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コアバリューの作り方。|理論と実践・実例によるデザインプロセス

その会社/組織における固有のDNA二重らせん構造とも言える

Core Value(コアバリュー)

特にスタートアップやベンチャー企業などの急成長期において、その会社が唯一無二の組織であることを維持するために、文化を破壊するような致命傷にならない輸血作業のために、自らのDNAを明文化し、理解して咀嚼し、文面やストーリーとして伝播可能な状態にしておくことは、会社/組織におけるヘルシーな成長のためにはマスト要件を考えています。

そんな"コアバリュー"の可視化、組織への浸透プロセスの実践は日夜水面下で繰り広げられてはいるものの、扱うトピックの属組織性や秘匿性の高さ、ビジネス・マーケティングノウハウ等とは対照的なクローズド性などもあって、いわゆるオープンなネット上の情報として明文化されまとめられている状態はまだまだ希だと考えています。

故にこの観点で悩むスタートアップ経営者やITベンチャー企業の人事担当からよくお問い合わせ頂くので、あくまで私の可視、認識の範囲内でこちらに一度まとめておこうと思います。扱うトピックの特性上、有料化(=限定公開化)させて頂くことをお許し頂ければと思います。

(別途、ご購入者から事後メンタリングやディスカッションを行うニーズを頂いているため、セッション用のnoteも用意しています。)

また、新型コロナウィルスの影響によって良くも悪くも「オンライン前提のコラボレーション」「効率化」が際立つリモートワーク、WFH(Work From Home)が前提の新しい労働環境に移行すればするほど、その会社や組織の「コア(核)」となる価値観、判断基準の明確化と浸透はこれからの組織運営においてより重要になっていくと断言できます。

このnoteでは、そんな「コアバリュー 」を取り扱うトップマネジメントや人事担当者の伴走者となるように、WHY、HOW、WHATの順で以下にまとめています。コアバリューの策定プロセスの要点と、最後の付録的にGAFAをはじめとした中長期で大きく成功しているグローバルIT企業での事例も解説しています。あらゆる面でこれからの会社の基礎、軸づくりに役立てて頂けると幸いです。

WHY|コアバリューの必然性

こちらに「企業文化」という解像度でまとめてあるので、一度ご参照ください。コアバリューに関わるあらゆる前提条件のインプットとして、きっと役に立つはずです。


HOW|可視化/策定プロセス

可視化/策定プロセスは、その企業のフェーズやサイズ、そしてその「企業文化」によって大きく適応すべき方法論は異なります。これはそもそも「企業文化」というものの本質になりますが、100社あれば100社異なる、唯一無二の存在が「企業文化」であり、故にそれぞれに根付くコアバリューは画一的な方法論で導こうとするのは悪手となりがちです。完全トップダウンで決めるのか、ボトムアップとのマッシュアップで作るべきか、ボトムアップはどのレイヤーまで含めるべきか...etc。
また、これはその後の浸透プロセスを見通した上で、上下の空気をしっかり掴めるカルチャーにど真ん中な人材のフィルターを通じて、真にその時のその会社/組織の状態に合わせた方法論が大切です。

具体策は属組織性が高い一方で、より視座を上げ、抽象的に組織固有のコアバリューを適切にデザインするための「基本要件」は導き出すことをできます。ここではその「基本要件」を可視化/策定プロセスの時系列順に列挙して行きましょう。

1. 最適なオーナーシップ

コアバリューのデザインプロセスにおいて最も最初にすべきことで、最も大切なことが「最適なオーナー」のアサインメントです。中長期の文化の核となるコアバリューを「人事の○○、これやっといて」レベルで決めて投げるほどの愚策はありません。オーナーのアサインメントにおいては次の3つに該当する人物を厳選すべきだと考えます。

あなたの会社の文化を代表する人をひとり選ぶとしたら誰か?という問いに最も当てはまる人材
◆ 経営レイヤーの視点と、現場レベルの空気を同時に掴める人材
◆ 組織横断プロジェクトの横風にも動じない気骨のある人材

一人のアサインメントでこれら3つをカバーできないのであれば、補い合う複数名をチームとしてアサインするのが良いでしょう。チームを編成した上でも、この3つを一番バランス良く含有している人材をリーダーとしてオーナーシップを持たせるべきです。

また、この要件を噛み締めれば分かる通り、これが正しいコアバリューを可視化/策定する部分よりも、むしろ浸透プロセスに重要な意味を持ちます。
「誰が言うか」は「何を言うか」よりも遥かにインパクトが大きくなるのがこの「文化」というものに関わる性質と言えるでしょう。

2. 最適なフレームワーク

コアバリューは本来そこにずっと存在するものです。それらを漏れなく洗い出し、場合によっては既存の文化を補う要素まで含めた形で検討が行われます。その際に、効率良く、精度良くそれらを導き出すには、優れた「フレームワーク」の必然性が出てくるでしょう。

こちらも事例やカスタマイズ性を語ればキリがありませんが、こちらのnoteにまとめたフォーマットは汎用性が高いのでこちらをベースに検討し、必要に応じてカスタマイズしてみるのが良いと思います。

詳しくはこちらのnoteに解説を譲りますが、フレームワークによってあらゆる視点(この事例ではリーダーの視点、事業成功からの視点、同僚としての視点、反証的な視点の4つの観点)から関わるメンバーが等しくアウトプットできる、かつ組織の状態にもよりますがスケーラビリティがあることがポイントです。

