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No.6  マイクロバイオーム研究の最新論文紹介(微生物、腸内細菌の最前線)

今回は、日本の論文で面白いものをいくつかピックアップしたものを混ぜています。
個人的に面白いなと思ったものは、☆をつけています。

ゲノム解析技術が手軽に使えるようになり、目に見えないマイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この10年あまりで指数関数的に増えています。

ここでは、PubMedで'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。

新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!


腸内細菌叢が母親の育児ストレスや心身のレジリエンスに関連する

[Regular Article]
(タイトル)Intestinal microbiome and maternal mental health: preventing parental stress and enhancing resilience in mothers
(タイトル訳)腸内細菌叢が母親の育児ストレスや心身のレジリエンスに関連する
(概要)京大のプレスリリースがあるので、こちらを見てください。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-03-01
(著者)明和政子 教育学研究科教授、松永倫子 日本学術振興会PD特別研究員、萩原圭祐 大阪大学特任教授、株式会社サイキンソーらの共同研究グループ
(雑誌名・出版社名)Communications Biology(Nature)
(出版日時)29 February 2024
(コメント)文理の境界を超えた非常に素晴らしい研究だと思います。

腸内細菌は宿主の食生活に遺伝子変異で適応する
―無菌マウスと大腸菌を用いた人工共生系で明らかに―

https://journals.asm.org/doi/10.1128/msystems.01123-23

[Regular Article]
(タイトル)Genetic mutation in Escherichia coli genome during adaptation to the murine intestine is optimized for the host diet
(タイトル訳)腸内細菌は宿主の食生活に遺伝子変異で適応する ―無菌マウスと大腸菌を用いた人工共生系で明らかに―
(概要)研究グループは無菌マウスと大腸菌を用いた人工共生系において、腸内定着時に生じる大腸菌ゲノムの遺伝子変異は、宿主であるマウスの食餌の種類に依存して変化すること、およびこれらの変異株はマウス腸内の栄養素を効率的に利用する能力を高めることで、遺伝子変異のない大腸菌株よりもマウス腸内で優勢になることを明らかにしました。
↓日本語版でプレスリリースが見られます
https://www.iab.keio.ac.jp/docs/mutator論文_プレスリリース_240214final.pdf
(著者)慶應義塾大学先端生命科学研究所らの研究グループ
(雑誌名・出版社名)mSystems
(出版日時)11 January 2024
(コメント)食べるものを変えてもなかなか腸内細菌の「種」は変わらないとされていたが、遺伝子レベルでは変わっているのかも、と思わされました。

昆虫は腸内微生物で病気に強くなる
-腸内微生物が腸管を突破して昆虫の免疫系を活性化することを発見-

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2315540121

[Regular Article]
(タイトル)Ingested soil bacteria breach gut epithelia and prime systemic immunity in an insect
(タイトル訳)昆虫は腸内微生物で病気に強くなる
-腸内微生物が腸管を突破して昆虫の免疫系を活性化することを発見-
(概要)ダイズの害虫であるホソヘリカメムシの免疫機構を調査したところ、腸内微生物の一部が消化管の上皮細胞を突破し、カメムシの体内で貪食細胞や免疫細胞と相互作用することで全身的な免疫反応を引き起こすことが分かりました。さらに、腸内微生物によって免疫系が活性化されたカメムシは、病原菌が感染しても高い生存率を示すことも分かりました。
↓日本語版プレスリリース
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2024/pr20240305/pr20240305.html
(著者)国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 菊池 義智 研究グループ
フランス国立科学研究センター
(雑誌名・出版社名)Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
(出版日時)2024年3月4日
(コメント)細菌はホソヘリカメムシの腸管に定着した後に、腸管上皮細胞を通り抜けて体液中に取り込まれるというところがすごいおもしろい。

