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井の中の蛙大海を知らず

スター気取りだった自分がいた場所は井戸の中だった

「きっと大きなことを成し遂げる人になります!」
周囲の人から称賛されていた。
完全に天狗だった。

現在、コミュニティというものが全国に広がっている。
地域社会や共同体として仲間同士が集まったものを総じてコミュニティと呼んでいる。
コミュニティは、小さなものから大きなものまで、さまざまな形で存在している。
その中でも、『好きなものが同じもの同士で集まる集団』のことをコミュニティと呼んでいることが多い。
私は、手帳好きが集まるコミュニティに参加していた。主宰者が行なっている『手帳術』と呼ばれるメソッドを習得したいという思いで集まった人たちで形成されているコミュニティである。現在、このようなコミュニティは多く存在している。
手帳というものは、スケジュール管理を目的とした使い方がほとんどであるが、手帳が好きな人たちにとっては、それ以上に使いこなす方法を知りたいと思っているものなのである。とにかく“メモ魔”が多い。
よくわかる例として、『メモの魔力』という書籍がある。
2018年に発売された書籍で、起業家の前田裕二さんが書かれた本である。
メモによって、情報をアイデア化し、本当の自分を見つめ、夢を叶えていく。そんな内容となっているが、累計発行部数は70万部を超えているといわれており、メモなどの書くことに関心のある読者が多いことが証明されている。

書くことが好きだった私は、数ある『手帳コミュニティ』の一つに所属した。
その中でやはり、『夢を叶えていきたい』と思っていた。このように夢や目標を持った人が、手帳をつけている人には大変多い。
私は、コミュニティに属し、夢や目標を持った人が周囲に出現したことだけで、自分は変われるような気がしていた。
それまで、自分の生き方が好きではなかった。地道に頑張っても、一向に豊かな生活になどならない。努力しても報われない。真面目な奴ほどバカを見るという言葉まで真実のような気がしていた。
そんな自分を変えたくて、コミュニティに入った。
真面目に頑張るだけではなく、自分の人生を好転させることが必要だと感じていた。環境を変えれば人生は変わるはず。コミュニティに入ることで、環境も変わる。人生を変えることが、幻想ではなく、現実になるような気がしていた。

私は、長らく会社員として働いていたものの、『人に教える』ことが好きだった。
人前に立って、教師のように教えられる人に憧れていた。
そんな私は、コミュニティ入会をきっかけに、『万年筆講座』を始めた。
手帳好きの人には、書くことが好きな人が多いため、筆記具にも興味関心がある人が多かった。そんな中で、自分も好きだった万年筆を広く、多くの人にも知ってもらいたいという思いからの行動だった。
万年筆にハードルを感じている人は多い。そのため、ちょっとでも難しく話せば、たちまち聞いている人は離れていってしまう。つまり、「小学生でも分かるくらい、わかりやすくする必要がある」と考えた。
そのためには、自分の知っている知識だけではなく、あらゆる疑問に答えられるように、専門書で調べては、それを噛み砕いて説明した。
すると、あれよあれよという間に、一躍コミュニティの人気者になっていった。
そんな時に、よく言われたのは「きっと大きなことができる人になれますよ!」「あなたならきっとできる!」という言葉だった。
私は、そんな言葉に踊らされ、完全に天狗となった。
ピノキオのように、鼻は高くなるばかりだった。

私はまるで、プロ野球選手がメジャーリーグ挑戦を発表するように、華々しくコミュニティの外に出ることを決意した。
多くの人は、港でテープの端と端を持って別れを惜しむように、成功することが決まっているかのように送り出してくれた。
しかし、現実は甘くない。
自分はまるで、『井の中の蛙』だったことを知る。
私は大海を知らなかった。
大海原は、自分なんてちっぽけな人間をカンタンに飲み込んだ。
『井の中の蛙大海を知らず』なんて、自分のことではないと思っていた。
いくら、プロ野球で華々しく活躍していても、メジャーへ行くと簡単に活躍できないことを世間は知っている。
しかし、メジャーに挑戦する本人は、「きっと成功する」と夢を持って挑む。
自分は天狗だったと、鼻をへし折られて帰ってくる選手を何人も見てきた。
そんなことは、自分のことではないと、思っていた。

人は、華々しい活躍をしている時には、周囲の状況が見えていなかったり、客観的に自分を見ることができないことが多い。
「私は夢を叶えるんだ」と、自分を信じることは大切だが、それを過信しすぎると、自分だけでは修復不可能なほどの深傷を負ってしまうことがある。
自分を信じることと、自分の実力を過信することは、全く違うのだ。

あなたの周りでも、このように自分が見えていないと感じる人がいたら、「ちょっと待って」と、あえて苦言を呈することも愛情の一つなのかもしれない。

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