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欲望きらめき文化祭 第一話


      1

 私立きらめき高校、3ーA。
 その日の教室では、いつになく白熱した議論が行われていた。
「だ~から、時代はJKリフレだっつってんだろ! 可愛い衣装で着飾った女子が肩を揉んだり校内を案内したりすんだよ。簡単だろ、絶対この方が楽だしコスパもいいし、何より儲かるぜ」
「文化祭でそんないかがわしい催し物が出来るわけないでしょう。それよりもいい案があるわ。今年から法改正で18歳成人になったんだから、選挙よ、模擬選挙をするの。候補者を何人か立ててPRをさせて、来てくれたお客さんに実際に投票させるの。その方が健全だし、高校生らしいと思うわ!」
 一ヶ月後に文化祭を控えているこの時期、3ーAの出し物を決めるためのクラス会が開かれていたが、意見が割れていた。
 男女双方において声を荒げ、言い争いの中心となっている者がいた。男子側の中心となっていたのは早乙女好雄で、女子側は藤崎詩織である。
 お化け屋敷、喫茶店……。こうしたオーソドックスなものから休憩室のようなやる気のない意見まで、当初は色々意見が出てきたが、議論を進めてゆく内に好雄が発案したJKリフレと詩織提案の模擬選挙の2案に収束していた。
 好雄案は主に男子が、詩織案は主に女子が支持層である。とはいえ支持層はいずれも勝ち馬に乗りたいだけで消極的指示の浮動層であり、このディベート如何ではどちらへも転がりうるといったところが現状だ。
「はぁ~っ……」
 好雄は明るい茶色に染めた短髪をぽりぽりと掻いた。
 この男、普段から頭の中身は八割が女の事で、残りの二割は金の事で占められている。
 一応受験生だというのに、しょっちゅう学校をサボって繁華街に繰り出してはナンパに精を出しているほどだ。
 しかし、今日に限ってはいつになく必死な面持ちで弁舌を振るっていた。
 そんな好雄と対峙している藤崎詩織は、「きらめき高校のスーパーヒロイン」と呼ばれる程の美少女だ。品行方正、成績優秀、スポーツ万能で、特に男子からの人気といったら高校内でも並び立つものがいない程である。
 現在、時刻は夕方4時だ。
 ヘアバンドでまとめたストレートロングの髪が、窓から差し込む日差しを受けて艶々と輝いており、立ち姿さえ凛としている。
 好雄はクラス会、まして論戦の真っ最中である事も忘れ、その様をうっとりと眺めていた。
 きらめき高校指定の制服、セーラー服に黄色のリボン、青のプリーツスカート。スカート丈は校則指定の長さ。
 シンプルな装いであるが、詩織ほどの美少女であれば立ち姿からも隠しきれないほどの魅力が溢れている。量感のあるバストはタイトに締めた胸のリボンの結び目をグッと前に押し出しており、スカートからスラリと綺麗に伸びる生脚などは見ているだけでムラムラと欲情を覚えてしまう。
(おっ、透けブラ見えたっ! へへへへ、藤崎のヤツ、また育ったかな……こりゃ。そろそろDカップも卒業かな。ああ、この身体をモノにして、ヒイヒイ言わせてやりてえなあ……。っと、いけねえ、いけねぇ……)
 妄想が行きすぎ、涎が出そうになるところを必死で食い止める。
 好雄はスリーサイズをはじめとした女子のパーソナルデータ収集マニアで、可愛いどころについては年毎のセンチ単位の増減さえも暗記しているほどである。
 詩織のバストサイズは、今年の四月時点で85センチのDカップ(推定)の筈だったが、 一学期、そして夏休みを経て更に一回り成長したように思えた。
 もしも夏休みの間に彼氏が出来ており、定期的に揉まれているのだとすれば由々しき事態である。
 だが尤も、その可能性は低いと好雄は見ている。清楚な見た目に違わず、趣味も純文学やクラシック音楽といった固いものばかりであり、不純異性交遊のような事は不良のする事と思っている節がある。
「最近は有名アイドルグループも大々的に選挙イベントを開催したりしているし、これを機会に選挙に興味を持つことが皆の将来のためにも……って、聞いてるの? 好雄くん」
「へいへい、聞いてますよ。それにしても藤崎、アイドルみたいな俗っぽい音楽にも興味あったんだな。クラシックみたいな硬~いモンしか聴かねえもんだと思ってたぜ」
「好雄くん、今はそんな事関係ないでしょ。それよりも、好雄くんの方はまだ意見あるのかしら?」
「うぐ……」
 腕を組んで、 澄ました表情で目を見据えてくる。
 日和見を決め込んでいるギャラリーからすれば、正論で押しているのは詩織であり、ふざけた返しばかりしている好雄の旗色は悪いように思える。
 だが、好雄にはこの日のための秘策があった。
「わかった、藤崎。もう言うことはねえよ。それじゃあ、もうクラス投票で決めようぜ。恨みっこ無しだ。全員で無記名投票をして、票が多い方の案に決まり、それでいいか?」
「ええ、勿論よ」
 詩織は自信ありげな表情を見せていた。
 これまでに交わされた議論とギャラリーの反応から、自らの勝利を確信しているのだ。
「それじゃあ、頼んだぜ委員長。投票用紙、配ってくれよ」
「はい……」
 好雄の一言をきっかけに、それまで無言を貫いていた眼鏡の少女が立ち上がった。
 彼女の名は如月未緒。3ーAのクラス委員長だ。地味な文学少女といった趣であり、実際図書委員も兼任している。
 てきぱきと用紙を配っていく。投票用紙とは言っても単なる二つ折りにしたルーズリーフの切れ端であり、好雄案に投票するならA、詩織案に投票するならBと書いて、見えないように二つ折りにして空箱に入れていく。そうした簡素なルールである。

