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"映画館で映画を観るってどんな魅力があるんだろう" 連載企画/第四回:ミッドランドスクエア シネマ&名演小劇場

連載第四回では、現在公開中の映画『最後にして最初の人類』にて<前代未聞>名古屋地区・劇場2館による聴き比べ企画を実施中のミッドランドスクエア シネマの酒井支配人、名演小劇場の阿部支配人と『最後にして最初の人類』の名古屋地区宣伝担当で名演小劇場の番組編成も務める高藤さんに「映画館で映画を観る」ことについてお話を伺いました。

第四回 
酒井幸治さん(中日本興株式会社/ミッドランドスクエア シネマ 支配人)
阿部勇司さん(名演小劇場 支配人)
高藤奨さん (名演小劇場 番組編成/シーワークス 名古屋地区映画宣伝)

――――早速ですが、自己紹介の代わりに「映画館での映画体験」と言われて思い出す作品を教えてください。
(阿部)思い出す作品は初めて子供の頃に観た地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガンですね。豊橋で生まれ育ったのですが、いまはなくなってしまった東宝系の映画館で観ました。ああいう怪獣・特撮ものを親に連れられて初めて映画館で観たので、大スクリーンで観る怪獣は、小さなテレビでみるよりも迫力があって、それ以来、映画館にハマってしまいました。そのあと親に「また連れてきてくれ!」と強請った記憶があります(笑)。

(酒井)自分で観ようと思って映画館へ行った映画がスティーブン・スピルバーグ監督の 『オールウェイズ高校生のときに初めて付き合った彼女と観に行ったという名残があって(笑)、いまでもとても好きですね。当時観たのは半田コロナワールドだったと思うのですが、丁度全国でシネコンが出来始めた頃でした。子供の頃に観た「ドラえもん」などももちろん観たいと思って連れて行ってもらったと思うんですが、自分で観ようと思って、学生時代の自分のお小遣いを使い観に行ったという記憶があります。

(高藤)映画に興味を持つきっかけは、小学生くらいで観たメリー・ポピンズだったとは思うのですが、中学生に入ってからは親から一人で街に出て映画を見に行くことに反対されながらも映画にはまっていきました。人生で感動して2度観た映画はサウンド・オブ・ミュージック。とにかく音楽が素晴らしくて、70㎜で観た映像には迫力がありました。当時の自分では同じ作品を2回観るのは、あまり考えられなかったので思い出深い映画ですね。

――――今回、映画『最後にして最初の人類』では、名古屋地区で2館を行き来する<聴き比べ企画>を実施することになりました。その経緯をお教えいただけますか?

(高藤)今回、本作の配給についてお話をいただいたときに映画を観ていないながらも、そもそも難解の映画だと感じていました。とにかく「音がすごい」映画と聞いていたので、試写用のDVDを拝見したところ、とにかく「音がすごい」というのは、とても納得ができました。であれば、「ミッドランドスクエア シネマ」さんが上映が決定していると聞きつつも「名演」でも上映をどうかと配給会社であるシンカさんに提案しまして、今回同時期に名古屋で2館並行して上映することが決まりました。

通常は名古屋でも試写室で関係者試写会を行うのですが、今回は敢えて「名演」で試写会をさせていただきました。実際に映画館で観ると音のすごさが際立ち、また違った体験となりました。サウンドの良さを大事に「ミッドランドスクエア シネマ」と「名演」ではどこが違うのか、お客様にも知っていただき、双方のお客様が行き来できるようなイベントを兼ねた企画が実施できないかと支配人のお二人にご提案したところ、ご快諾をいただきまして、今回、名古屋地区では2つの劇場をつなぐ「聴き比べ企画」を実施することになりました。

――――今回、名古屋地区では同時期に2館の上映中です。「ミッドランドスクエア シネマ」と「名演小劇場」で、この公開規模の同じ作品を同時期に上映することは珍しいと伺ったのですが、上映を決めた理由はどんなところだったのでしょうか?

