ハイタッチ重視の組織におけるカスタマーサクセス最適化への挑戦~0.背景と課題、取組み全体像編~
こんにちは。のすけ(@sym_nishimura)です。
今年も残すところあと2ヶ月。あっという間ですね。
この記事では、今年1年かけて取り組んできたカスタマーサクセスの全体像について整理しようと思います。
(各詳細は別記事にしながら年末にかけて出していきたいと思っています。)
1年間取り組んでみての所感だけ先に書いておくと、ハイタッチで強みを出しているSLG体質な組織では、無理に1:Nに効く施策(いわゆるロータッチ/テックタッチ)だけで頑張ろうとするのではなく、いかにハイタッチを補完できる活動に位置づけられるかが重要なのではないか、ということを感じています。
(むしろ、ハイタッチが一番活きるポイントがどこかを考え、それ以外の部分でカバーできる領域を増やしていく試み)
大事なことなのでこれも前置きしておきます。
これから記載する取組みは全て社内の皆様のご協力、社外の皆様の素敵な情報発信からのインプット無しには成り立ちませんでした。
この場を借りて心より御礼申し上げます。
それでは少し長めかもしれませんがお付き合いください。
年初に考えていたこと
今年の初めに、こんな記事を書いていました。
その一節に、
と記載していました。
昨年はセールスマネージャーとして、目標達成と並行して若手のイネーブルメントを手掛けていたため、領域を変えてのチャレンジです。
※昨年書いた記事は下記です。
カスタマーサクセスの最適化、なんて言うとかっこよくは聞こえますが、カスタマーサクセスの思想自体は社内にはプロダクト誕生時から存在していました。
※顧客の課題を的確に捉え提案し伴走する「エージェントサービス」が立ち上がったのも、現社長を始めとする創業メンバーにカスタマーサクセスの思想があったからこそです。
では今のタイミングでなぜ『最適化』などということが必要だったのか?ということに触れてみます。
Synergy!のカスタマーサクセスの課題
企業のCRM活動を支援するシナジーマーケティングがメインで提供しているプロダクトである 「Synergy!」 は、2005年にプロダクトがリリースされたので、今年で18年目を迎えました。
国内のSaaSプロダクトの中でもかなり長寿な部類に入ると思います。
それ故に、今では界隈で当たり前となっている「カスタマーサクセス」という考え方が入ってくる前に現在の体制が出来上がったため、そこに対してどのように考え方を噛み合わせていくか、という今をときめくSaaSベンチャー企業とは異なる難しさも抱えています。
<余談>
「長寿」という観点での取組で言うと、ちょうど一昨年から2年半かけて、インフラのオンプレ→AWS移行を実現しました。現在は、2005年当初から残っているUIのモダナイズ化にも取り組んでいます。
話を戻します。
シナジーマーケティングの事業は大きく2軸で構成されています。
一つは「Synergy!」を通じてCRM活動を支援するクラウドサービス事業、もう一つはツール導入だけでなく、CRM活動をやりきるために必要なリソース/ノウハウを提供するデジタルマーケティング支援事業です。
※以降は伝わりやすいよう「プロフェッショナルサービス」と表現します。
その前提を踏まえて、これまで、および年初に抱えていた課題感を記載します。
セールスポジションが全顧客を担当する座組
当社の特徴でもあり社内的には課題でもあった部分、それが「顧客担当が全員セールス(つまりハイタッチ対応前提)」という点です。
以下イメージのように、「フィールドセールス(新規顧客)」と「カスタマーサクセス(既存顧客)」をどちらも見る役割として、フロント部門(当社で言うところのアカウントソリューション)が存在しています。
つまり、顧客担当という概念の細分化が図られていない状態でした。
背景としては、
Horizontal SaaSのため、各社のユースケースやゴール設定が異なる
そのため、お客様の業界や課題に合ったノウハウを蓄積しづらい
受注前から1名の担当で支援する方が、結果的にお客様の解像度を保ったまま伴走しやすい
という点から、新規対応から契約後の深耕活動までを一貫して担う体制が敷かれていました。
