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置かれた場所で咲く美しさ

置かれた環境で咲くことが自分にできる精一杯

「自分1人が変わっても、世界は何も変わらない」
中学生の頃から、こうした考えを持っていた。
世界を変えようと思っても、自分1人では何も変えることができない。
行きたくない学校には行かなくてはいけないし、したくない勉強はしなくてはいけない。

「自分なりの花を咲かせる努力をしなさい」
中学の先生からは、いつも言われていた言葉だった。
そんな言葉を聞いても、中学生の私は、花なんて咲かせようとは考えていない、とか、自分の花を咲かせる場所はここではない、などということを考えていた。
花を咲かせようと考えると、自分が何をしたらいいのか、わからなくなるのだ。
とても大きな事をしなくてはいけないような気がしてくる。
当時有名な経営者や、芸能人のように、大輪の花を咲かせるというのは、とても大きなことのように感じていたからだ。

高校に入っても、社会人になっても、“何か大きな事をやらなくてはいけない”という考えは、私の頭を支配していた。
だから、高校を卒業して、寿司屋に就職しただけでは飽き足らず、
「大儲けして、中日ドラゴンズ(地元球団)を買う」
「歳をとったら、県知事くらいにはなって、政治で国を動かしたい」
などと、大きなことをよく口にしていた。
そんな思いから、就職した寿司屋が経営していた、ニューヨークのリトル東京にある寿司屋に寿司職人として、外国人に寿司を教えに行くような、海外出張も志願した。

とにかく、「ビックになる」と公言していた。ビックというのは、どのような状態なのか、全くイメージすら持っていなかったのである。

そんな20代の終盤に、シドニーオリンピックが開催された。
当時から好きだった、マラソン中継を見ていたら、そこには、金メダルに向けて疾走する高橋尚子さんの姿があった。

「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」
この言葉を座右の銘として、インタビューでも高橋さんは語っておられた。
感動した。
なんというか、自分自身がちっぽけに見えた。
この気持ちは、自分がビックになれないからではない。
“何も咲かない寒い日”というものを、自分は経験していない。そう感じたのだ。
高橋尚子さんの言葉には、寒い日を何日も何日も経験してきたという、背景が見え隠れする。“必死で努力してきました”なんてことは一言も言わず、高橋さんはインタビューの中で、「小出監督のおかげです」と繰り返していた。
頂点を極めたのに、他人に感謝を忘れない姿勢に、胸が熱くなった。
なんというか、「自分は一体、何をやっているんだ」という気持ちにさせられた。

それと同時に、「では、なぜ、人は花を咲かせようとするのだろうか」という点を疑問に思った。
花なんて咲かせることに、なんの意味があるのか。
ビックになって、有名になることは、おそらく違う。
しかし、寒い日を経験して、必死に努力することでしか、オリンピックで金メダルを取ることができないのに、そんな人も世の中では一握りだ。
それなのに、必死に花を咲かせようと努力するのは、いったいなんのためなのか。
みんな、有名になって、金持ちになりたくて、頂点を極めたくて、努力してきたのではないのか。
その、落ちこぼれたちが、疲れたサラリーマンとなっているのではないか。
こんなふうに考えたのだ。

シドニーオリンピックで女子マラソン金メダルを獲得した高橋尚子さんの座右の銘を考えた時、人には咲く場所が与えられていて、そこで綺麗に咲く努力をすることの素晴らしさを感じることができる。
花は、他のどの花よりも、綺麗に咲こうと努力する。
それはまるで、頂点を極めようと、もがき苦しむ人間に似ている。
寒くて咲くことができない時には、精一杯根を生やして、暖かくなった時には、根から思いっきり栄養分を吸って、綺麗な花を咲かせる。
それが、いかに過酷な環境でも、咲くことができるのだ。
しかし、環境の良い場所の花には勝てないのではないか。
環境の悪い場所の花は、綺麗に咲くにも限界があるのではないか。

この書籍を読んだ後、いつものように、河原をジョギングしていた。
高橋尚子さんの言葉に感動して以来、始めたジョギングという趣味は、私に生きる力をくれるようになった。
走っていると、気持ちが前向きになる。なんだか、高橋尚子さんの言葉が胸に沁みるような感覚になるから、ジョギングというのは不思議だ。

少し休憩と、河原に横たわる。
大きな橋の下で少しひんやりとして気持ちがいい。
ふと見ると、そこには小さな花が咲いていた。
「こんなに寒い日陰でも、頑張って咲いているんだ」
そう思った次の瞬間に、蜂がやってきた。小さな蜂である。
その蜂は、スーッと、そこに咲いていた小さな花に止まった。
周りには、他の花も咲いている。その花よりも大きな、綺麗な花もたくさんあった。
しかし、その小さな花に止まったのだ。

それを見た時に、自分の環境で必死に咲く努力の意味を、その小さな花が教えてくれたような気がした。

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