(酒井)我々は俗にいう「シネコン」という立場なんですが、よく「シネコン」と「ミニシアター」は対立しているように言われてしまうんです。ですが私たち「シネコン」は「ミニシアター」の作品を奪いたいという考え方ではなくて、「ミニシアター」的な作品というか、文化度が高い作品を観たい方はたくさんいると思うので、そういう映画を観たいと思ってくださる方の数を増やして、需要を掘り起こしていくような上映をしていきたいと考えています。そうした流れの中で、本作の上映を決めました。私たち「シネコン」も映画を観たいと思うお客様の数自体を増やしていきたいですし、お客様に「シネコン」と「ミニシアター」双方で映画を観てもらえるようになったら嬉しいと考えているんです。なので、今回の<聴き比べ企画>はどうかとお話をいただいて、それなら双方の良さを生かした音響設定とともに双方の映画館の「味の違い」をお客様に楽しんでもらえ、すごくいいんじゃないか、と思いました。なので、ぜひ!という気持ちで参加のお返事をさせていただきました。私たちも規模は関係なく一緒に名古屋の映画文化を盛り上げたいと考えているんです。

(阿部)いま酒井さんがお話した通り、世間一般の考えでは「ミニシアター」と「シネコン」は敵対しているような感じは見受けられますよね(笑)。小さい劇場は大きい劇場に淘汰されてしまうような、対立関係を思い浮かべている感じはあるかもしれません。ただ、映画は映画館で観てもらうと体感が違う。スマホで映画を観ることができれば、映画館に行かなくていいという方も世代によってはいらっしゃると聞いています。実際「ミニシアター」と「シネコン」では、お客様が別離しているところもあるので、お客様が行き来できる企画になれば、と今回の<聴き比べ企画>をお受けしました。私たちの映画館である「名演」では、自分で観てもいいものを上映しているという自負があるので、お客様にも御覧いただいて、納得してもらえたら、それは嬉しいことですね。ただ今は映画を観てもらうこと自体がなかなか難しい(笑)。

――――「名演」では、実際どのような音響の調整を行っているのでしょうか?

(阿部)僕はここ「名演小劇場」の映画館を作るところから参加させてもらいました。僕の知り合いと一緒に手作りしたものですから、一緒に作った映画館の作り手のほうが音にこだわっています(笑)。それを受けて調整はちょっとずつ、普段から試行錯誤をしていますね。デジタルの機材になってからはパソコンを使えばそれなりにわたしたち映画館スタッフでも調整ができるようになりました。普段は自分たちなりに夜中にこそこそと調整をしているところなんですが、それで「シネコン」上映と同じ映画を観た時に「名演」らしいいい音が出ていれば、自分のなかで納得できるところがあると思います(笑)。

――――お話を聞いていると劇場の「味」があるんですね。SNS上で本企画を発表した際「どちらで観るのかすごい悩ましい」という声もお見掛けしましたが、皆さんがオススメする本作の注目ポイントはありますか?

(高藤)説明しろと言われると、正直とても難しい映画ですね(笑)。宣伝する立場で一番に考えたのは、お客さんにどう伝えられるのかということ。最初はよくジャンルを考えるのですが、一番簡単なことのはずなのに、今回はその範疇には入りませんでした(笑)。私の世代からするとアートフィルムや実験映画、もしくはそれに近いなにか。それこそ、よくもまぁこんな作品を映画館で配給しようと思ったなと思いました(笑)。この映画の良さというか、すごいと思ったのは、スポメニックの映像荘厳なサウンド、そしてティルダ・スウィントンのナレーションです。正直、彼女が読み上げる言葉についての意味は解らなかったのですが(笑)、名演小劇場のスタッフさんに“感想”のお話をしたときに「内容にこだわるのではなく、それ(ナレーション)も一つの“音”として捉えると、違った感想が生まれるのではないでしょうか」と言われて、すごく納得したんです。音に関して、すごく貴重な体験を得られるのが、この映画の魅力だと思います。