とはいえ、実際に取り組まれている方は共感いただけるかもしれませんが、ハイタッチには強みも弱みもあります。
<強み>
お客様1社1社の課題を把握し、オーダーメイドの支援で対応出来る
上記取組みにより、お客様との関係値を意識的に良くしていける
必要に応じデジタルマーケティング領域を踏まえた伴走支援が可能になる
<弱み>
契約社/アカウント数が増えていくに従って1社1社の把握が充分に出来なくなる
営業担当のリソース状況や優先順位により、対応が行き届かないお客様が生まれる
伴走支援を望めるほどの予算が無いお客様には目標設計上の問題(後述)により必然的に優先順位が低くなる
営業担当が情報を抱える構造になりがちで、SFAに充分な情報が落ちきらず、引継ぎ時の情報管理粒度がまばらになる
現在はアカウントソリューショングループ内で顧客担当の棲み分けが進んできましたが、細く長く10年以上ご利用いただいているアカウントも増えてきた中で、ハイタッチだけでは全てのお客様を支えることが出来ないことが顕在化していました。
<余談>
何を隠そう、自分自身がカスタマーサクセスを仕組みとして取り入れていく必要があると感じたのは、セールスポジションにいる中で「全てのお客様に均一なリソースを割くことの難しさ」「相談してくれるお客様が優先になり、それ以外が蔑ろにされる瞬間の存在」を否が応でも感じており、「局所突破の限界」を痛感したことが原点です。
新規売上を重視した目標設計
フロント部署(アカウントソリューション)メンバーは各事業に紐づく形で以下の目標を持っています。
フロント部署なので新しい売上を優先して作っていくべきなのですが、
どうしても、既存アカウントのMRR維持に関する文脈が弱くなります。
もちろん、メインで持っている指標ではない、という意味です。
メンバー単位でチャーンに関する目標を持っている人はいますし、
特に大型のチャーンが無いかどうかは常に目を光らせています。
また、プロフェッショナルサービスを装填して伴走することが結果的にLTV向上につながるという背景もあります。
ただ、上記のようにフロントとしてはプロフェッショナルサービス(つまり有償サービス)が装填出来ない既存顧客の優先順位を上げづらい構造が存在していました。
市場が飽和する前はこれでも良かったかもしれませんが、今ではカオスマップを見れば一目瞭然なように、CRM/MA/メールマーケティング/アンケートフォームなど対面する領域で競合が乱立しており、激しい戦いを余儀なくされています。
そんな中で、幅広く既存顧客にSynergy!を使い続けてもらうためのさらなる工夫が求められるフェーズに来ていました。
着任前に既に着手されていたこと
カスタマーサクセスという文脈で、既存顧客の利活用を進めていくための取組は昨年から進んでいましたが、立ち上げフェーズもしくは点での施策にとどまっていました。
それまでに着手していた施策は以下の通りです。
オンボーディング(プロダクト導入後のお客様に対する支援)
コミュニティ(開設&Slackでの運営&会員向けウェビナー開催)
既存アカウント担当者向けメール(ウェビナーや事例など利活用の情報提供)
未定着社向けセグメントメール(ログインやメール配信をしていないアカウントに対してのアプローチ)
2022年度に掲げたメインテーマ
これらも含めて、「カスタマーサクセスとして追うべき指標の数値化/設定による組織内での役割定義」と「既存顧客に使い続けてもらう/成果を出してもらうことを主眼においた各種施策の全体像可視化」をメインテーマとして、今年1年かけて様々な取組みを動かしてきました。
「1」のCSとして追いかけていく指標は全体と個別の取組みでそれぞれ設定していき、「2」の各施策の全体像可視化は顧客フェーズの整理と併せてプロットしていきました。
全体像紹介に当たっての前提
ひとつ前提をお伝えしておくと、今わたしが所属しているカスタマーサクセスグループでは、実は顧客担当を持っているわけではありません。
フロントの既存顧客支援チームが大多数の顧客を抱えており、そことメインで連携しながら活動しています。
ここはまさに組織体制がどうあるべきかの過渡期にある、という形です。
取り組んできたことの全体像(概要)
そんなわけで、今年取り組んできた内容の全体像がこちらです。
