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no.10 腸内細菌、FMT研究の最新論文紹介

今回は、腸内細菌が宿主遺伝子の影響を受けることから、異なる遺伝子集団から交雑させたマウスの腸内細菌を調べ、薬剤耐性遺伝子が多かったことを見出した論文が特に面白かったです。

ゲノム解析技術が手軽に使えるようになり、目に見えないマイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この15年あまりで指数関数的に増えています。

ここでは、PubMedで'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。

新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!


自己免疫疾患における腸マイクロバイオームの役割

[Review Article]
(タイトル)Emerging role of gut microbiota in autoimmune diseases
(タイトル訳)自己免疫疾患における腸マイクロバイオームの役割
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11099291/
(概要)自己免疫と腸マイクロバイオーム(主に細菌)についてのレビュー論文。腸内細菌と宿主免疫の関係や、個々の疾患との関連も細かく検討している。(全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ。シェーグレン症候群、Ⅰ型糖尿病、潰瘍性大腸炎、乾癬)
(著者)Wenchang Sunら
Department of Central Laboratory, The First Affiliated Hospital of Shandong Second Medical University, Weifang, China
(雑誌名・出版社名)frontiers in Immunology
(出版日時)2024 May 3

特集:幼少期の「機会の窓」:免疫システムの刷り込みにおけるマイクロバイオームの役割

[Editorial]
(タイトル)Editorial: The early life window of opportunity: role of the microbiome on immune system imprinting
(タイトル訳)特集:幼少期の「機会の窓」:免疫システムの刷り込みにおけるマイクロバイオームの役割
(URL)https://www.frontiersin.org/research-topics/49650/the-early-life-window-of-opportunity-role-of-the-microbiome-on-immune-system-imprinting/articles
(概要)胎児期から乳児期までのマイクロバイオームと免疫形成に関わる2つのレビュー論文を含む5つの論文が掲載されている。
(エディター)Richard Blumbergら
Division of Gastroenterology, Department of Medicine, Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA, United States
(雑誌名・出版社名)Frontiers in Immunology
(出版日時)2024 May 3
(コメント)機会の窓=window of opportunityという言い回しは、生命の誕生期における外部の細菌やその他の異物に出会うことを指す。

口腔微生物叢の異常は、宿主の代謝を調節することにより、慢性的な拘束ストレスによるうつ病様行動を変化させる

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1043661824001580?via%3Dihub

[Regular Article]
(タイトル)Oral microbiota dysbiosis alters chronic restraint stress-induced depression-like behaviors by modulating host metabolism
(タイトル訳)口腔微生物叢の異常は、宿主の代謝を調節することにより、慢性的な拘束ストレスによるうつ病様行動を変化させる
(URL)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1043661824001580?via%3Dihub
(概要)口腔内細菌とうつ症状の関連を調べるため、臨床研究とマウス実験を行った。うつ症状を持つ87人の患者と70人の健康な対照者の口腔微生物の構成およびメタボロームを比較すると、二つのグループ間で口腔微生物および代謝の特徴が有意に異なることが判明した。
また、マウスを慢性的な拘束状態によるストレスにさらしたあと、その唾液を無菌マウスに移植したところ、うつ病様行動と口腔微生物叢の異常を示した。これは、Pseudomonas、Pasteurellaceae、およびMuribacterの増加およびStreptococcusの減少を含む細菌種の有意な差異によって特徴づけられた。また、メタボローム解析では、口腔および腸のバリア機能障害を示唆する結果も得られた。
(著者)Xin Jinら
College of Stomatology, Chongqing Medical University, Chongqing 401147, China
(雑誌名・出版社名)Pharmacological Research(ELSEVIER)
(出版日時)June 2024

