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月舟町になじむまで『つむじ風食堂の夜』

「月舟町」という街を舞台にした3部作の1作目。映画化もしました。
月舟町のつむじ風食堂に通うひとびとのお話。

雨降りの先生、店主、帽子屋、青年、背の高い女、体のちょうど半分のところで白と黒にわかれる猫オセロ……。登場人物たちが、つむじ風食堂のなかで会話する。話題は「二重空間移動装置」について……。そして食堂を出た先生の足下にはつむじ風が巻き起こる。

1話めをよんだときのおむすびの理解は上のような感じで、はじめはなんの話だろう?と煙に巻かれたようになり、しばらく放置。その後も3度ほど、2話の半ばまで読んでしばらく置いておく……という感じで読み進んでいませんでした。

ところが、3話になると冒頭の謎の人物たちが個性的なキャラクターとしてたち表れてきておもしろい。一応、先生目線で話が進んでいくんだなということもここで理解。何か事件が起こるわけでも、ストーリーが明確にあるわけでもないけれど、なんでもない出来事がきちんと積み重なって(あとになってわかる)、物語が見事に進行していきます。はじめはあんなに謎空間だったのに、最後は、だから「つむじ風食堂」なのかとこれもなんとなくおもわせる、すばらしい構成でした。メインストーリーなんてものがなくても物語を進行させる手腕がすばらしい。

ちょっと奇妙であたたかな月舟町の空気感もすごいですが、月舟町のひとのセリフも、すごくいいです。帽子屋さんはちょっと喋りすぎるんですがおもしろくて、おむすびが好きなのはこれ。

「ああ先生ね、それが歳をとったっていうやつなんです」「わたしにも経験あるなぁ。そういう日がね、来るんです。来ちゃうんです。いや、決して何かをあきらめたとか、そういうんじゃなく、何かもっと自然にね、どうでもよくなってしまうんだなぁ、これが」

あとこれ

「投げつけるはずだった石ころをね、いつのまにか掌の中で愛でるようになっちゃうんです」

月舟町の2作目は「それからはスープのことばかり考えて暮らした」ですが、これもよみたいなあ。

ちなみに、つむじ風食堂のメニューブックに載っているのは「クロケット」「ポーク・ジンジャー」「サヴァのグリル、シシリアンソルト風味」。たぶんおむすびはないと思いますが、もしあったら「サーモンのライスボール」とかかなぁ。

よかったら、稲(イイネ)か米(コメント)よろしくおねがいします。

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