グループメンバーとしては私を含めて4名で進めてきました。
先程の「1.CS指標の設定」に関しては、大目標を「解約社数/金額の低減」、特に「"もったいない"解約(※)」と社内定義した解約の前年比での減少を目指して各施策のKPIに落とし込んでいます。
※解約時に取得している理由の記載欄にある「使いこなせない」「利用頻度が少ない」「費用対効果が出ない」などの、自社からのアクション次第でコントロール可能性のある理由を抽出して定義しました。
「2.各施策の全体像可視化」に関しては、契約後の顧客フェーズを、大きく「導入期」「試行錯誤期」「定着期」と表現し、各施策がどのフェーズの顧客のどんな課題に対してのものなのかを整理していきました。
(お困りごと拾い上げコンテンツの部分は、その一つ一つに対してどの顧客フェーズのお客様に必要なコンテンツなのかを定義して進めているので、わかりやすさ重視で1色で表現していますが、厳密には細かく色分けされています。)
結論としては、顧客ボリュームの大きな「導入期」「試行錯誤期」の顧客に対する施策を優先して取り組み、「定着期」の顧客についてはフロント部門でプロフェッショナルサービスの装填含めて取り組んでいくという棲み分けをしています。
全体を通じて意識していたことは、「利活用/成果創出に向けた課題を検知し、何らかの形でそれを解決し続けることにコミットすること」です。
使い続ける以上は何らかの要望や課題、いわゆる「お困りごと」が発生するので、それを「いかに拾うか」「解決していくか」を重視していました。
Synergy!はお客様に「分かりやすく」「使いやすい」プロダクトとして受け入れられながらも、「そんなことまで出来るの!?」という101点のサービスをプロダクト/人の両面で届けていき、その先にいるエンドユーザーとの関係性向上に向き合い続け、「マーケティングROIの最大化」を実現することを生業としています。
そこに責任を持てるような部隊にしていきたい!と、かなり色々なことをしてきたと思っているので、以下で簡単に紹介していきたいと思います。
詳細は別記事でそれぞれ年末にかけて書いていきます。
※もし気になるテーマがあればコメントなどいただけると嬉しいです!
1.オンボーディングフロー確立/標準化
昨年までは製品理解や設計に知見のあるメンバーが属人で対応していたこともあり、きちんとお客様に価値を届けきるためのフロー整備とそれを複数人でクオリティのムラなく実施する標準化の取組みが必要でした。
フロー化を通じた初期運用開始までのリードタイムの短縮
(Time To Valueの向上)複数人が均質なクオリティで対応出来るようノウハウの蓄積/フォーマット整備
を通じて、現在ではグループメンバーがオンボーディング対応出来るよう整備が進み、かつ実施したお客様からその後の相談やユースケース化/口コミ投稿いただけたりという「+の循環」が生まれ始めています。
また、既に存在していた初期の設計/設定代行などのプロフェッショナルサービスとの棲み分け整理も取組むべき課題として存在していました。
(ここが地味に整理難しいポイント…)
2.コミュニティ運営&活性化
2021年の春から開設したSynergy!利用者向けのオンラインコミュニティ「シナコミ!」の運営も実施しています。
当初はお客様同士での積極的な意見交換による社内工数の削減、などと自社起点で夢物語も考えていましたが、そこからの立ち位置の転換というのが何度もありました。
特に自社ミッションである「Create Synergy with FAN」を一部でも体現することでお客様も足を運びたくなる場所になれないかと現在も試行錯誤しています。
以下は社内で取材してもらった1記事です。参考までに御覧ください。
3.状態把握/課題蓄積フロー構築&お困りごと拾い上げコンテンツ企画
プロダクト誕生から18年目を迎えると、ありがたいことにお付き合いを始めてから10年以上も経過しているお客様も一定いらっしゃいます。
ただ、両社の担当変更や優先順位の変化に伴い、時間を経るにつれて関係性は希薄化し、数年の間どのようにご利用いただいているか追い切れていないアカウントも一部存在しています。