ハイブリッド(交雑)マウスにおける腸内細菌の異常は、薬剤耐性遺伝子(ARG)を増加させる

[Regular Article]
(タイトル)Aberrant microbiomes are associated with increased antibiotic resistance gene load in hybrid mice
(タイトル訳)ハイブリッド(交雑)マウスにおける腸内細菌の異常は、薬剤耐性遺伝子(ARG)を増加させる
(URL)https://academic.oup.com/ismecommun/article/4/1/ycae053/7645735?login=false
(概要)異なる遺伝的集団の交配である交雑は、腸内細菌群集のさまざまな構成要素に影響を与えますが、抗生物質耐性のような細菌の特性に対する影響は不明である。本研究では、交雑が細菌群集およびARGの発生に影響を与える可能性があることをマウス実験によって示した。
交雑マウスでは、特定の細菌分類群および主に多剤耐性遺伝子レベルでARGの豊富さが増加していた。
(著者)Emanuel Heitlingerら
Leibniz Institute for Zoo and Wildlife Research (IZW), Alfred-Kowalke-Straße 17, 10315, Berlin, Germany
(雑誌名・出版社名)ISME communications (OXFORD academic)
(出版日時)15 April 2024
(コメント)腸内細菌叢の形成に宿主の遺伝子がかかわることはこれまで示されていたが、異なる遺伝子集団同士の交雑が薬剤耐性遺伝子に影響を及ぼす研究結果はかなりセンセーショナルなものと思われる。

腸眼相関を視る:細菌の代謝物がどのように眼の健康に影響するか

[Review Article]
(タイトル)Unveiling the gut-eye axis: how microbial metabolites influence ocular health and disease
(タイトル訳)腸眼相関を視る:細菌の代謝物がどのように眼の健康に影響するか
(URL)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmed.2024.1377186/full
(概要)眼科領域と腸内細菌の関連を調べる研究は少ないが、細菌性角膜炎、緑内障、加齢性黄斑変性、バッテン病、ブドウ膜炎などと腸内細菌の顔ぶれ、腸内細菌の代謝物(短鎖脂肪酸や胆汁酸)との関連が示されつつある。特に代謝物は網膜で信号の役割を果たすなど、眼との関連が深い。
(著者)Menaka C Thounaojamら
Departments of Cellular Biology and Anatomy, Augusta University, Augusta, GA, United States
(雑誌名・出版社名)Frontiers in Medicine
(出版日時)10 May 2024
(コメント)本文のTable1には腸内細菌と眼科系疾患の関連についての論文リスト、Table2には腸内細菌の代謝物と眼科系疾患の関連についての論文リストがあるので参照されたい。
腸内細菌は診療科を超えて関連するのが特徴だけれど、眼は消化管や気管や脳に比べて腸内細菌との関連が薄そうなイメージだったがそんなことはないのかもしれない。レビュー内では臨床試験の例も挙げられているが、まだあまり充実はしていない印象。

慢性的な下痢と消化不良に苦しむフェレットへのFMT:腸内細菌の変化と臨床結果のケースレポート

[Regular Article]
(タイトル)Fecal Microbiota Transplantation in a Domestic Ferret Suffering from Chronic Diarrhea and Maldigestion–Fecal Microbiota and Clinical Outcome: A Case Report
(タイトル訳)慢性的な下痢と消化不良に苦しむフェレットへのFMT:腸内細菌の変化と臨床結果のケースレポート
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11143982/
(概要)このケースレポートは、慢性下痢と消化不良症状および体重減少のある4歳のフェレット(Mustela putorius furo) にFMTを実施した結果を報告するものである。FMTはまず経口で実施され、体重は一時的に増加したが、また減少傾向を示した。そこで、経口から一週間後に経腸FMTを初日と3日目に、メンテナンスの意味で経口FMTを経腸FMTの7日後に2回実施した。Enterobacteriaceaeの量は減少したが、不幸にもフェレットの体重減少は止まらず、症状の改善もなかったので中止せざるを得なかった。患者の併存疾患(インスリノーマ、副腎疾患)および以前の抗生物質の投与が、この結果に関連している可能性がある。
(著者)Victoria M Hollifieldら
Best Friends’ Veterinary Hospital, Gaithersburg, MD, USA
(雑誌名・出版社名)Dovepress(Veterinary Medicine)
(出版日時)2024 May 28
(コメント)フェレットの重度の下痢を治療するためにFMTを使用した最初の報告。フェレットの健康な細菌叢のデータについても不足。

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