エチオピアの首都アディスアベバで少年二人に小銭入れをスられる

タンザニアのイニョンゲという田舎街のバス停で出発しないバスを3時間ほど待っていたとき、暇だったのでショルダーバッグに入っている旅人のバイブル『地球の歩き方 東アフリカ』を出そうとした。そのとき、突如として8年間一緒に世界をともに回ってきたショルダーバッグのチャックが壊れ元に戻らなくなってしまったのだ。そのホーマックで買った安いショルダーバッグは小学校の修学旅行のときに買って、長らく使っていなかったが、初めて海外に行くときに父親から「捨ててもいいようなものを持っていきなよ!」とアドバイスされたことが経緯でそれからの海外旅行全てに持っていくことになった。いかんせん壊れないからずっと使ってしまう。そして、8年越しにやっとチャックが壊れたのである。


今、私はエチオピアの首都アディスアベバの街中を一人で歩いている。アフリカ旅最後の地に選んだのはエチオピアである。世界一周をしている日本人バックパッカーたちと別れ、超有名なダナキル砂漠ツアーに向けてエチオピアを明日にでも北上しようと考えている。あまり期待できるツアーではないという情報もあったが、まぁしかし有名であることは確かである。


ピアッサ地区にある宿に帰るためにアディスの街をぶらぶら歩いている。昼間で炎天下の中、建物の日陰で休む少年二人と目が合う。いや、正確に言うと彼らが私のことを視界に捉えたことが感覚的にわかった。立ち上がる。日本では小学生と言ってもいいくらいの少年とそれより少し背が高い子の二人組。しかし、感覚的に厄介そうなのは右側の黄色のTシャツを着た背の高い少年だ。


アフリカを旅した人間ならわかるかもしてないが、街中を一人で歩いているときは常に一定の緊張感を持っているからか、周りにどれくらいの人がいるかとか、誰が自分のことを見ていたかということがわかる。特に目が合ったわけではなくても、街の風景を見ると同時にそこにいる人の視線を注意深く観察している。


そのときも、特別目が合ったということはなかった。しかし、穏やかでない目つきで私のことを見ているのは瞬時に察知する。歩道の両脇に彼らが立っているのでその間、中央を堂々と歩いて進む。


案の定、右側の少年が俺の腕に触れる。「money, money!」


もちろん少年の声は私に届いている。しかし、無視して進もうとする。「money, money!!」


数多くこのような状況には出くわしてきた。しかし、その度にお金をあげるほどお金持ちではない。掴まれた腕が強く揺すられて、頑として無言を貫く私を一目でも振り向かせようとしてくる「money, money!!!」


振りほどこうとした。軽く振りほどいても掴んだ手を離さない。もう一度、今度は強めに。しかし、まだ離してはもらえない。「money,money!!!!」


「すごいしつこいな、なんなんだよ」と実際に日本語が出た。


掴まれた腕は離れて、自由になった。正直面倒だと思っていた。しかし、冷静になり3秒後に後ろを振り返る。先ほどまでいた少年たちが音もなく消えている。そして、反射的にショルダーバッグの中身を確認する。チャックが壊れて半開きになったバッグからルワンダで買った小銭入れが消えていた。


しまったと思った。もう一度後ろを振り返る。

「やっぱりごめん!返すよ小銭入れ!」って言ってくるスリなどこの世界にはいない。


宿に帰って、インスタのストーリーに出来事を載せる。すると、世界中で出会った旅人界隈の人たちや家族から祝福の嵐である。

「初スラれ経験おめでとう!!」

「いい経験になったね羨ましい!!」

などというわけのわからないDMが相次ぐ。


もちろんスったのは左側にいた背の低い少年で、このやり方は典型的でモデル的である。教科書に載せてもいいレベルで有名な手法である。もう旅慣れたと自負していた私にとっては、屈辱以外の何物でもなかった。これほどまでに自分がしょうもない手口でスられてしまうとは思ってもみなかった。


翌朝目覚めて冷静になり考えてみたところ、昨日取られた小銭ケースには3ブルしか入っていなかったことを思い出す。これは日本円で12円程度である。正直、小銭ケース本体の方が高い。


昨日スった少年二人は路地裏で発狂したであろう。

「3ブルしか入ってねーじゃねーか!なんだあの外人クソも金持ってねーじゃんよ!!!」


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