昨年度はヘルススコアにも取り組んでみましたが、うまくアクションにまでは落とし込めず活用出来ないままでした。
上記を踏まえて今期は以下に取り組みました。
(フロントチームとも連携しながら)お客様の状態を把握して蓄積する仕組みづくり ※Salesforce中心に整備
お客様の状態を拾い上げるきっかけとなる、今抱えているであろうお困りごとに仮説を立てたコンテンツの企画
特に既存のお客様内での担当変更やユーザ追加時の立ち上がりを支援するコンテンツの拡充
その結果、代理店商流を除く直販アカウントについては上記活動を通じて全体の2~3割程度のカバー率を見込めており、フロントチームが元々カバーしている領域を含めると少人数でありながら一定の効果は出せたのでは無いかと思っています。
4.CX[顧客体験]の事業貢献度可視化
全体像でも書いたように、今期の目標地点は「”もったいない”解約の減少」でしたが、これだけだとなかなかカスタマーサクセスとしての貢献を広げていくことは難しいと感じています。
なぜなら、昨年度時点の「”もったいない”解約」のMRRを仮に500万とすると、最大でも貢献度は500万/月がMAXになるからです。
(つまりアッパーが規定されるということ)
なので、「いかにトップライン向上にも貢献できる立場か」を証明していくことがカスタマーサクセスにも求められていると感じます。
いわゆる、今後のエクスパンション(アップセル/クロスセル/新規アカウント獲得)のために何が出来るか、という観点ですね。
この「いかにカスタマーサクセスが事業貢献するか?」というテーマに対して、直接的なエクスパンションとはまた少し異なる観点から明らかにしてみようという試みを、ジョン・グッドマン氏の「顧客体験の教科書」の考えも一部取り入れながら、「お客様満足度調査」の文脈で実施をしていきました。
ここはわりとチャレンジで今まさにレポーティングの真っ只中なので、皆様にもお伝えできる範囲で共有出来ればと思っています。
5.カスタマーサクセスの浸透/地位確立
ここは少し社内向けの目線も含まれるのですが、他の部隊よりもカスタマーサクセスという部隊が社内においては新興勢力であることもあり、何をするにも周りの協力が無いと進まないですし、当初は事業寄与可能な目標も持てていない状態でした。
そんな中で、「重要だけど手が回りづらい部分への連携/貢献」を意識しながら、社内的にハブとなれるように各所と以下のような取組みを進めていきました。
マーケティングに活用可能なユースケース/口コミの吸い上げ
フィールドセールスやハイタッチ担当の負担軽減/トスアップ
デジタルマーケティング支援部隊の知見/ノウハウの還元
プロダクト企画との取組み共有/新機能開発や利用促進に向けた連携
プロダクトフィードバックサイクルの浸透
これらを取り組んでみた詳細や変化について、ざっくばらんに書き留められればと思っています。
2022/12/12追記
記事を書いたので載せています。
まとめ
ということで、改めて全体像を再掲します。
まだまだオペレーション周りなど課題も多いですが、市場におけるカスタマーサクセスのプラクティスを自社なりに解釈して取組んでいる最中です。
※書いてて思ったのですが、参考にさせてもらったnoteや勉強になったコミュニティが数え切れないほどあるので、今後取組まれる皆様のためにまとめるのも面白いかも。
こういう取組みを実施するにつけ、他社の皆様がプロダクトのグロース期から今後のスケール/仕組み化を見越してOpsを役割として持たせていることの凄さを感じます。w
とはいえ、自社にカスタマーサクセスという概念をどう持ち込めば良いか分からなくて悩んでいる方々もいらっしゃるとは思うので、その方たちに向けて一例としてご参考いただけると嬉しく思います。
具体的なお話や意見交換はいつでもウェルカムですので、お気軽にリプライやDMお待ちしております!
※たまにバスケやスポーツの話題で騒いでますが、ご愛嬌ということで。
それでは、年末にかけて執筆圧を自分にかけながら頑張ります。w
次回は「1.オンボーディングフロー確立/標準化」についてです。
ここまで読んでくださった方ありがとうございました!!
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