腸マイクロバイオームが視床下部での食欲調節神経ペプチドに及ぼす影響:抗生物質投与マウスと無菌マウスを使った神経性無食欲症モデルを通して

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0969996124000597?via%3Dihub

[Regular Article]
(タイトル)Influence of the gut microbiome on appetite-regulating neuropeptides in the hypothalamus: Insight from conventional, antibiotic-treated, and germ-free mouse models of anorexia nervosa
(タイトル訳)腸マイクロバイオームが視床下部での食欲調節神経ペプチドに及ぼす影響:抗生物質投与マウスと無菌マウスを使った神経性無食欲症モデルを通して
(概要)腸マイクロバイオームと神経性無食欲症(拒食症)の関連を調べるため、抗生物質処理を受けた、および無菌マウスで無食欲マウスモデルを作成した。実験により、腸内細菌が視床下部での4つの食欲増進ペプチドと4つの食欲減退ペプチドの発現に影響をあたえることが示された。
(著者)Radka Roubalováら
Laboratory of Cellular and Molecular Immunology, Institute of Microbiology of the Czech Academy of Sciences, Prague, Czech Republic
(雑誌名・出版社名)Neurobiology of Disease(ELSEVIER)
(出版日時)April 2024

腸微生物叢と脳容積、そして知能の関係:メンデルランダム化解析を通して見えてきたこと

https://www.biologicalpsychiatryjournal.com/article/S0006-3223(24)01132-6/abstract

[Regular Article]
(タイトル)The causal relationship between gut microbiota, brain volume, and intelligence: a two-step Mendelian randomization analysis
(タイトル訳)腸微生物叢と脳容積、そして知能の関係:メンデルランダム化解析を通して見えてきたこと
(概要)腸内微生物叢が知能に与える影響を考えるため、統計学的手法を用いて検証を実施。Oxalobacter属の知能に対するリスク効果や、Fusicatenibacter属の知能への保護効果が見出された。この研究は、認知機能障害などの予防に役立つ可能性がある。
(著者)Shi Yaoら
Guangdong Key Laboratory of Age-Related Cardiac and Cerebral Diseases, Affiliated Hospital of Guangdong Medical University, Zhanjiang, Guangdong, China
(雑誌名・出版社名)Biological Psychiatry
(出版日時)March 01, 2024

妊娠中と生後すぐの母と子の腸内ウイルスの移行と動態

☆面白い
[Regular Article]
(タイトル)Transmission and dynamics of mother-infant gut viruses during pregnancy and early life
(タイトル訳)妊娠中と生後すぐの母と子の腸内ウイルスの移行と動態
(概要)30名の妊婦の妊娠期間と、その子ら32名の生後一年間まで、腸内ウイルスと細菌を追跡した。妊娠期間中の腸内ウイルスは比較的安定していたが、生後一年以内の子どもは大きく変化していった。
興味深いことに、乳児の腸内ウイルスは溶原ファージが多かった。
また、乳児の栄養源や分娩方法によっても腸内ウイルスが変化しており、乳児の腸内ウイルスは一部が母親由来であることが示された。
(著者)Alexandra Zhernakovaら
Department of Genetics, University of Groningen, University Medical Center Groningen, Groningen, the Netherlands
(雑誌名・出版社名)Nature Communications
(出版日時)02 March 2024
(コメント)母親由来のウイルスが子どもに伝達し、溶原ファージ化して子どもを守っている??

【FMT(糞便微生物移植)関連】

ドナーとレシピエントの微生物相互作用が亜種間の伝達やFMTの治療効果に影響する

https://www.cell.com/cell-host-microbe/abstract/S1931-3128(24)00017-9?dgcid=raven_jbs_aip_email

