no.11 腸内細菌、FMT研究の最新論文紹介
今回個人的に興味深かったのは、耐性遺伝子の文献が多かったこと。
ゲノム解析技術が手軽に使えるようになり、目に見えないマイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この15年あまりで指数関数的に増えています。
ここでは、PubMedで'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。
基本的には、無料で読めるものを中心に紹介しています。(有料のものはコメントに書くようにしています。)
新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!
重症ASD患者の19歳男性に対する、家族由来のFMT実施後の腸内細菌の組成変化と臨床症状の改善
[Regular Article]
(タイトル)Improvements in Gut Microbiome Composition and Clinical Symptoms Following Familial Fecal Microbiota Transplantation in a Nineteen-Year-Old Adolescent With Severe Autism
(タイトル訳)重症ASD患者の19歳男性に対する、家族由来のFMT実施後の腸内細菌の組成変化と臨床症状の改善
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11073461/
(概要)標準治療では効果のなかった患者に対して、定型発達の妹の糞便を移植した。評価者は、自閉症を持つ子供の発達遅延を評価するための観察ベースの評価スケールであるChildhood Autism Rating Scale(CARS)を使用し、ベースラインとFMT後の6つの時点で評価を実施。
FMTの10日前にバンコマイシン(抗生物質)を服用し、懸濁液は大腸内視鏡を用いて投与した。
その後、1年半にわたり、患者の言語スコアや感覚認識スコアは一旦減少が見られるなどの経緯をたどりながら、改善した。
(著者)Stephen J. Walkerら
Wake Forest Institute for Regenerative Medicine, Winston Salem, NC, USA
(雑誌名・出版社名)JOURNAL OF MEDICAL CASES
(出版日時)2024 May 2
(コメント)およそ3週間後に、言語スコアと感覚認識スコアに関する記述の訂正を発表している。著者の1人のSabine Hazan氏は論文の捏造が見つかっていて、信頼性に注意が必要。
自閉スペクトラム症の児童と口腔内細菌:診断による違いと臨床的な特徴の関連
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666354624000796
[Regular Article]
(タイトル)Oral microbiota in autistic children: Diagnosis-related differences and associations with clinical characteristics
(タイトル訳)自閉スペクトラム症の児童と口腔内細菌:診断による違いと臨床的な特徴の関連
(URL)https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666354624000796
(概要)自閉スペクトラム症と口腔内細菌の関連を調べるため、自閉スペクトラム症を持つ80人の学童(8-12歳、男児64名、女児16名)と定型発達の同年齢の学童40名(男児32名、女児8名)の口腔内細菌や症状を比較した。
すると、自閉スペクトラム症を持つ子どもは属レベルでSolobacterium, Stomatobaculum, Ruminococcaceae UCG.014, Tannerella, Campylobacterなどの細菌が明らかに豊富であり、この違いは最近の歯科治療や食生活などの影響を除いても残ったままだった。
(著者)Marie Joossensら
Ghent University, Department of Biochemistry and Microbiology, Laboratory of Microbiology, Ghent, Belgium
(雑誌名・出版社名)Brain, Behavior, & Immunity - Health(ELSEVIER)
(出版日時)Available online 29 May 2024
(コメント)マイクロバイオームの解析は16S rRNA gene (V3–V4 region)で実施しているので、細菌のみの解析となる。
食生活の影響は、卵をよく食べるか、甘いものをよく摂るかという質問だった。詳しい質問は3.5.2に記載。
Tannerella属はBacteroidales目で、もともとBacteroides属だったが2002年に枝分かれ。Tannerella forsythiaは歯周病原菌として有名。(参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/30/3/30_119/_pdf)
痩せたドナーの腸微生物を移植すると、高脂肪食によって肥満したラットの体重の増加が抑えられ、脳腸迷走神経シグナル伝達系が回復した
[Regular Article]
(タイトル)Transfer with microbiota from lean donors prevents excessive weight gain and restores gut-brain vagal signaling in obese rats maintained on a high fat diet
(タイトル訳)痩せたドナーの腸微生物を移植すると、高脂肪食によって肥満したラットの体重の増加が抑えられ、脳腸迷走神経シグナル伝達系が回復した
