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本を売る目的とは

本は商品ではない

本の帯というものがある。
私はこれに、一言物申したい。

出版社というのは、今は生き残るだけでも大変だ。
本が売れないからである。
出版社というものは、本を売らなくては儲からない。
これは絶対条件である。
出版という印刷物を扱う企業として、本を売ることは重要である。
インターネットが普及してからというもの、出版業界は瀕死に喘いできた。
ずっとその状態が続いている。
もっと細かなところまで、目を凝らしてみることによっては、上向いていることもあるのかもしれない。
しかし、今は本が売れないという事実は、変わらないように思う。
下火になり始めてから、V字回復して爆発的に本が売れるようになったとは、到底思えない。

私は本が好きである。
書店にも、足繁く通っているといっても過言ではない。
それなのに、書店というものは潰れていく。
どんどんと、数が減っているのだ。
これを食い止める方法を、いろいろな専門家が模索してきたという事実がそこにはある。
しかし、食い止める事ができない。
私の家の近所には、新刊本、古本、大小合わせて4件あった。
今年に入って、それらの書店の半分である、2件が無くなった。
大型チェーン店でも潰れてしまう現代では、小さな書店はひとたまりもないだろう。

ただ、不思議な事が一つある。
私の近所に残った書店のうち、一件は駅前の蔦屋である。これは言わずと知れた大型チェーン店であり、潰れてしまった蔦屋は駅前ではなく、住宅街に合ったものだった。そう考えると、“駅前”という立地条件も間違いなく必要不可欠であると言えるだろう。
しかしもう一件は違う。
駅前でも、大型チェーン店でもない。
小さな、小さな町の本屋だ。
こちらはなぜ、潰れないのだろうか。
私は、小さな町の本屋の方を贔屓しているわけではないが、頑張って欲しいとは思う。だが、町の本屋舗ある場所は、国道沿いの駐車場もない公共交通機関までも遠い場所。通うには不便なのだ。
それに、この書店は、いつ行っても人が少ない。
人気がないのである。
ただ、この書店に行った時、私のテンションは上がる。
それは、この本屋が持つ魅力というものがあるのだ。
それはなんなのだろうか。

私はこの“小さな町の本屋”に行った際には、必ず長居をしてしまう。
長いと、2時間は居る。
うなぎの寝床のような店内には、大きな棚が4つ。その他は、壁一面に埋め込まれた棚に本が詰められている。決して大きくない。
棚にも、壁にも、本がびっしりかというと、そうでもない。
本はまばらに、隙間だらけだ。
在庫の少なさを感じさせる。
Amazonの方が絶対に、品揃えは多い。まあ、どれだけの大型書店でも、Amazonに品揃えで勝てる店はないだろう。
しかし、驚く事がある。
「欲しいと思った本が必ずある」
のである。

人と話していると、「この本、面白いですよ」と、オススメされることがある。読書会を開くときに、“課題図書”として指定される本がある。
そういた本が、この“小さな町の本屋”に必ずある、という話ではない。
こうした“目的を持った本”というのは、Amazonに勝るものはないだろう。
しかし、そうではなく、「いくと必ず掘り出し物が見つかる」という意味で、欲しい本が必ずあるのだ。
その理由は、各本につけられた帯にある。

よく、大型書店などには、“本を売るためのキャッチコピー”が帯としてつけられている事が多い。その本が芥川賞を受賞した時、直木賞を取った時、本屋大賞、映画化、10万部売れた、などと挙げればキリが無いほどだ。
これらは、“本を売るためにつけられている”のだと思っているが、こうした手法はもう古いのではないかと思っている。
原料である紙が高価なのに、出版社自らが、高い紙を使って帯を作っている。それによって“広告宣伝費”という名目で、経費を重ねている。
これは、自分自身の首を絞めているのではないかと思うのだ。

“小さな町の本屋”につけられているのは、そんな“もう見飽きてしまった帯”ではなく、もっと“”キャッチーなキャッチコピーだった。

『私がこの本を読んだ時、一番疑問に思ったのは、人の幸せとはいったいなんなのだろうという事でした。他人から見たら「可哀想な人」だとしても、誰にでも優しくできる、そんな人に私はなりたい』

これは、かつて一世を風靡した『アルジャーノンに花束を』という小説につけられた、本屋オリジナルのキャッチコピーである。
全国各地に、こうして“本好きな人が喜ぶサービス”によって生き残っている本屋があるようだ。
その本が、どれだけ古くても手に取りたくなる。そんな“一言”を添えるだけで、その本はその人の人生を変えるかもしれない。
そんな、『人生を変えるきっかけ』を与えてくれる、それが本屋の魅力であり、役割なのだと思う。

私は、今年中に、ブックカフェ・バーをオープンする。
その暁には、置いている本、一冊一冊に、思いを込めて、こうした“一言”をつけていきたいと思っている。

本を売るために必要なのは、本を売ろうとしないことだ。
来てくださる人、一人一人の人生を、昨日よりも豊かにしていく事の方が、よほど大切なのではないだろうか。

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