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幸せな妹を見て、悲しくなる

時間が止まってしまったように沈黙が流れる、
次の瞬間、この牧田という初老の親父が父に頭を下げた。
土下座を続ける牧田におかあさんが、頭を上げて下さいと声をかける
困ってしまった母は、苦虫を苦虫を噛み潰したように
「取り敢えず、籍は入れずに半年ぐらい、預かってもらえるのですか」
と聞いた。
「はい、わたしが責任をもってしばらく育てさせていただきます」
頭を下げながら、牧田の親父は言った。牧田の親父が連れて行ったのは、一番下の妹「知美」だった。
そのときは、数日前に一緒に、死んだ妹のお骨をもって花を摘んだのが最後の想い出になるとは、おもいもよらなかった。
「知美ちゃん オジさんと美味しいもの食べに行こう、その後は 玩具を買いに行こうか、知美ちゃんは、リカちゃんは好きかな」
ニコニコ笑いながら語りかける牧野のおやじさん。
大きなベンツに乗った知美は、自宅の細い路地をゆっくり走るとき助手席の奥さんに抱かれ、いつまでも手を振っていた。
亡くなった妹を悲しむより、いろいろ想いでのある妹が連れて行かれるほうが、悲しいんだと知りました。

今、自分には栄麻という小学校六年生の娘がいます。
女房がフルタイムの看護師で夜勤も多く、物心つくまで自分が育てたみたいなものでした。
どんなに貧しくても、この子を養子に出すなど想像もつかないですが、それほど当時のうちは、悲惨な 状況にありました。なぜ、この様な悲劇を招いてしまったのだろう。
人は弱いからこんなことになるのだと思いました。
人にバカにされるのも、貧乏に苦しむのも弱いから。
そういう想いが強く、自分は空手を始めました。

数日後、父親が知美の様子を知りたいと言い、自分に連れてくるよう命令をしました。
足立区綾瀬にある牧野宅を名刺だけを頼りに、錆びたガタガタいう自転車で知美を迎えに行きました。
大きな門構えの立派な一軒家を見て、来たことを後悔しました。ふと覗くと
庭先で遊ぶ、知美は今まで着たこともないような可愛い服を着て アンパンマンの形をしたサンダルを履いていました。
庭から名前を呼ぶと驚いた表情で、こちらを見つめました。
気がつくと、知美は唇が震え、声も出さずに泣きはじめました。
「知美ちゃん、どうしたの」品の良さそうな服を着た牧田の奥さんが心配して飛び出てきました。
泣きはらしたような顔で、俺を指さし「兄ちゃん」と擦れた声で言いました。
俺はどうしていいか、わからずに立ち尽くしていると、「お兄さんどう ぞ、お入りください」と奥さんが言った。
牧田のうちは玄関だけでうちの部屋より大きい一軒家だった。
「うちの親父がどうしても、知美と会いたいと言うので迎えにました」
自分は奥さんの顔も見ることができずボソリと言いました。
「そうですか......ともちゃん、パパやママのところに行く?」
返事のできない知美を見つめて、奥さんが言いました。
「この子が来てから、ほんとに家の中が明るくなって、感謝の言葉もありません」感謝しなければいけないのは、うちの方だと思いました が、黙っていました。

こんな、駄文を読んでくださり貴方は仏様ですか?