プロシニアカードライバー・ノリオ(仮)の冒険
運転する車内から外を見ていると、同進行方向左側の歩道をある塊が動いてるのが見えた。その塊はのろのろと移動をしているらしく、路面の凹凸によって小刻みに揺れているように見える。
ぼくは右足にやや力を込め、車のスピードを上げる。
やがて見えてきた塊の正体は、電動シニアカーを運転する爺さんだった。それに追いつき、そして追い抜くとき、爺さんを盗み見ると、なにやら呆けた顔をしており、瞳は虚空を見ていた。
足腰が弱ってしまった老人向けに販売されている電動シニアカーは、モノにもよるが約20万円前後で売られており、タクシーを呼ぶほどでもない外出の用事などに大変便利である、ということでよく売れているそうだ。ちなみに速度は大体5km/h。早歩きくらいの速度である。安全な速度だろう。
そこでふと思ったのだが、このシニアカーで競争(レース)をした場合、どうなってしまうのだろう。
きっと、シニアカーを運転するのにも技術の差があるはずで、速度は同じと言えどもほんの少しのハンドリング操作なんかで早い人と遅い人が決まってゆくはずだ。
するとやがて「プロシニアカードライバー」が出てくるわけで、このプロシニアカードライバーにもっともっと頑張っていただきたいということで企業がスポンサーになり、そのお金で新たなシニアカーの常識が出来てゆく。
シートにマッサージ機能が搭載、孫の手機能、シニアカー本体に脱着式で装備されている老眼鏡、スイッチひとつで水戸黄門が再生される液晶ディスプレイ、スイッチひとつで暴れん坊将軍が再生される液晶ディスプレイ、スイッチひとつでロスレスオーディオコーデックでサンプリングされた大泉逸郎の「孫」が、シートの首部分に設置されているスピーカーで再生されるオーディオ設備…。
スポンサーの協力でそんな快適な空間を得たプロシニアカードライバー・ノリオ(仮)は、その機能を最大限に活かし、世界タイトル獲得の為についに海を超える。
しかし、世界は広かった。
アメリカには空中に浮かぶシニアカーがあったし、ロシアは水面を走行出来た。イタリアは横にガールフレンドを載せられるサイドシートを搭載していたし、中国は速度に困った場合にペダルを漕げるシステムを作っていた。
ノリオ(仮)は世界レベルのシニアカーに恐れおののいたものの、日本のひたむきさ、強かさを教えてやるべく、世界戦に挑んだ。
大会前日、ノリオ(仮)はホテルで珍しくウイスキーを飲み、これで酒が抜けなかったら飲酒運転になるのかな、とひとりで笑った。ノリオ(仮)付き添いで来ていた、娘のワカメコ(仮)はその時の父を、「獲物を狩る虎の目をしていたわ」と後に語っている。
そしてついにシニアカー世界大会が開催された。
第一回シニアカー世界大会の舞台はモンゴル国であった。なんと、舗装されていないオフロードがその戦場なのである。遊牧民も普通にいる。
この状況で世界との差を見せられるのかノリオ(仮)!
次回、「ノリオ死す!?」お楽しみに!
というようなことを書いてしまうくらいには暑いですね。
熱中症にはくれぐれも気をつけましょう。
こんな駄文をいつも読んでくださり、ほんとうにありがとうございます…! ご支援していただいた貴重なお金は、音源制作などの制作活動に必要な機材の購入費に充てたり、様々な知識を深めるためのものに使用させて頂きたいと考えています、よ!