(酒井)高藤さんがお仰る通り、音の迫力はすごく感じましたね。それに出てくる風景と音楽がマッチしていて、見ごたえもありました。…実は本作の試写会には中身を全然知らずに見に行ったんです。観ている間「いつ人が出てくるんだろう?」と思っていて、ずーっとナレーションが流れるままで…いつまで経っても人が出てこない(笑)そうしている間に終わってしまったので、とても驚きました。意外性というか、普段ハリウッドの映画ばかり見ている人間からするととても新鮮で、本当にびっくりしました(笑)。

――――いわれてみると、「最初で最後の人類」というタイトルに入っている「人類」は映像内に全然登場しない、という作品ですよね(笑)。阿部さんはいかがでしょうか?

(阿部)この映画の面白いところをあげるとしたら…たとえば、音がなくて映像とナレーションだけでもそれはそれで観れてしまう。逆に音だけでも楽しめるかもしれないけど、今度は体感としての迫力がなくなってしまう。なので、やっぱり全部を観て!っていう感じではありますね(笑)。映画という枠で全てが一体になってるんじゃないかと思えるような、ただ「感じろ!」という映画です。物語を追うような普通の映画じゃなくて、どこの廃墟かな?というものばかり出てくる映像が続くんですが、それはそれでいかにも未来から絶滅してしまった人類へメッセージが流れてくるような印象を受けるんです。映像・音楽・ナレーション、すべてが一体になった映画なので、そのまま身を委ねて、ありのままを体感してほしいですね。

――――仰る通り、映画を構成する要素が一体となった映像体験ができる映画だと思うのですが、皆さんにとって「映画館で映画を観る」ことは、どんな魅力があるのでしょうか?

(阿部)やっぱり違う世界での体験ですね。将来的には3Dももっと発展して、それこそSFドラマみたいな映画館になるんじゃないかなと思っています。それでもやっぱり、映画自体の持つ物語は普段は体験できないことが多いじゃないですか。だからやっぱり違う世界を体験できる場であると僕は思っているんですよ。

(酒井)実は前々職がレンタルビデオ・DVDのお店の店長だったんです。そこから現在の会社に転職して、部署異動で劇場の支配人として仕事をさせてもらってるんですが、映画館って全く知らない人同士が、たまたま席が近くなったとか、集まって同じ映画を観るとか、そういうことが起こる特別な場所で、仕事をするうちに映画館ならではの独特な雰囲気を感じたときにとても面白いなと思ったんですよね。動画配信が普及して、だいぶレンタルも少なくなってきましたが、一人の空間のなかでしかできない体験とはまた違う体験になっているんです。何かの縁で、そのとき・その場所に座った人達が醸し出す空気感、その貴重な体験をお客様に提案していきたいですし、そういった体験を映画館でしていただけたら、間違いなく皆様に「また映画館に観に来たい」と思っていただけるのではないかと思ってます。

(高藤)「シネコン」とよばれている大きな映画館と「ミニシアター」といわれている限られたところでの上映している映画館、そもそも大きさや座席数に違いがあるといえども、双方いろんな方と真っ暗闇のなかで、ある一定の時間を共有できるのは魅力だと思います。ある意味、ライブ感覚に近いんじゃないですかね。同じ平面のスクリーンでも普段自宅で目にするモニターやパソコンなどとは空間的に全然違って、映画館ではライブで作品が誰かと一緒に観れることに意味があるんじゃないかな。もちろん映画そのものの魅力も十分に関係していると思います。日本の場合は、ありとあらゆる国の映画がみれますし、多岐に渡るジャンルの映像体験ができるのが魅力じゃないかと思います。

2021/07/20

名古屋地区での聴き比べ企画の詳細は下記ご確認ください。
開催期間:2021年7月23日(金)~8月5日(木) ※イベント実施期間と上映期間は異なります。
ミッドランドスクエアシネマ&名演小劇場両館にて本作を各1回ずつ鑑賞された方に、ポスター(B2)をもれなくプレゼントします!ミッドランドスクエアシネマの半券、名演小劇場の鑑賞証明を2回目鑑賞の劇場スタッフにご提示ください。



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