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自信がなくても恋は始まる(容姿コンプレックスOrigin7)

こんな理由で恋におちるなんて

 出花前夜のあたしが、クラスメイトの女の子の影響で恋に落ちたいきさつの続き。
 
 その女の子はそもそもあたしのコンプレックスをいたく刺激する人でした。一緒にいるとあちこち痛い。特別の美人ではないのかも知れませんが、とにかく抜群に男ウケがよかったのです。

 ある時、同級の男子が彼女の名前を思い出せず、誰かにきいていました。あたしと彼女は行動を共にしていたので、きかれた人は「あの、2人のどっち?」ときき返しました。
 同級男子は言い放ちました。「かわいいほう」

 言ったな、君。あたしが聞いていたとも知らずに。君があたしの弟ならその無神経叩き直してやるところだ。
 なんて一回言ってみたいな。言えないけどさ。

 ともあれ。その”かわいいほう”の彼女の言動や行動は、自信を失くしたあたしをぐるぐるとかき回していました。
 あたしは立派な変人。しかし彼女は”世間”をその手に持っている。
 男子にとってあたしはとかく”同類”。しかし彼女は「気になる女性」として扱われる。

 彼女の選ぶなんかヘンなスカートも、要領の悪いノートの取り方も、聞き応えのある恋愛体験も、音程があぶなっかしい歌声も、何もかもが気になって仕方がなく・・・・もちろん彼女が注目する男子も気になりました。

 さて、その注目男子は、何かものすごく変わっていました。
 まず話が通じない。日本語が自分勝手なのです。それに機嫌がころころ変わりました。

 頭が悪いのではないか?あたしは疑いました。しかし、成績の類は抜群でした。あたしは疑ったそばから反省しました。
 「あかん。あたしはもはや人の頭を云々してはいけない身分なのだった」

 あたしたちは男子2人女子ふたりの4人グループで、調べ物などをさせられたのですが、その男子の集中力はすさまじく、あっという間に何もかも自分でやってしまいます。暴走する高速調べもの人間。あたしは大変たまげました。
 余った時間で4人はへらへらと遊んですらいました。
 しかし、もうひとりの男子がツーカーに反応するのに比べ、注目男子のほうはさっぱり考えていることがわからないのです。通じない日本語で機嫌よくしゃべっていますが、何が楽しいのやらさっぱりわからない。 

違和感の異性

 仕方がないので、あたしはツーカー男子に頼って情報を収集しました。ツーカー男子は見かけも非常に立派で素敵で紳士でしたが、彼をたいそう認めていました。
 何を楽しがっているのかは解説できませんでしたが、「彼はすごい人だよ」などと言います。
 すごいの?彼って?

「がーん。彼のことがわかんないのはあたしだけか?」
 また不安が頭をもたげます。器量も悪く、人を見る目もなく、勉強もできないあたしって、なに?

 あたしはその時注目男子をメディアにして、コンプレックスを編集していたのだと思います。生まれて初めて世間に本気で怯え、世間の価値観を学ぼうとあがいていました。
 「かわいいほう」の女子が言うことぐらい理解していたい。ツーカー男子の話ぐらいわかっていたいと思っていました。

 あたしは注目男子のことをじーっとみていました。
ずっとずっと、時間をかけて見ていました。大いなる違和感を持って見ていました。

 仲良しの男子が増えていき、何人かの男子と文通したり、本やレコードの貸し借りをしたり、バンドを組んで歌ったり、それはあたしの守備範囲の中で消化されていくことであったのだけれど、彼だけは、わけがわからないままでした。

 ある時、仲良しの男子が手紙の中で、あたしが注目男子に恋をしていることを指摘してきました。この人はあたしのマブダチで、しかも注目男子のことをよく知っていました。

 そうか。これは恋なのか。この違和感は恋なんだね。
 あたしはそれを受け入れました。
 気に入った男とはかたっぱしから友達になってしまうあたしが、全然友達になれないこの人は、あたしにとって紛れもない「異性」なんだ、と悟りました。
 異性のイは、違和感のイだったんだ。
 
 あたしは、友人関係に、片思い宣言をし、中学の時に習得した(つもりの)”正しい片思い”状態へと突入しました。つまり、想うだけ想って、想われることなどには頓着しないことにしたのです。

 「かわいいほう」の彼女がその時どう思ったか、よく知りません。もう彼のことはあきらめていたのかもしれないし、モテ過ぎで忙しかったのかも。
 片思い宣言が、彼女への行き過ぎた興味から来る不健康な呪縛も解いてくれたかのように思えました。(実はまだこだわってたんだけど)

 「あたしは彼が好きなのよ」と言ってしまえたことは、周りの世界をすっきりと一変させました。
 仲良し男子はよりはっきりと友人へと進化して行けばいいのだし(一方的で勝手なヤツだよな、これって。たぶん間違っているけど、今はその話じゃないから許して)正しい片思いは生活のハリとなってあたしを進歩させるわけで。 

 思えば彼は片思いには最適の素材でした。全く女心を解さないからです。
 気の利いた男子達に慣れ切っていたあたしには、異性、ならぬ”異星”人とも言っていいぐらいのずれ方をしているように見えました。
 
 そのせいか、多くの女子が彼に片思いをしていました。(そのことを、あたしは後で知ることになります)
 彼はそれらに全く気がついていませんで、それはある意味PTA好み(笑)の、非常に平和な眺めでした。

 しかし、あたしの平和は破られます。彼が好きだと告白してきたからです。
 あたしの友人たちは色めき立ちました。「まさか!ほんとに?」
 あたしも焦りました。「これが出花か?もう来たのか?」

 いや、まだ来ていなかったんですけど。続く。


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