3. 最適な巻き込みデザイン

会社のフェーズ、規模、そして企業文化に合わせて、コアバリューデザインプロセスに誰を、どこまで巻き込むのか?が大切です。形骸化を事前に防ぐためには、このレイヤーの工夫において「その後の納得感」を醸成するのが何より大切。

ここで最も影響を受けるのがやはりその会社の「企業文化」で、分かりやすい例で言えばワンマンで圧倒的にトップダウンな企業においては、現場を巻き込んだ策定プロセスはむしろ無駄でトップダウンでトップが納得のいくものを垂直に落としてしまうのが良いでしょう。
一方で、文化としてボトムアップが根付いている会社は「納得感」という観点も含め、プロセスにしっかり現場やキーマンを巻き込んでおく必要があります。興味深く極端な事例としては、Spotify社が挙げられます。若者の投票率が高く民主主義が国の文化として根付いているスェーデンをベースとした同社のコアバリューの刷新プロジェクトでは、世界の拠点をツアー的に巡りワークショップを実施して網羅的に意見を吸い上げ、集約された25案を全社投票で10案に、さらに最終投票を実施して最後は5案に絞り込むという丁寧なプロセスを実施しています。

また、このように巻き込む人、組織が増えるほど当然そのプロセスは煩雑になり、最終的な納得感の醸成への難易度も高くなります。元GEのCEOジャック・ウェルチは1991年のバリュー刷新プロジェクトは3年間、5000人以上の社員が時間を割いて実施されたと語っています。成長過程の会社においてコアバリューを明文化しておくこと自体は、できる限り早めに対応しておくにこしたことはありません。

4. 生合成と一貫性

最終的に導き出されるコアバリューは、それ自体が満たすべき要素がいくつかあります。一連のプロセスの過程でも、最後の取捨選択の場面でも、以下をリトマス試験紙として照らし合わせてみると良いでしょう。

◆ ビジョンやミッションをサポートしていること
◆ 自社の事業が勝ち続けるために必要な要素であること
◆ この会社/組織が古来から持っていた本物であること


HOW|浸透プロセス

可視化/策定されたコアバリューは額に飾って以上、とは当然なりません。大前提として、すでに「そこにあるもの」を可視化する場合が多いですが、前項のプロセスでも触れた通りで、本来あるべきだったものが無くなりかけている、コアバリューだったものが実態として今浸透していないという状況であれば、あらためてそれを組織の末端まで行き届かせる必要があります。

その前提で、一つマインドセットを打っておきたいのです。

この前提に立った上で、短期、中期、長期でやるべきことをやり切れる人材に任せ、それを経営が(時に経営サイドが直接)全面バックアップする形でオーナーシップを持って取り組まなければ、往々にして旗振りだけで徒労に終わってしまうのがこのフェーズの課題です。

前項の可視化プロセスでも触れた通り、本プロジェクトにオーナーシップを持たせる人材のアサインメントがその観点で大切です。
必要なのは短期的に結果が出ないものを信じてやり続けられる真のオーナーシップであり、それを許容・エンパワーする経営・組織の支えであり、一般解の無い特殊解を見つけ出すその組織の洞察力に溢れた嗅覚だと言えるでしょう。

以上を踏まえた上で、この「浸透プロセス」と呼ばれるフェーズで掴んでおきたい本質が2つあると考えます。

1. 組織力学を理解する

再度こちらのnoteから引用します。

なぜ「企業文化」が大切なのか?|企業文化デザイン論

=== 引用 ===

「企業文化」デザインのキモとなるのは「人」である。文化を形作るのも「人」、体現するのも「人」、壊すのも結局「人」だ。人のダイナミクスを考慮しなければ生きた企業文化デザインは成立しない。

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そのダイナミクスを理解するには、次の三角形を理解する必要がある。大切なのは組織の普遍的な力学を理解すること。

どんな組織でも、人の集団が組織的に機能するためには物理構造として以下のような形態をとる。

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経営者や経営陣が大局の意思決定を行い、それに基づく現場オペレーションはスタッフレイヤーが支え、ボラティリティはあるがある一定数を超えた組織体は上と下のバランス係としてミドルマネジメントが上下の噛み合わせを機能させる重心となって組織は可動していく。

ここで大事な普遍的な人のダイナミクスとは、アテンションの力学を指す。

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まず物理構造として、上から下の注目が、下から上の注目を上回ることは原則無い。スタッフレイヤーは直属の上司の言動/行動から、経営層が下す戦略、戦術、人事評価から労務設計まで、ありとあらゆるものに意識/無意識下で目を配り、それらから暗黙で莫大な文化の紫外線を浴び続ける。角質の奥深くまで刻み込まれた文化の紫外線は、膨大なスタッフレイヤーの無数のコミュニケーションライン、意思決定、行動すべてに影響を及ぼす。そしてその紫外線の発信元はミドルマネジメントやトップマネジメントが意識/無意識下で示す日々の判断や行動の垂れ流しに他ならない。

正しくデザインされたと思っていた企業文化が、そういった一部の間違った垂れ流しによって汚染され、気がついたら組織全体が後戻りできないほど誤った企業文化に染まってしまうということが起こり得るのが、この組織力学による企業文化デザインの肝要なのだ。

一言でまとめると

企業文化は、経営陣やマネージャの日々の振る舞いによって規定される

と言っていい。

=== 終わり ===

文化、コアバリューを浸透させるプロセスに近道はありません。短距離向けの瞬発力より、長距離を見据えた基礎体力が大切です。それは決してポスターの掲示やSlackのアイコンなどではなく(否定はしませんが)、組織構造を踏まえた日々のコミュニケーションデザインこそど真ん中です。

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