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4月18日(短編)

昼過ぎまでぐっすり眠って目を覚ますと、隣に知らない人がいた。

「あれ、誰ですか?」と声をかけると、知らない人も目をこすりながらムクリと起き上がって、「またそうやって~」と笑うから、どうやら私に非があるらしい。

「お茶、もらうよ」そう言って、私の部屋の中を普通に歩き回る知らない人。あまりに当たり前の様子で振る舞うので、もしかすると私の同居人かもしれないと思い始め、しばらく一緒にいることにした。

それでも私の少し落ち着かない様子を察したのか、
「昨日は散々だったね」と知らない人。「ああ」と情けない相槌を打ちながら、私は昨晩の苦い記憶を振り返る。

まったくだ、昨日は要らぬ酒を散々飲まされただけで、大して楽しい記憶はない。あんなところ、もう二度と行くもんか。

そんな愚痴を心の内でぼやいていたら、「大丈夫、全部うまくいくから」と、知らない人がニヤリと笑って言った。

「え、ありがとうございます」と私。

「いえいえ」と知らない人。

「本当に、このままで大丈夫なんですかね」と私。

「心配するな」と知らない人。

その後も知らない人は、優しい言葉だけを投げかけてくれて、私はただその言葉を聞いていた。

日が陰ると「じゃあそろそろ。」
知らない人はそう呟いて、お茶の礼を言うなりそそくさと帰っていってしまった。

6畳一間のアパートが、急に広く感じた。
締め切った部屋のはずなのに、春らしい柔らかな風が吹いた気がした。
結局あの人が何者だったのかは分からないけれど、きっと未来の自分か何かだったのだろう。私はそのままもう一度、ぐったりと眠りについた。

4月18日の出来事だった。

***

新曲、リリースされました。

418 (Remix)
Song: Hiroi Gen
Lyric: Katayanagi Hirotaka
Available on Apple Music, Spotify, etc.

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