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1%の努力とは

西村ひろゆきさんに見る現代の教育

現在、“放課後デイサービス”という職場で働いている私は、未来ある子供たちに対して、今後、どのように教育を施していくのかという部分に非常に興味を持っている。

『1%の努力』という本をご存じだろうか。
西村ひろゆきさんが書かれた著書で、累計45万部以上は売れているらしい。
この本に書かれていることは、「努力が正義だと思うのはバカだ」という過激な思想である。
ご存知の方も多いと思うが、西村ひろゆきさんといえば、2ちゃんねるやニコニコ動画の創設者としても有名で、メディアにも露出が高い。書店でも、西村ひろゆきさんの著書は多く見られる。あの、ホリエモンさんに匹敵する影響力である。
このような過激な“炎上商法”的な方法で世間からの注目を浴びることを目的としている、西村ひろゆきさんらしい言葉であるとは思う反面、これらを現代の若者たちが鵜呑みにしてしまう恐ろしさを感じるのだ。

「ことごとく書を信ずれば、則ち書なきに如かず」
書に書かれていることを丸々信じてしまうくらいなら、書なんて読まない方がいいと、孟子は言っている。
しかし、現代社会において、『本』というものが与える影響は大きい。
インターネットが主流となった現代だからこそ、“本を読まない人”よりも“本を読む人”に注目が集まっているのは確かだ。その本の読み方を教える場所は、限りなく少ない。

そうしたインターネットの社会において、先頭集団を走っている、西村ひろゆきさんの言葉には、影響を与えられる人も多いだろうと思う。
実際に私の周りでも、IT業界に携わっている人においては、スティーブ・ジョブズ氏や孫正義氏に影響を受けたという人が大半を占めるようだ。
その、スティーブ・ジョブズ氏は高校生の頃に、“ブルーボックス”と称する、電話回線をハッキングして無料で電話をかけられる装置を作って大儲けしたという逸話が残っている。
スティーブ・ジョブズ氏に憧れる者であれば、こうした逸話を知っているものも多いのではないだろうか。

こうした、“違法”なことであっても、「発見して、閃いたもん勝ち」のようなところがあるのが、インターネットの社会であるように思う。
実際に本書の中で、西村ひろゆきさんも、「ある事件で包丁が凶器として使われたとしても世の中から包丁をなくせという人がいるのか」と書いています。
これを解釈すると、「包丁をつくっても、それを凶器にして事件を起こすのは自分の責任ではない」ということになります。
これは、正しいことを言っていると思いますが、これを言ってしまっては、身もふたもありません。

違うページでは、「アルバイトはするべき」と説いていることは賛成できるのですが、その解釈に疑問が残ります。
「努力をした、という経営者がいるが、努力をしたなんて嘘。たまたま成功しただけで、努力をしたと言うのは、労働者を利用しようとしているだけ」
「世の中なんてチョロい。アルバイトは高校生レベルでできること。楽しんで仕事をすることが重要で、昔アルバイトで洗い物をいていた時、洗い物を洗わずにそのままご飯を盛り付けても店長にバレなかったから、そのまま盛り付けて出していた」
このようなことを書いている。

ここに私が、明らかに欠落していると感じるのは、“責任”である。
「包丁をつくっても、使い道までは知らない」
「ブルーボックスをつくっても、使い道までは知らない」
「楽しんでアルバイトをしているのだから、不衛生が原因でその店から食中毒が出ても知らない」
これらの思想を持った人が、現代社会を動かしている。
これらの思想を持った人がつくった、“スマートフォン”によって、現代社会は動いている。

実際に、スティーブ・ジョブズ氏は、「我が子には、アイフォンを使わせない」と言っていたのは有名な話だ。
自分では、どれほどの影響力があるのかを知っている上で、世の中に『世紀の大発明』として販売してしまうのは、どのような神経なのかと疑ってしまう。

おそらく、西村ひろゆきさんに言わせると、「使い道を知らない方がバカ」なのだろうが、そのような発言によって、影響を受けてしまう若者の人生にまで責任を持てるのかを、もっと考えて文字に起こしてほしい。
「無知は罪だ」としたソクラテスでも、自分の発言による影響力を考えていた。
考えられる力があるのに、考えない方もまた罪であるように思うのは、私だけだろうか。

ドイツからのユダヤ系移民の子として生まれたロバート・オッペンハイマーは、理論物理学に大きな業績を上げ『原爆の父』として原子爆弾を作ったことで有名である。
しかし彼は、そのことに苦しみ、戦後はアメリカの水爆実験に反対して公職追放されている。
開発者と使用者の“思いの違い”が生み出した悲劇は今までもあったが、現代においては開発者が使用の危険性を分かっていながらも、そのことに目をつむっていることに憤りを感じるのだ。

「必死に努力するなんて無駄だ」
と、ITの先頭を走る者が発言している現代社会に、明日はあるのだろうか。

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