スポーツ医療側から見た実体験に基づく脳震盪の怖さ

アメリカ留学時代に学生インターンとして高校の現場で活動していた時に僕が今でも忘れられない【脳震盪の評価】があったので紹介したいと思います。

そう、ATCになってからではなく、学生のときです。この経験があったからこそ、その後の脳震盪への準備ができたのだと思います。  

今回の脳震盪についてですが、2018年にサッカーワールドカップ直前の5月20日に柏レイソルの日本代表GK中村航輔選手が脳震盪と診断されたのは記憶に新しいと思います。

スポーツ現場に限らず、交通事故などでも脳震盪になる方がいると思います。また、2016年に公開された映画コンカッションも手伝って、命の危険が伴う脳震盪については世界的に警戒されています。

『国際ラグビー評議会』(IRB)によるガイドラインでは「1度または2度目の衝撃によって、死に至る場合も含めた、稀ではあるが危険な神経学的な合併症を、より起こしやすい」と明記されています。

とは言え、脳震盪の症状は多岐に渡りますし、身体的な症状だけでなく、高次脳機能や精神的、認知的な症状も出ることがあるので、考慮するべき点が無数にあります。

(裏を返せば、後にも触れますが、「頭を打ってないなら脳震盪じゃない」とか「CTスキャンで正常だから、大丈夫」なんて言うドクターやクリニシャンがいたら注意が必要です。)

実際にあったケースを紹介します。
*読み進めるにあたり、このケースは2012年に起きたことなので、2018年現在ではコンセンサスステイトメントやポジションステイトメントに記載されているものと異なる判断や行動があるかもしれません。


「目次」
1:ケース
2:脳震盪について
 2.1:定義
 2.2:評価方法
 2.3:症状
 2.4:鑑別診断 

そのヘルメットをして練習をすると痛みが増すのだという。僕が気になったのは、ヘルメットがなくても少し頭痛があるという点。  

僕は問いかける。  


この時点で脳震盪じゃないのーこれは・・・と思った僕。

(はい、SCATしましょう!今の君は脳震盪の疑いがあります!)

と言いたかったのですが、ここは我慢です。
当時私はまたインターン生の身。自分勝手に判断して、行動をするのははばかられる身でした。

「ちょっとまってね!すぐ戻るから!」と、スーパーバイザーであるヘッドATにあれがこうでね、と報告&相談。

スーパーバイザーが直接話を聞きたいのだそう。

(そらそうだよな、脳震盪なんて選手の命に関わるんだから、インターンに任せず自分で診たいよね)

その間に他のアメフトの選手(高校生)が足首のテーピングを巻きに来たので、私が対応。

頭が痛いという脳震盪疑惑の男の子が気になり、10足巻くのが20分くらいに感じたと思います(笑)

テーピング巻き終わったタイミングで、スーパーバイザーもやりとりがひと段落したようで、声をかけてくれました。

「よく相談してくれたね。僕も君と同じように彼が脳震盪を起こしたんじゃないかと考えている。だから、SCATを君にお願いしたい。今日以降何に気をつけなきゃいけないかはちゃんと本人に伝えるんだよ」

「僕がそんなことを任せてもらえるなんて!」と嬉しかった反面、

「ちゃんとできなかったらどうしよ」とドキドキだったのを覚えています。

伝えたのは・・・

テレビ禁止、本禁止、ケータイ禁止、頭が痛いからと薬禁止、常に誰かと一緒にいること、何かあったら、助けを求めること、宿題はやらない、授業もでない、規則正しく寝て起きる・・・

と、一通り説明が終わったタイミングでスーパーバイザーが、
「お母さんが迎えにくるよー」と、

(連絡してたんかい!とスーパーバイザーのさりげないフォローに驚きというか関心というか不思議な感情がふつふつと)

そう、脳震盪が疑われる場合、一人で行動することはリスクがあるため、家族に迎えに来てもらう、またはチームメイトが家まで送るというのが決まりの一つでもありました。

今回は練習前に脳震盪の疑いがでたので、チームメイトではなくご家族に連絡したのです。

【注釈】6年前のことなので、記憶は曖昧なのですが、この高校のAT programの脳震盪のプロトコルは2012年8月の段階で
・ベースラインとしてSCAT3とImpact testの両方を受けていること。(2017年春の時点でSCAT5がでています。)
・脳震盪と疑われた場合、SCAT3とImPact testを受けてベースラインと比べる。
・その後、競技復帰まで毎日症状のチェックシートを記入しにオフィスに来る。
・症状がなくなってから以下のように有酸素運動から競技復帰へ向けたプロトコルを開始する、

