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総合誌、同人誌等で過去に掲載されたものを放り込んでいきます。
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#読書

溜め息交じりの強かさ――遠藤由季『鳥語の文法』書評

 「かりん」所属の作者による、約7年ぶりの第二歌集。2010年から2016年にかけての375首を収める。

ガムテープの芯の真ん中にいるようだ荷物がまとまらない真夜中は
いつもなにかを抱えておりぬカステラの底のざらめはさりさりとする
わたくしを薄めゆくのは言葉なり蜘蛛のひかりを纏う本選る

 読み始めると、こうした歌が溜め息交じりに響いてくる。職場や家族、更には年齢といった、個人の生活に関わる歌も

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感情が突沸する時――染野太朗『人魚』書評

 「まひる野」所属の作者による、5年10ヶ月ぶりの第二歌集。記載はないが、412首を収める。

父の揚げた茗荷の天麩羅さくさくと旨しも父よ長生きするな
教壇に黒板消しを拾い上げおまえも死ねと言ってしまいぬ
あなたへとことばを棄てたまっ白な壁に囲まれ唾を飛ばして

 読み進めていくと、こうした強い言葉や感情を伴った歌と頻繁に出会う。引用した歌ではそれぞれ、肉親や、生徒や、「あなた」に対する〈私〉の感

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言葉を信頼して「読む」こと――北村薫『うた合わせ 北村薫の百人一首』書評

 「小説新潮」誌上で五〇回に渡って連載された、小説家・北村薫による短歌鑑賞エッセイを纏めたもので、巻末には藤原龍一郎・穂村弘との鼎談も収録されている。
 とは言え、この本は普通のいわゆる「秀歌鑑賞」の本ではない。毎回、テーマに沿って、著者が古今東西の歌集から対となる歌を引いてくるわけだが、何よりその組み合わせが特異で、毎回驚かされる。例えば、「祈り」の章で斉藤斎藤の「シースルーエレベーターを借り切

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詩型が持つ錨について――川野里子『七十年の孤独 戦後短歌からの問い』書評

 総合誌等に発表された文章を集めた評論集で、「出発について」「源について」「今について」「未来について」という、時代の流れに即して配された四章から成る。版元はここ数年話題の書肆侃侃房である。
 戦後七十年であった昨年(2015年)は、現代短歌のこれまでの流れを改めて問う機会が雑誌等でも多かった。川野はまず、冒頭の「七十年の孤独――第二芸術論の今」において、「現代短歌とは、第二幻術論以後の短歌のこと

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