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11160927/
(概要)高脂肪食によるティスバイオシスは、腸-脳迷走神経シグナル伝達系の構造的および機能的な変化と関連していることが知られている。一方で、肥満における肥満における正常な微生物叢の回復が腸-脳シグナル伝達および代謝結果を改善するかどうかは不明な点が多い。そこで、ラットを用いて痩せたドナーからの微生物移植がどのような効果をもたらすかを実験した。
その結果、ラットの過度な体重増加は防止され、脳幹での迷走神経求心繊維密度は変化がなかったが、消化管にある一時感覚ニューロン、脳幹の二次ニューロンの食後活性の増加を示した。
(著者)Claire B de La Serreら
Department of Biomedical Sciences, Colorado State University, Fort Collins, CO
(雑誌名・出版社名)プレプリント
(出版日時)2024 May 31
脊椎関節炎における腸微生物の役割を探る:病気の発症と治療戦略へのヒント
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1521694224000329?via%3Dihub
[Review Article]
(タイトル)Exploring the role of gut microbes in spondyloarthritis: Implications for pathogenesis and therapeutic strategies
(タイトル訳)脊椎関節炎における腸微生物の役割を探る:病気の発症と治療戦略へのヒント
(URL)https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1521694224000329?via%3Dihub
(概要)レビュー論文。さまざまな病態の脊椎関節炎において、腸微生物や代謝機能の変化がどのように見られるか、さらには病気に併発する腸の炎症についても触れている。
現在まで、動物実験や臨床研究を通して、腸内細菌構成や機能予測、宿主の遺伝子発現状態などを明らかになりつつある。さらに代謝機能の研究をとおして、短鎖脂肪酸など、治療戦略も見え始めてきた。
(著者)Alec Furstら
School of Medicine, Oregon Health and Science University, Portland, OR, 97239, USA
(雑誌名・出版社名)Best Practice & Research Clinical Rheumatology(ELSEVIER)
(出版日時)8 June 2024
(コメント)有料です
骨密度指数(BMD)が低下した閉経後の女性における腸マイクロバイオームと血清代謝物の特徴
[Regular Article]
(タイトル)Characteristics of the gut microbiota and serum metabolites in postmenopausal women with reduced bone mineral density
(タイトル訳)骨密度指数(BMD)が低下した閉経後の女性における腸マイクロバイオームと血清代謝物の特徴
(URL)https://www.frontiersin.org/journals/cellular-and-infection-microbiology/articles/10.3389/fcimb.2024.1367325/full
(概要)本研究では、腸内細菌叢の特徴と閉経後女性のBMD低下に伴う血清代謝物の変化を理解するために、正常またはBMDが低下した閉経後の個人を募集した。糞便および血清サンプルを収集し、16S rRNA遺伝子シーケンシング、液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせたメタボロミクス(LC-MSベースのメタボロミクス)および統合解析を行った。
結果、BMD低下群では細菌の多様性が高く、BMD指数や骨代謝マーカーと関連の高い細菌も見つかった。相関解析により、正常群で豊富なBacteroidesの存在量とエチオコラノロンおよびテストステロン硫酸塩の存在量との間に正の関連があることが明らかになった。
(著者)Wendong Wangら
Department of Articular Orthopaedics, The Second People’s Hospital of Dalian, Dalian, China
(雑誌名・出版社名)Frontiers in Cellular and Infection Microbiology
(出版日時)07 June 2024
欧州各国の健康なヒトおよびカルバペネム治療を受けた患者から分離された腸内のBacteroides、Parabacteroides、Phocaeicolaの抗生物質耐性遺伝子の検出
[Regular Article]
(タイトル)Detection of the antibiotic resistance genes content of intestinal Bacteroides, Parabacteroides and Phocaeicola isolates from healthy and carbapenem-treated patients from European countries
(タイトル訳)欧州各国の健康なヒトおよびカルバペネム治療を受けた患者から分離された腸内のBacteroides、Parabacteroides、Phocaeicolaの抗生物質耐性遺伝子の検出
(URL)https://bmcmicrobiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12866-024-03354-w
