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【本居宣長の空想地図】その5 市街編(前)

このシリーズは1月30日発売予定『彰往テレスコープvol.2』企画展記事と連動した企画です。
※この記事は前回の続きです。前回の記事はこちら

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 いよいよ話は端原の市街へと進みます。…といっても街の名所なんかの話は『彰往テレスコープvol.2』で書くので、ここでは地図や街の構造について解説していきます。

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縮尺について

 この地図は縦51.5cm、横71.5cmの紙に書かれています。となると、やはり気になるのは縮尺。この端原の街はどのくらいの大きさなのでしょうか。ここで頼りになるのが『絵図』左上の三ヶ所の記述。それぞれ地図上の距離が書かれています。

1「玉垂嶋ヘ舟ワタシ 三町半」
2「玉垂嶋ヘ舟渡シ 二町 是本道也」
3「歌仙橋 長六十一間」

 で、この書き込み、結構正確なんですね。つまり江戸時代の単位で1町(度量衡法では109m)は60間なのですが、2が3のだいたい倍の長さにだいたい合致しそうな感じになっています。

 栄貞はおそらく、物差しか何かで測りながら、なんべんも下書きして作ったんでしょう。せっかくなのでこの数値をとりあえず信用してみて、『絵図』の範囲を「原寸」に戻すとすれば、

縦(南北) 約三キロ
横(東西) 約四・五キロ

 ってとこかなと思います。が、北側の西側の山地は記号で描いてあるので、空間が圧縮されていると考えるのが自然でしょう。
 京都の洛中(御土居の内側)の範囲が東西三キロちょい、南北八キロぐらいなので洛中と比較すると半分くらい。名古屋城下(の大木戸の範囲の直線距離)が南北四キロ、東西三キロなので、同じぐらいでしょうか。

街の構造

 端原城下への入り口は北側「ミヤス口」「衣葉口」、東側の「般坂口」、南側の「砂妙口」の計四ヶ所があります。この内の「般坂口」以外はすべて舟渡しとなっており、舟にのらなければ城下に入ることができません。これら「口」は『絵図』の中で柵や高札、木戸が描かれています。この四ヶ所の口のほかにも川沿い、湖沿いに渡し場が何箇所かあります。大まかな地形は説明するよりも地図を見たほうが理解しやすいと思います。

 ま、とりあえず町に入ってみましょう。栄貞の書いた地図は少々文字が小さく読み辛いので、重要な地点と道路、地名などをピックアップした地図をお渡しします。
 この地図では、道路名の九割九分は原本通り活字に起こしましたが、「?」マークの付いている箇所は虫損などにより不確定です。
 原本の道路名はカタカナ書きが多く、ほとんどの漢字表記はわかりません。こちらの地図で漢字表記になっているものは『系図』からわかるものや、ほぼ確定できるものにとどめています。「ガイドマップ端原」の道路名は勝手に字を当てただけですので信用しないように。

note用城下時代の端原市

・彰往テレスコープ版・端原氏城下絵図 ver0.1
 ※ 高画質表示はこちら→ピクシブUP版

 上杉和央さんはこの端原の町の構造を、矢守一彦さんの城下町研究の分類上の「郭内専士型」に当てはまる、としています。この「郭内専士型」とは典型的な城下町の構造で、城の周りに家臣を集住させ、そのまわりにぐるっと外堀や城壁、土塁などをめぐらせ、町人地と武家地を分離するやり方です。

 端原では御所のまわりに家臣の屋敷があり、そのまわりを城壁と堀が囲んでいます。この部分だけは道路の名前も郭外と違い、「長春御門筋」とか「盛邦御門東筋」とか、郭の門の名前を基準にして名付けられています。

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・御所周囲、外堀(仮称)の内には家臣の上屋敷が立ち並んでいる。

 この郭内にある武家屋敷は家臣の本宅らしいのですが(仮に上屋敷とよぶ)、それとは別に端原家臣団は郭外に「下(屋敷)」をもっています。地図上の郭外エリアに武家地を示す灰色がぽつぽつ見当たるかと思いますが、これが家臣の下屋敷です。『系図』には上屋敷と下屋敷の住所がそれぞれ書かれています。こんなふうに。

▲春井殿
代々相和郡春井 六千七百石
御舘中筋豊御門。下三葉堅通
少将宮内卿親季五代孫掌上宮内卿親顕嫡男。顕季より第七代目の主
○御家臣
長本若狭掾
平井造酒正
岡部備中掾
同 左近進

○勝山顕季卿
  親重四生。右兵衛督。
  御簾中大聖君御姫君


 こうした下屋敷の位置は概ね系図の記述と合致するのですが、中には『系図』に登場しない上、上屋敷を持っていない謎の人物もいます。

新園崎八幡宮の隣の「岡嶋美濃掾」邸と御殿浜・神明宮の北側の「関主水正」邸というのがそれなのですが、彼らは何なんでしょうか。共に神社の側に住んでいるので、官位を持った神官かもしれません。

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・神楽橋とトヨミヨ林の間にある灰色の部分が岡嶋美濃掾邸。

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・神酒浦大明神と御殿浜の間にある灰色の部分が関主水正邸。

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