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有事のリーダーシップにおける「型」を探る

有事である。

そこにあったはずの日常は消え去り、明日も変わらずやって来るはずの"安全な1日"は、不安と隔離を伴う"不安定な1日"になった。

特定少数から不特定多数を統べる "あらゆるリーダー"においては、「右か左か」と不安を燃料に右往左往する人々の有機体に対して、明確な道を示す使命が与えられている。
今はまさに、それぞれにその使命が、鋭利に突きつけられている。

当然、その類のリーダーにおいては、大小の差はあれ"有事"はいつでもやってくる。しかしそういったリーダーシップの危機管理はなかなか日常の営みの中で筋肉としてトレーニングし難い、いや正確には優先順位が低くなるものだ。

こんな時だからこそ、先人や今まさに目の前で汗にまみれながら背中で示してくれている真のリーダー達より、そんな有事におけるリーダーシップを学んでおきたい。そしてできればそこから共通の「型」というものを見出したい。

そのために、3つほどサンプルを並べてみることにした。

1. 陳時中|台湾政府新型コロナウイルス対策本部トップ

NHKのドキュメンタリーより。

コロナ危機において世界各国でそのリーダーシップと手腕、そしてその結果としての定量的な成績(感染者数や死者数)が日々世界中に公開されている。そんな前代未聞の全世界公開実践の中で名実ともに世界中からその危機管理対応、リーダーシップに賞賛が集まっているのが台湾だ。

コロナ封じ込めの実績においては(当然様々な要因が絡み合っているが)台湾政府の権力の中枢である蔡英文総統に対して実質的なコロナ対策のトップを仕切っている陳時中の活躍が挙げられている。

彼は何をやるにも大前提として、こういった有事においてはまず

市民の気持ちを一致団結させる

が大事だという。これが全ての土台となり、その確固たる土台を固めるために

・徹底した情報公開
・毎日自ら市民に語りかける

これを行うことによって、市民と政府との信頼関係をまず作る
これができて初めて、市民/国民に対して厳しいお願いや対応をすることができるというロジックだ。

「対策」という方法論のまえに、「信頼関係」という土台を築くこと。
これは有事のリーダーシップとして普遍的な前提条件なのではないだろうか。

2. 柳生正|株式会社ファーストリテイリング 代表取締役会長兼社長

経営の原理原則を重んじるスタイル、時代に流されない本質のみを追求し続けるスタイルは、何度も繰り返し私の心を動かしてきました。

偶然にもこんな時期に「経営者になるためのノート」でガリガリ勉強してたのですが、こんな一節を見かけました。

使命感の追求が経営の本道ではあるが、特に昨今経営者が準備しておかなければならないことは、突然訪れる会社の危機への対応であると。そして、こうした事に対して想像を避けるのではなく、想定して、経営者として自分の行動原理を準備しておくことが、使命感を追求する健全な会社を危機から守り抜くためには必要と説く。

私ならば、危機に際して、次のように考え、行動すると昔から決めている。まずは、経営者として先頭に立つ。何かが起こったら、率先して情報を収集し、できるだけ早く対応策を決断し、具体的な行動に落とし込む。そしてその決断に沿って、各現場のリーダーが権限を持って、刻々と変化する現実に対応していく態勢を整える。この一連の動きを実行できるのは、組織においてはトップしかない
また、従業員や社会に向かってはすぐに第一声を準備する。準備ができ次第、なるべく早く発信する。可能な限り早く第一声を出すことが大切なのは、企業経営者でも、政治家でも同じだろう。
その際に大事なのが、現実を直視することだ。自分たちにとって不都合で、過酷な現実であっても、それを直視し、受け止める。何をやるかを考えて実行に移す。(中略)何よりも大切なのは情報公開だろう。発表するのにためらうような厳しい現実であっても、トップ自ら現実を説明すべきだ。ただし、その場合、「今は厳しい状況だが、いずれはこうしていく」と付け加える。
そうして情報をきちんと公開していれば、従業員や世間一般との間に信頼関係ができる。危機に際して、世の中と信頼関係を築くのもトップの役割だ。危機の時ほど、トップの真の資質が問われる。会社が順調な時は誰が経営者でも、そこそこ何とかはやっていける。しかし、危機に際してはリーダーが素早く適切な判断を下さないと、致命傷になりかねない。

・従業員(=国民/市民)との信頼関係の構築
・情報公開を大切にする
・自ら先頭に立ち、自ら説明する

言わずもがなの、有事におけるリーダーシップの相似形が浮かび上がる。

いや、これは柳生さんが40年もの経営生活の中で実体験として磨き上げ、先人から学び尽くしてきた先の最終形態に近いものなのであれば、これ以上私が筆舌を尽くす必要も無いのだろう。

それぐらい、迫力のある一説。

John Zimmer | co-founder of Lyft.

企業における有事は、往々にして競争環境下における熾烈な争いにおいて起こる。典型的な事例は、スタートアップが死に物狂いで価値を証明したそのすぐ後に、巨大な資本を武器に後発でやってくる"ジャイアント"の存在だ。

中でもUberXに立ち向かったLyftのリーダーシップは感慨深い。上記記事podcastより、ジョン・ジマーの声を再掲する。

当時は30人の小さい会社だった(5年後の今は5,000人)。
朝起きたらUberが調達して$3Bになり、そんなクレイジーな競合が我々を潰しにくると(笑)
ただ、できることはビジョン・ミッション・バリューに引き続きフォーカスし続けることだと信じていた。
5年前誰もがLyftは死んだと思った。$3Bの競合がいて、ネットワークエフェクトが大事な事業ドメインにおいてLyftにもう勝ち目はないと。
しかし、バリューは重要だった。ユーザー(ドライバーとライダー両方)を丁寧にケアすることは大事だった。つまり、自分がコントロールできることにフォーカスすること。

ジマーは、有事の時こそ本来我々が進むべき道、成し遂げたい使命、体現すべき価値観にブレないことの重要性を語る。この「使命に忠実に行動する」というのが、前述の2つとも共通し補完し合うリーダーシップのコアとなる部分なのだろう。

有事のリーダーシップとは、
信頼をベースに、迅速で、透明性を持ち、リーダー自ら語りかけ、意思決定をし、行動する全てが「使命」に基づいたものでなくてはならない、と。

今求められる「型」とは。

こういった複数の事例(実績)から共通の真理を導き出し、本質のみを削ぎ落とし、その軸を基に前提条件、環境変化に対して臨機応変に手段を検討していく、という一連のこれまた「型」を、自らの学習/実行プロセスとして持っておく事自体もまた、変化が前提条件のこれからを生き抜く、勝ち抜く上で重要なお作法であるとあらためて心に刻みたいですね。

今こそ、誰もが自らの人生に、家族に、有事のリーダーシップを。

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