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本を読む人と学歴のある人

読書の話など当たり前で恥ずかしいこと

「すごいな。よく読めるよな」
友人から声をかけられる。
私よりも読んでいる人はたくさんいる。
読書について語ることほど、小っ恥ずかしいものはない。
「当たり前のことを偉そうに話している」
そんなふうに思われると、感じてしまうためだ。

昨日、職場に学生のアルバイトが出勤してきた。
彼女は四年制大学の四年生で、来年は就職となる。
どうやら、県内の保育施設に就職するらしい。
そんな彼女に向かって、職場の上司である友人が声をかけていた。
「この先生は、読書の達人だから」

四年制大学には、強い憧れを持った時期がある。
大学を出ていない事がコンプレックスだったのだ。
高校で学歴を修了したことに、酷く落ち込んでは、後悔した。
そんな彼女に向かって、“読書の達人”とは、ちゃんちゃらおかしいのでは無いかと思ったのだ。大学に入るほどの人にとって、読書などは息をするように、服交換神経で事足りる行為となっているかもしれない。
しかし、彼女の口からは「私も読書できないんです。むしろコンプレックスに感じています」という言葉だった。

読書というものは、「勉強している」と捉えられがちだ。
子供の頃よく、勉強机に向かって本を読んでいると、仕事から帰ってきた父に「お! 勉強しとるな。エライエライ」などと褒められたことを思い出す。その時読んでいたのは『シャーロックホームズ』だった。
仕事をしてからも、朝早くに職場に行って本を読む事が日課だった私は、当たり前のように“自分時間を楽しんでいる”と、「え? 勉強しているの? すごいね」などと職場の人から声をかけられた。その時は『掟上今日子の備忘録』を読んでいた。

勉強と読書は関係ないかもしれない。
そんなことを考えるものの、やはり読書について語るのは恥ずかしい。
「何を今さら、偉そうに読書についてなど、語っているのだ。知っておるわ、そのくらい」などと言われるのではないかと、ビクビクする。

四年制大学に通う彼女に、読書の話をした時には、「へぇー! すごい!」と言われたのだが、(きっと心のどこかでは、「そんなこと知ってるわ、何を偉そうに」と思っているに違いない)と思って話していた。
恥ずかしいから、説明もそこそこに、適度に話を切り上げる。すると、説明不足が祟って、よくわからなくなる状態に陥る。余計に「大したことのない話」になってしまうのである。

「もっと自信を持っていい。誰もができることではないのだから」
そんなふうに言ってもらうこともある。友人からも言われた。
しかし、自信などもてない。自分ができることは、当たり前で難しくないことだ。

こうしたことは、自分以外の人間の目線で考えてみると、違った考え方となる。
私は学歴がない。
高校卒業が最終学歴だ。
これがコンプレックスとなって、今まで色々な克服方法を考えてきた。
放送大学に入学して、卒業を目指したこともあった。
インターネットで勉強できる方法を探り当てて、大学卒業と同等の資格を取ることも考えてみた。
しかし、今現在、どの方法も行なっていない。辞めたのだ。
なぜやめたのかというと、父の影響だった。
父は中卒である。
しかし、高校は地元の有名公立高校に入学している。
在学中にバイクで事故を起こして、中退したのである。
ただそこからが違う。その後は、就職して管理職にまで上り詰めた。
ひょっとしたら、学歴さえあれば、もっと上を目指せたかもしれない。
学歴がなかったばっかりに……。そう思うものの、父に言わせれば、「学歴がなかったから頑張れた」というのだ。その話を、私が40代になってから聞いたのだ。
それまでは、父もコンプレックスに感じていたのだろう。いや、今でも感じているのかもしれない。そのように考えると、胸が熱くなった。

長年、寿司屋をやってきた私には、コンプレックスを原動力にして、頑張ってこれたという実感がない。
寿司屋という職業を馬鹿にするわけではないが、寿司屋をやってきた実感として、学歴が必要だと思ったことは一度もなかったのだ。
だからこだわった。寿司屋を辞めてから、こだわったのだ。
しかし、四年制大学のアルバイトの彼女にとっては、「大学が当たり前で、読書は特別でコンプレックスを感じるもの」だったのだ。
人によって、当たり前に思うことは、日々で習慣的に行なっていること。
特別なことというのは、自分の中には持っていないもの、ということになる。

読書が好きな私にとって、読書をコンプレックスに感じている人には、「読書でなくても、音声メディアや映像メディアで手に入るものからでも、同じように学ぶkとができる」と言うだろう。
そう、自分にないものは、自分にできることで代替えすれば十分である、ということなのだ。
ないものに目を向けるのではなく、あるものに目を向ける。
そうすることで、今の自分を好きになれる。
もっと、自分の歩んできた道を、愛おしく感じる事ができるのだ。

もっと愛そうではないか。今の自分を。

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