(概要)Bacteroides fragilisグループ(BFG)の種は、最も重要な嫌気性病原体であり、同時に最も抗生物質耐性のある嫌気性種である。本研究の目的は、健康な人から分離された微生物叢の主な抗生物質遺伝子の内容を調査し、感染から分離された株の遺伝子保有と比較することであった。
5つのヨーロッパ諸国(ベルギー、ドイツ、ハンガリー、スロベニア、トルコ)で分離された184の腸内BFG株の13の主に抗生物質耐性決定因子を検出し、これを以前に得られたヨーロッパの臨床株の値と比較した。本研究は、腸内Bacteroides株の一連の抗生物質耐性遺伝子の存在率を検出したことが新規性がある。
(著者)Elisabeth Nagyら
Institute of Medical Microbiology, Albert Szent-Györgyi Health Centre and Medical School, University of Szeged, Szeged, Hungary
(雑誌名・出版社名)BMC Microbiology
(出版日時) 08 June 2024
(コメント)Parabacteroides、PhocaeicolaはそれぞれBacteroidesの近縁であると考えて良い
腸内耐性遺伝子は性的指向とHIV感染に関連する
[Regular Article]
(タイトル)Gut resistome linked to sexual preference and HIV infection
(タイトル訳)腸内耐性遺伝子は性的指向とHIV感染に関連する
(URL)https://bmcmicrobiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12866-024-03335-z
(概要)HIV感染者は多剤耐性病原体に感染しやすい。腸マイクロバイオームには腸内レジストームとして知られる抗菌薬耐性決定因子が存在し、免疫との関連も深い。
さらに、性的嗜好はPLWHの腸内マイクロバイオームの構成に強い影響を与え、MSM(男性と性交渉を持つ男性)と非MSMでそれぞれ異なるPrevotellaまたはBacteroidesが豊富なエンテロタイプが見られる。
ショットガンメタゲノミクスを使用して、スペイン・バルセロナで実施された横断的観察研究から、異なるHIV臨床プロファイルを示す129人のHIV-1感染者と27人のHIV-1陰性対照群の腸内レジストーム構成を特徴づけた。
(著者)Marc Noguera-Julianら
Infectious Disease Networking Biomedical Research Center (CIBERINFEC), Carlos III Health Institute, Madrid, Spain
(雑誌名・出版社名)BMC Microbiology
(出版日時)08 June 2024
乳児の腸内耐性遺伝子は年齢に逆相関し、それは乳児期の炭水化物代謝を反映している
[Regular Article]
(タイトル)Infant age inversely correlates with gut carriage of resistance genes, reflecting modifications in microbial carbohydrate metabolism during early life
(タイトル訳)乳児の腸内耐性遺伝子は年齢に逆相関し、それは乳児期の炭水化物代謝を反映している
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11170968/
(概要)乳児の腸内マイクロバイオームには抗生物質耐性遺伝子が存在することが知られている。本研究では、6カ国963人の乳児から採取された4132のメタゲノムを解析し、4285の耐性遺伝子を確認した。
そのうち健康な(周産期出産、経腟分娩、抗生物質未投与)乳児272名の耐性遺伝子パターンは、0-7ヶ月の多化合物耐性期と8-14ヶ月のテトラサイクリン・ムピロシン・β-ラクタム優位期に分かれる。
筆者らはこれは腸内マイクロバイオームの変化の結果であると推測し、乳児らの年齢の増加(と食事の変化)に伴って耐性遺伝子も変化した。
(著者)Jinxin Liuら
Laboratory of Gastrointestinal Microbiology, College of Animal Science & Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing China
(雑誌名・出版社名)iMeta
(出版日時)2024 Jan 31
(コメント)乳児期の耐性遺伝子の多さはしばしば抗生物質治療の影響と思われることが多いが、健康な乳児でも耐性遺伝子を持つことを認識する必要がある。
腸内マイクロバイオーム ペットたちの健康と幸福のカギ?
[Review Article]
(タイトル)Gut microbiome – the key to our pets’ health and happiness?
(タイトル訳)腸内マイクロバイオーム ペットたちの健康と幸福のカギ?
(URL)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC11188957/
(概要)ペットと様々な疾患(C. difficile、IBS、心疾患、免疫系疾患など)と腸内マイクロバイオーム(主に細菌)の関連、その治療法についてのレビュー。
FMTについても言及あり。
(著者)Brett R Lomanら
Division of Nutritional Sciences, University of Illinois at Urbana-Champaign, Urbana, IL, USA
(雑誌名・出版社名)ANIMAL FRONTIERS
(出版日時)2024 Jun 20