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「番茶も出花」という呪い(容姿コンプレックスOrigin5)

「番茶も出花」は呪いの言葉

 小学校時代を通して、親戚のおばちゃんたちも話題にしなかったあたしの容姿に、母が満足するのは難しかったと思います。
 だけど、仮に親が満足してくれていれば、子供はそんなに強いこだわりを持つことはないのでは?と思うのです。それは、そのほかの能力についても同じだと思います。
 世間的に見ても明らかに目だって容姿に恵まれていなかったり、逆に初対面の人がびびるほどキレイなら親以外のファクターも出てくるでしょうが・・・。

 母親の呪縛はでかい、です。親は色んなものを植え付けます。

 さて、「番茶も出花」という言葉があります。母はこの言葉をこのように使いました。

 「あんたは器量がよくないけど、そんな子でも17歳ぐらいになると、番茶も出花、といって、すごく輝く時が来る。そのときだけは誰でもキレイだから、好きになってくれる男の人も出てくるでしょう。その時期を逃したら難しいから、それが来て、結婚を申し込まれたら、さっさと婚約してしまいなさい」

 この言いようは、母の言動の中でも、とりわけ頭悪すぎで、忘れることができません。
 冗談としてならよくできているけど、母がこれを冗談で言っていたのではないことは、あたしの中に暗示として刷り込まれていたことからも明らかです。

 あたしは暗示にかかりました。
 番茶も出花、というやつが来ると、あたしは誰かに結婚を申し込まれる。その時を逃すと、オールド・ミスとか言われる、あれになっちゃうんだって。

 もちろん、あたしは賢しいところのある子供でしたから、このシナリオの中身のへんなところを無意識に検証してはいました。
「そんな、出花みたいのにだまされるアホな男と結婚して大丈夫なわけ?」とか、
「そもそも男の人って結婚相手をそれだけで選ぶのか?んで、女てのは選ばれるだけなわけ?」とか、
「それなら、結婚ってくだらない気がするけど?」とか、
「婚約してしまえ、というのはその後しばらく結婚しないで、学校に行ったりしろという意味だろうけど、婚約というのは破棄されたりするじゃん。婚約中に出花が終わったらどうするんだ?」とか。

 この検証のラインアップも大笑いですが、そもそも小学生は、結婚そのものの意味がわかってないので、これ以上のところに深まっていかないのです。

 昭和30年代、40年代のことですから、今とは違う価値観が世の中を跋扈していました。「行き遅れ」とか「出戻り」とか、「オールド・ミス」とか結婚できない女の人を表す語彙の多さとその響きの恐ろしさは大変なものでした。「負け犬」なんて言葉もありましたが、そんなのかわいいもんですわ。
 男の人も、結婚するまでは一人前とみなされない、という世間でした。
 なのに女は結婚したがり、男はなるべく逃げる、というくだらない構図でテレビドラマが作られていたりしていて、「なんかヘンじゃん。嫌がる人と結婚してもらってどうすんのよー?」という子供の素朴な疑問は「現実」というさらに恐ろしい言葉で却下されるのでした。

 ここで言う”現実”とは、女は一人で食べていくことが難しい、という例の現実です。これはあたしが子供の頃には大変有名な現実だったのですよ。
 今こんなことを言う人はすごく少ないですから、あたしが生まれてから今まで、社会は本当に劇的!に変わったわけですね。

 さて。女が生きていきにくい(美人以外は。美人は心配要らないらしい)恐ろしい世の中において、あたしは”出花暗示”をかけられたまま、深まるコンプレックスを抱えつつ、成長して行きました。
 その間、ラブレターをもらっても、告白されても、「出花はまだだから、これはニセモノ」といった態度でした。
 なんと言っても、番茶の出花は「結婚」という、さらにわけのわからない恐ろしい言葉と結びついているのです。ずっと先、17歳ぐらい、という刷り込みが効きまくっていました。

 で。高校生になり、実際に結婚という語彙を掲げる男子が現れたりしたので、あたしの混迷はますます深まったのでした。

 ああ、続く。

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