴き漁り、もう、Homecomingsばかり聴いていた。Homecomings以外の音楽は聴きたくないくらいだった。自分でも不思議なほど、彼女らの音楽は僕の身体にとても馴染んだ。車の中や布団の中、料理中にだって聴いた。生活のほとんどの場面をHomecomingsの音楽が彩ってくれたのだ。(出来ることならライブにも行きたかったけれど、九州に来ることはとても稀みたいだ)

そういうことがあったから、僕の中でHomecomingsの音楽は「春っぽい」ものだった。

やがて季節が移ろい、日本全国がひいひいと喘ぐことになる今年の夏が来た。夏になると、まるで魔法が解けたように、自然と他の音楽を聴けるようになっていった。
とてつもない大恋愛をしたのと同じように、僕はHomecomingsの音楽に恋をしていたのだと思う。熱に浮かされていたと言っても良い。
だからもちろん、いつまでもそういう時間が続くわけじゃない。と言っても嫌いになったわけではなく、もっともっと自然に、身体に馴染んだということなのだと思う。

そして、先日。ついに新作がリリースされた。
ファンになってからはじめての新作である。
これがまた、素晴らしい。
それまでずっと「春っぽい」と思っていたHomecomingsの音楽が、雰囲気を大きく変えて届いた。この「WHALE LIVING」というアルバムは、冒頭に書いたような、秋や冬に溶け合う音楽であったのだ。

もともと作品それぞれにコンセプトやテーマがあって、それが強いタイプのバンドだとは思っていたけれど、今作はとても詩的で、なおかつ(本人達も語っているけれど)1本の映画を観たような気にさせられるようなものだった。ひとつの物語を様々な角度で書いた連作短編集のような。

その中でも「手紙」というのがキーワードになっていて、歌詞の中でしばしば登場する。
ところどころに出てくる「手紙」という言葉を聴きながら改めて考えてみると、「手紙」というのはなんともいいなぁと思った。

直筆で綴った文字。どれがいいだろうと悩み選んだ便箋。そして相手の住所…つまり生活の拠点を知っているという繋がりの重さや温かさ。
そんなものがすっかり希薄になってしまった今の時代、「手紙」というフレーズがやけに詩的に、そして妙に切なく聴こえてくる。

聴き終わったあとのなんとも言えない充足感が病みつきになる。サイズ的にはコンパクトであるからすぐに繰り返し繰り返し聴きたくなるし、実際何度も何度も聴ける作品だと思う。

Apple Musicにほとんどの作品が揃っているし、今回の新譜も配信されているのだけど、タワーレコードで販売されているものには特典として未収録曲2曲のダウンロードコードが付いてくるらしく、活動に貢献したいという気持ちも込めて、通販で購入した。
サブスクで聴けるのに盤を買うというのは、個人的にはとても稀である。
結果、買って本当に良かった。ジャケットがとても良いし、歌詞カード内のイラストも良かった。あと、ケータイやパソコンの画面じゃなく、歌詞カードとして歌詞に触れるのはいいな。やっぱ。

なんだかそんなふうに手紙とかCDとか、もうすっかり「アナログ」と言われてしまいそうなものがすごく大事で、魅力的に思えるようになった。
当たり前だけど、数が減ってしまうと、そこに価値を感じるものなんだな。ありすぎると価値はよく分からなくなってしまうのだ。

これからの季節、寒空の下で、あるいは温もりはじめた布団の中で、「WHALE LIVING」を沢山聴こうと思う。
めらめらと燃え盛るように貪る時期は過ぎたけれど、今でも僕はHomecomingsの音楽に恋をしたままだ。それくらいの時期の方が楽しいものだしね。恋って。

#日記 #雑記 #音楽 #Homecomings

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