1)安静
2)症状が消失してから自転車を15分漕ぐ
3)15分自転車動いた後症状が24時間以内にでない場合は、自転車かイレプティカルを30分漕ぐ
4)上記で症状が24時間以内にでない場合は、フィールドにて30分ほどランニングとフィールドワーク
5)上記で症状が24時間以内にでない場合は、接触プレーのない練習
6)上記で症状が24時間以内にでない場合は、ドクターに接触プレーを含む練習への参加を許可してもらい、練習に復帰
7)最後にImPactテストとSCATを受けて、ドクターにその結果を見せて、許可がおりれば晴れて競技復帰

この中で、どのタイミングでも症状が出たら、再び(1)に戻って症状がなくなるまで安静〜有酸素運動の流れです。

大半の脳震盪は症状がなくなるまで10日前後かかるので、どんなにスムーズにこのプロトコルを進められても、一度の脳震盪で競技復帰までは2週間以上かかることが多かったです。

結果、このケースでは2週間ほどかけてプロトコルを終え、競技復帰しました。

と、僕がATの現場に関わる中で一番勉強になった脳震盪の評価を紹介させてもらいました。

なぜ、これが一番印象に残ったのか?

理由は3つあります。

・まず僕自身がMOI:受傷機転に居合わせなかったため、すぐに脳震盪の疑いが頭にでてこなかった。第一声がヘルメット変えたほうがいい?ですから・・・

・選手自身が脳震盪について自覚・知識がなかった。大学レベルになると選手によっては「接触プレーがあってから気持ち悪い、脳震盪かも」という子もいます。

・3つ目は、これは完全に個人的な思いですが、スーパーバイザーに評価及び競技復帰のプロトコルをほとんど任せてもらえたこと。

まずは脳震盪について。読み進める中で、

「なぜそんなに脳震盪の疑いに対して神経質になるのか」
「脳震盪ってそもそも何?」

という方もいらっしゃったかと思いますので、まずは基礎知識から。

・脳震盪とは

【定義】頭部への直接の衝撃にかかわらず頭蓋の中で脳が揺れること。

つまり、意識の消失有無に関わらず、外部からの身体のどこかの部位に力が加わることで頭蓋内で脳が滑り、頭蓋骨内にぶつかった場合、

脳震盪が起きた

と言えるわけです。

一般的には頭を直接ぶつけた場合
意識の消失があった場合

それらは間違いではないですが、それほど限定的でもありません。統計的には意識を失うことは全体の10%に満たないとも・・・。

脳震盪とは構造的な問題ではなく、機能的な不全が起こっている状態です。

【評価方法】について少し述べていきます。
脳の中で出血があれば、それは脳出血です。脳震盪ではありません。
つまり、脳震盪が起きた場合、CTスキャンやMRIで異常がないのは当然です。

もし、「画像で異常がないので脳震盪ではない」という白衣を着た素人がいたら、納得いく説明をしてもらうか、静かに他の白衣を着た先生に判断を委ねたほうがいいでしょう。

唯一、画像診断で脳震盪を評価できるとしたら、fMRI:Functional MRIだけかと思います。これは一定時間内での脳の活動状態を観察するものです。

脳震盪が疑われた場合、たとえ短時間(一時間以内)に症状が消失したとしてもスポーツや運動を再開するべきではないとも言われています。

それは、一度脳震盪を起こすと次に衝撃がかかった場合、より重篤な状態になりやすいと言われているからですので、しっかりと脳を回復させるべきなのです。

では、脳震盪が起こると身体にどのような変化が起こるのでしょうか? 

【症状】脳震盪の症状は「肉体的」「認知力」「精神的」「持続的」様々な症状を含みます。

【肉体的な症状】頭痛、めまい、倦怠感、吐き気、頸部痛、バランス異常

【認知力の症状】集中できない、ものが覚えられない、考えるのが難しい、時間がゆっくり感じる

【精神的な症状】悲しい、落ち込む、イライラする、感情的になる、心配、神経質

【持続的な症状】睡眠時間が短い、睡眠時間が長い、不眠、精神的な疲労感

などなどで、他の症状と被るものもあり、実際併発するものもあるわけです。

例えば、熱中症、低血糖症、貧血、脳梗塞、めまい、パニック発作、風邪など。

最後まで読んでくださった方へ、

質問やコメントがあればどんどん言ってください。
「もっとここの詳細が知りたい!」や「なぜこうしたの?」など、その時の僕に関してどんどん聞いてください。せっかくの機会です、どんどん利用してください!!

では、まだ次回をお楽しみに!


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