[Regular Article]
(タイトル)Donor-recipient intermicrobial interactions impact transfer of subspecies and fecal microbiota transplantation outcome
(タイトル訳)ドナーとレシピエントの微生物相互作用が亜種間の伝達やFMTの治療効果に影響する
(概要)胃腸障害を併発しているASDの子どもにカプセル化されたFMTを実施した治験 (Chinese Clinical Trial: 2100043906)を通して、種ゲノムビン(SGB)という方法を用いて亜種間の伝達を調べている。結果、ドナーとレシピエントの微生物間の相互作用が系統的に異なるほうが、臨床効果が高いことがわかった。
(著者)Qiyi Chenら
Department of Colorectal Disease, Intestinal Microenvironment Treatment Center, Shanghai Tenth People's Hospital, Tongji University School of Medicine, Shanghai 200072, China
(雑誌名・出版社名)Cell Host & Microbe
(出版日時)February 16, 2024
(コメント)有料論文です。

免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を高めるための、腸と腫瘍の微生物を調整できるか

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0944501324000697?via%3Dihub

[Review Article]
(タイトル)Targeted modulation of gut and intra-tumor microbiota to improve the quality of immune checkpoint inhibitor responses
(タイトル訳)免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を高めるための、腸と腫瘍の微生物を調整できるか
(概要)腫瘍に存在する微生物と腸の微生物のクロストークを通じて、腫瘍内の微生物叢や腫瘍環境を変えることに関する研究をまとめている。微生物の調整方法として、FMT、プレバイオティクス、プロバイオティクス、ポストバイオティクス、抗生物質などの方法を併せて検討している。
(著者)WeiZhou Wangら
Department of Oncology, The Affiliated Hospital of Southwest Medical University, Luzhou, Sichuan 646000, China
(雑誌名・出版社名)Microbiological Research(ELSEVIER)
(出版日時)May 2024
(コメント)途中から有料です。

再発性C. difficile腸炎の患者に対するFMTの長期的な効果として、多剤耐性菌や耐性遺伝子が減少した

https://genomemedicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13073-024-01306-7

☆面白い
[Regular Article]
(タイトル)Long-term beneficial effect of faecal microbiota transplantation on colonisation of multidrug-resistant bacteria and resistome abundance in patients with recurrent Clostridioides difficile infection
(タイトル訳)再発性C. difficile腸炎の患者に対するFMTの長期的な効果として、多剤耐性菌や耐性遺伝子が減少した
(概要)再発性C. difficile腸炎の患者にFMTを実施したのち、3週間と1-3年経過後に糞便の遺伝子解析を行った。その結果、多剤耐性菌や耐性遺伝子が減少していた。これらの効果は、一朝一夕で出るものではなく、FMTののち数ヶ月してから患者の腸内で微生物生態系ができあがってから出るものであるらしい。
(著者)Sam Nooijら
Netherlands Donor Feces Bank study group
(雑誌名・出版社名)Genome Medicine(BMC)
(出版日時)28 February 2024
(コメント)オランダのドナーバンク研究会の人たちが出した論文で、面白いです。

不安行動マウスにおける前頭前皮質のmiRNA発現における糞便微生物移植による調節

https://www.frontiersin.org/journals/psychiatry/articles/10.3389/fpsyt.2024.1323801/full

[Regular Article]
(タイトル)Regulation of miRNA expression in the prefrontal cortex by fecal microbiota transplantation in anxiety-like mice
(タイトル訳)不安行動マウスにおける前頭前皮質のmiRNA発現における糞便微生物移植による調節
(概要)全般性不安障害(GAD)の病態生理学と脳miRNAの直接的な関連を示すため、GADドナーと健康ドナー(どちらもヒト)からマウスへFMTを実施。GADドナーと健康ドナーは腸内細菌叢が違っており、前者のFMTを受けたマウスは不安行動を示した。その際、GAD病態に影響をあたえるmiRNAの変動が見られ、これらは細菌の存在比と相関を示した。
(著者)Simin Chenら
School of Traditional Chinese Medicine, Beijing University of Chinese Medicine
Beijing, China
(雑誌名・出版社名)Frontiers in Psychiatry
(出版日時)12 February 2024
(コメント)脳腸相関の中身がだんだんわかってきている様子。

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