見出し画像

生理の日、鍵しっぽの猫へのお願い 【靴の底 #26】

控えめな保護猫が私の足をカリカリと何度か撫でる。
お腹が空いたのだろう。眠気に負けて布団に潜り込んでいると旦那が先に布団から抜け出した。
薄目を開けると甘えた声をだして旦那の足に絡みつく保護猫が見える。
「飯がほしいんかぁ〜?」と猫を抱きかかえ、私の隣に降ろすとこれまた甘えた声で顔をスリスリと寄せ付ける。

私のことをご飯担当と理解しているこの子は1ヶ月間、私たちに近づくことはなく、ヴーとシャーを連発していたが、時を重ねていつの間にか甘えん坊の猫ちゃんに変貌してしまった。

「ちょっと起きられへん〜ご飯かわりにあげて〜」
生理の体調不良にここ数日振り回されっぱなしの私は朝ご飯を作る旦那にこの名誉あるご飯担当を変わってもらうことにした。
先月から不妊治療をはじめたことで、薬やら注射に慣れていない私を気にかけている旦那は「名誉あるお役目。お受けいたします」と言うと保護猫の名前を呼んで早速準備に取り掛かってくれた。

子供はなかなか授からない。
一年間自分たちで試してみたが授からず、早めにと思い不妊治療外来の扉を開けたが、これは少し勇気がいることだった。
精子検査やフーナーテスト、hCG注射。はじめてのことだらけで戸惑うし、知識がないため、不安なことだらけだ。
でも早めに門の扉を開けてよかったと思う。

ご飯の匂いを口に残した保護猫が私の隣にやってきて顔を洗いはじめた。
彼なりに「ご飯食べたよ〜」と伝えに来たのかもしれない。

ねぇねぇ、と猫の身体を撫でると眼と眼が合わさる。
「次は赤ちゃん来てくれるように猫の神様に伝えといてくれないかな?」
鍵しっぽの猫は天国の門の扉を開ける役目があるので、この子もきっとその役目が回ってくると思っている。

「そんなんで猫の赤ちゃんが来たら困るで」
私たちの内緒話を聞いていた旦那がベッドに腰掛けて猫の身体に鼻を近づける。私も耳の付け根に指を移動し、細かく撫でる。
喉を鳴らす音がさらに大きくなった。
保護猫は2人同時に撫でられるのが一番好きらしく、とても幸せそうな顔をする。

「起きれるか?ゼリー食べるか?」
甘やかし上手の人がさらに私まで甘やかしてくる。

「ゼリー食べる・・・。あと温かい飲み物のみたい」
「紅茶でええか?」
「うん」

台所に向かう背中を追うのをやめて、猫の体を引き寄せる。
猫の匂い、大好きだ。

「さっきの話しなんだけど、本当にお願いできないかな?今日おやつにおいちぃあげるから」

保護猫は聞いているのか、聞いていないのか分からない顔で朝の顔洗いを再開した。
今日は雨だな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?