      2

「ええと……、それでは投票結果を書いていきますね」
 クラス全員の投票用紙が集まり、未緒が箱の中の用紙を順に確認してゆく。黒板には右側にA・リフレ、B・選挙と書いてある。
 箱から紙を一枚ずつ取り出し、黒板に横線を書き入れていった。
 最初に開けた札はB、その後も10枚連続で選挙への投票であった。正の字がひとつ、ふたつと詩織の側に掻き込まれてゆく。対する好雄のリフレ側は未だゼロ票である。詩織は勝ちを確信した表情だ。
 しかしその表情は、次第に青ざめてゆくこととなった。
「ええと……次はA、その次もAです……」
 最初こそBに連続で票が入っていたが、その後はAに連続で票が入った。未緒が黒板にカリカリと正の字を書き込んでゆく。 正の字の数はたちまちA側が追い抜くこととなった。
「え……ええぇっ!?」
「投票の結果ですが、27対13でAのリフレとなりました」
「っ……、しゃあオラあっ!」
 最終的にダブルスコアで好雄のリフレが優勢となった。拳を宙に高く揚げ、どや顔で詩織へと目線を送る。
 完璧という文字を人型に仕立てたような少女は、屈辱に身を震わせていた。
「そ、そんな……」
「結果は出たみたいだな、藤崎」
「えー、おほん。早乙女さん、それではうちのクラスの出し物はJKリフレに決定します。具体的な活動内容とか必要物の手配については改めてクラス会で決めることにしますね」
「おお、了解だぜ。まあ、言っちまえばやることは簡単さ。休憩所の延長みたいなもんだよ。教室の中で肩揉みサービスをしたり、クラス外に連れ出して他所の案内なんかをする。このくらいなら出来そうだろ? あと、希望する女子にはコスプレ衣装も貸し出すぜ。格安で衣装レンタルしてくれるところにコネがあるんだ」
「はいはーい、好雄くーん」
 教室の最後尾から、甲高い声と共に手が上がった。
 声の主は女子生徒であった。詩織とは対照的にだらしなく制服を着崩しており、スカートは太股を半分以上見せたミニ仕様。さらに胸元でゆるく結んだリボンの奥からは胸の谷間をチラチラと覗かせている。
 バストサイズは詩織とほぼ同じ大きさの85センチ。若さ溢れる女子高生ならではの性的魅力を惜しげなく振り撒くこの少女は、名前を朝日奈夕子という。好雄とは中学が同じで、腐れ縁と言ってもいい旧知の仲である。
 成績は低空飛行で普段の生活態度も遅刻やサボりの常習犯(もっとも好雄も人の事をとやかく言えない生活態度である)だが、こうしたイベント事では中心になって盛り上げ役を買って出てくれる。
 好雄提案のJKリフレであるが、女子の中でも数少ない当初から賛成に回ってくれたのがこの夕子であった。
「お、なんだ夕子。質問か?」
「自前のコスプレ衣装を持ってくるのって、アリかな? 丁度こないだハロウィン用に買ったコスプレ衣装があるのよ。使ってもいい?」
「おお、勿論だぜ。皆も自前のコスプレ衣装とか、よさげな提案があったらどしどし言ってきてくれよな」
「それじゃあ、早乙女くんは来週のクラス会までに具体的なやることリストを作ってきてください。来週はそこを議論しましょう。それじゃ、今週のクラス会はこれで閉会とします」
 未緒の宣言と共に、この日のクラス会は解散となった。

      3

 放課後、下校途中。
 好雄の隣を歩いているのは、クラスメイトで悪友の高見公人である。高校生らしくお互い性欲だけは有り余っており、よく女の話で盛り上がるし、AVの貸し借りなんかもする仲である。
「よう好雄。お前すげーな。あの詩織相手に一歩も引かねえなんてよ」
「へへへ、藤崎にゾッコンのお前じゃああはいかなかったかもな」
「うえっ!?」
 聞けば公人と詩織とは幼馴染みなのだそうだ。言葉には出さないものの、公人は彼女にホの字なのがバレバレであった。
「うっ……、おほん。それにしても、お前よく貸衣裳屋にコネなんて持ってるな。バイトでもしてんの?」
「ハ、ハハハ……。まぁ、そんなとこかな。実はJKリフレってのもそっからの提案でよ。うまくやれば宣伝がてら格安で衣装を貸してくれるって言うんでな……」
「へ、へぇ~。面白い事考えるもんだなあ。ま、うちのクラスって、結構美人揃いだもんな。意外と上手くいくかもな」
「意外とじゃねーよ。絶対性交……いや、成功させんだよ!」
「お、おう……」
(けっ……。上手くいくかもじゃ困るんだよ、かもじゃあよぉ……)
 能天気な事を言う公人に対し、好雄は内心焦燥を抱えていた。
 ここまでは順調。第一のハードルであるクラスの女子の合意を一応とはいえ取り付けた形である。だが勝負はここからだ。衣装貸し出しの手配もそうだが、準備から当日にかけてクラス全員の役割分担に始まり、内装、シフト、宣伝活動、その他諸々文化祭でJKリフレを開店するための準備を進めなくてはならない。細かいところはともかく、重要な部分はどうしても人任せには出来ないのである。
 好雄にはこのJKリフレを絶対に成功に導かねばならない理由があった。
 その理由とは何か。
 すべての始まりは、半年前に遡る━━。

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