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この道が間違いといつ決めるのか

後悔したのにタイムマシンは必要なかった

「なんだよ、男子校だって知ってたら、絶対に受験しなかったのに!」
高校をあみだくじで決めた私は、受験当日まで自分が受験する高校が男子校だとは知らなかった。
共学が当たり前だと思っていた私のショックは、計り知れないものだった。
「薔薇色の学園生活が〜」
そう言って“合格通知”を受け取った私は、自宅で泣き崩れた。
自分で選択した道を、引き返したいと初めて思った瞬間だった。

私の高校生活は楽しいものだった。
私は、男しかいない世界の楽しさを知った。
下ネタが横行することは想像できると思うが、なんと学校の先生までもが授業中であっても下ネタをぶちかましてくる。
女子がいない世界の男子は、格好を付けることもなく、純粋に素直な自分をさらけ出す。毎日笑いの絶えない学校生活だった。

卒業する時になって、合格通知以来はじめて、当初は男子校だったことを悔やんでいたことを思い出した。
私が高校受験を控えた時、両親はちょうど大喧嘩しており、離婚問題に発展するほどの大騒動の真っ只中だった。
そんな環境で、高校進学の相談をすることもままならず、自分で決めることにした。
こうなると、中学生ならでは、思春期ならではの発想なのか、とにかく楽をしたいという思いでいっぱいになる。受験という、人生の分岐点で私は楽な方法を選択肢した。
一般入試と推薦入試があり、問答無用で推薦入試を選び、高校はアミダで選んだ。理由は、どの高校がどのレベルなのかという予備知識がほとんどなかったからだ。
当時、私の中学の進路指導の先生は、それほど熱心に生徒の相談に乗ってくれることもなく、第一志望の高校が第二志望の高校よりもレベルが低いことすら、大問題として取り合ってくれなかった。
そういう理由で、高校受験のためにその高校に行ってみたところ、初めて男子校だということに気づいたのである。
初めは、「あれ? 女子が見当たらないな。女子は別館で受験なのかな?」くらいに考えていた自分が可愛らしい。そんなわけない。
気づいてからは、受験に失敗したくて、白紙で答案用紙を出したものの、努力虚しく合格してしまったのだ。

ところが、入ってみると面白い。
こんなにも男子校が楽しくなるとは、入るまでは予想もしていなかった。
男子校であったが故に、近隣の女子校とのコンパも頻繁に開催された。高校デビューを狙っていた私にとって、このコンパで彼女を作ることもできた。
体育祭ではまるでどこかの抗争のような荒々しさがあり、暴言を吐きまくって相手を脅すという、清々しい大会とは真逆の様子だったが、そこも面白かった。
一方で文化祭はというと、「女子を招待してもいい」という夢のようなルールが設けられ、校舎中をどこもかしこも女子が歩いている状況に、舞い上がるようなテンションで浮かれた友人たちも面白かった。
授業でも保健体育の中で、セックスについての正しい知識を女子がいないからこそ、照れることなく遠慮なく先生に質問した。生徒の中で経験したことがある者に、どうだったかを聞くことができる場面もあった。そんな授業は何十年経っても覚えているほど強烈な印象と、楽しい記憶でいっぱいである。

「もっとドス黒い学園生活になると思っていた」
友人の中にも、学力の問題や女子と話すことが苦手という理由で男子校に進学してきた者がいたが、どのような理由であれ、男子校がこれほど面白いとは想像していなかったというのが、共通の感想だった。

当初は男子校を選択したことを悔やんだ。
「ドラえもんにタイムマシンを出してほしい」
と本気で思ったものだ。
「もう一度やり直したい」
そう思っていたことだったのに、気がつくと今までで一番と言ってもいいほどの、楽しい記憶となって残っている。高校の友人に聞いても、「あの頃は楽しかったなぁ」と話すほどに楽しい記憶となったのだ。
タイムマシンを出してもらって、もう一度やり直したいという場面は、人生には何度も訪れる。後悔をしない人なんていないのではないだろうか。
しかし、やり直したくなるような後悔に襲われていても、こうして楽しい出来事に変わることもあるのだ。
後悔することに対して、「後悔していても仕方ないのだから、もっと頑張ってこうないなんて吹き飛ばそう!」と躍起になって払拭したわけではないのだ。
私は不安に思いながらスタートした。なんなら、ドス黒い学園生活を送るだろうと予想しながら、高校に日々通っていたのだ。
そんな中で、一つ、また一つと楽しい出来事が増えていき、気がついた時には卒業したくないほどの楽しい学園生活となっていた。

選択した道が、間違いだったと後悔することがある。
進学、就職、転職など、人生には一見、「絶対に間違えてはいけない」と思うことに溢れている。
しかし、その選択が間違いなのか、正解なのかはわからない。
絶対に間違いだと言い切れることなんてないのだ。

私や私の高校の友人のように、後悔していたのに、結果的に人生最高の出来事に変わることがあるかもしれない。
悲観するのは、まだ早い。

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